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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

障がい者の地域生活に向けた予算はどこまで配慮されたか

木村昭一

1 はじめに

「障害者自立支援法」が施行されて2年が経ち、障がい者団体を中心としてその崇高な理念と施行された法の実態の乖離に対して見直しを求める運動が全国的に広まり、昨年12月与党自民党プロジェクトチームから抜本的な見直し案が出された。

見直しの視点としては、施行3年後(21年度)の見直しに向けた基本的な課題を整理してきた。主な視点として1.介護保険との統合を前提としない、2.利用者負担をさらに軽減し応能的な性格を高める、3.サービスの報酬単価を改定する、といった内容であった。これらを受けて厚労省が20年度予算案を出してきた。20年度予算は自立支援法の理念である地域生活を望むすべての障がい者の願いに答えるような一歩になっているかを、知的障がい者を日々支援している立場から検証したい。

2 サービスの負担金は

まずサービス負担金の軽減策については、居宅サービス利用者を中心に軽減策をとられているが、応益負担としてのサービス負担金の是非の議論は今後も続くと思われる。しかし、その前提である地域で暮らす障がい者の所得保障問題として負担金問題を考える必要がある。

たとえば障害年金2級の方で一般就労は難しく作業所で1か月1万円の報酬をもらっている人や、自閉症で知的能力はあるものの人との関係やこだわりのため作業所さえ行くことできないでいる人など、見た目の自立度から障害年金2級に判定されてしまう人たちはいくらでもいる。これらの人は月々6万から7万円で生活をしなければならない。この人たちが親元を離れグループホームやケアホームで生活すると生活費は赤字になるのは必至であり、生活保護以下の生活水準が待っている。これらの人からも応益負担として、今回の改訂でも最低1,500円を求められるのである。

一方、こうしたレベルの人が入所施設を利用すると負担金はかからず、それどころか小遣いとして使えるお金が2万5千円残るように生活費そのものが補給されるようになっている。つまり最低生活が保障されているわけである。これは当然のことであり、施設生活といえども個別の文化的なニーズには財政的に答えていく必要がある。しかし、地域での自立した生活を支えるとした自立支援法の目的からいって生活費を支える(補給する)という考えがないのはどうしてだろうか。地域で生活できる所得保障基盤はあまりにもお粗末な実態ではなかろうか。

障害年金1級の方といえども大差はないといえる。地域での自立した暮らしを支えるグループホームやケアホームの家賃は、札幌では相当に負担である。1人2万から2万5千円で10万円以上の家賃を払っているのが現状で、年金だけで暮らしている人たちにはかなりの負担であるが、20年度予算では今のところ何も手は加えられなかった。すでに、一部の自治体で実施されている住宅家賃補助が国において制度化されることを切に望むものである。

3 暮らしと日中活動を支えるサービスの中身は

次に、サービスの中身からどこまで地域生活が保障されるようになったか。暮らしの場としてのグループホームやケアホームでは、事業者の報酬単価はグループホームを中心に軒並み減収であったが、90%の保障システムにより何とか生き延びているものと思う。また20年度ではグループホーム、ケアホームの新設の整備予算が初めてついた。これは今まで重度障がい者の暮らしの場としての入所施設整備には国庫補助制度があり、それらが凍結され、新たな暮らしの場が既存の借り上げ住宅を中心に進められていたが、ここにきて新設の補助制度が動き始めたことは、バリアフリー環境を必要とする重度の障がい者にとっては朗報である。しかし予算では、各自治体の財政事情を勘案するとせいぜい1、2か所である。一方、既存の建物を改修してケアホームやグループホームを立ち上げることに対しては、各自治体の持ち出しも含め、最低でも200万円以上予算化されているのは大いに歓迎すべきことである。

日中活動サービスでは、報酬単価が月額から日額になったことによる減収と単価の引き下げが新体制移行をためらっている最大の原因であった。今回の予算では、定員増のさらなる弾力化により結果として4%引き上げるということになったが、どこまでそれがカバーできるか疑問でもある。

4 余暇を支えるサービスは

最後に、地域で生きるために必要なサービスとして、街の中を安全に移動するサービスがどこまで改善されたかである。在宅やケアホーム等から一歩玄関を出たならばそこは地域であり、安全と満足度を計りにかけながら直接介護と見守りにより楽しい外出を支援していく。これは地域での自律した生活を支えるために欠かすことのできないサービスである。つまり移動支援は地域生活支援の原点である。

自立支援法では障がいの重い人を対象にした行動援護サービスがある。このサービスは本来、地域でのさまざまなルールや楽しみ方が理解できない人たちに対する包括的な支援であるはずだが、実際は、行動面で重篤な問題がある人に対する安全を前面に掲げたサービスで、対象者は極めて限られている。それ以外の人たちは、市町村の移動介護支援事業を利用することになっている。財政難にあえぐ市町村はこの事業の利用制限をエスカレートしている。その意味では、20年度予算でまずは、行動援護サービスの対象制限を緩めることから始めなければならないと思う。

(きむらしょういち はるにれの里)