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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

平成20年度予算の概要を見て

山岡修

1 国の発達障害への取り組み

平成17年4月に発達障害者支援法が施行されたのをきっかけに、厚生労働省は、平成18年6月に事務次官を本部長とする部局横断的な「発達障害対策戦略推進本部」を設置する等により、各部局で積極的に発達障害支援に取り組んでいる。また、文部科学省も、特別支援教育体制推進事業、学校教育法改正を受けた特別支援教育への制度転換、LD・ADHDを通級の対象として加えたほかに、特別支援教育支援員の配置や各種の新規事業に取り組んでいる。国全体としては緊縮予算になっている中で、発達障害関係についてはここ数年新規事業や事業の拡充が毎年あるなど、目立つ存在になってきている。

本稿では、発達障害支援に関する厚生労働省関係の20年度予算内示額の概要と、これからの課題について触れてみたい。

2 平成20年度の厚生労働省発達障害関係予算の概要

(1)発達障害者の地域支援体制の確立

文部科学省の事業とも連携して、都道府県・政令市への委嘱事業である「発達障害者支援体制整備事業(210百万円)[平成17年度~]」、「発達障害者支援センター運営事業(地域生活支援事業の内数、[平成14年度~])」などにより発達障害者の地域支援体制整備を図っている。なお、発達障害支援センターの設置は、19年度中に全国47都道府県の各県に1か所以上の設置が完了している。

また、発達障害だけが対象ではないが、さまざまな子どもの心の問題、児童虐待に対応するため、都道府県ごとに専門性の高い拠点病院を整備する「子どもの心の診療拠点病院の整備(母子保健医療対策等総合支援事業の内数、[新規])」が新規事業として盛り込まれた。

(2)発達障害者への支援手法の開発や普及啓発の着実な実施

発達障害者への有効な支援手法の開発・確立を狙いとし、15地域でモデル事業を行う「発達障害者支援開発事業(520百万円)[平成19年度~]」、発達障害に関するナショナル・センターとして発達障害に知見の集積、HPの開設等を通じ情報提供、普及啓発活動を行う「発達障害情報センター事業(49百万円)[平成19年度~]」、発達障害施策に携わる職員に対する研修を、秩父学園、障害者職業総合センターで行う「発達障害研修事業(18百万円)[平成17年度~]」、に加え、青年期発達障害者の職業的自立を図るための就労支援モデル事業を国立身体障害者リハビリテーションセンターで行う「発達障害者就労支援モデル事業(43百万円)[新規]」が新規事業として盛り込まれた。

(3)発達障害者の就労支援の推進

ハローワークに就職チューターを配置し、発達障害等の希望や特性に応じた専門支援機関への誘導やきめ細かな就職支援を実施する「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム(85百万円)[平成19年度~]」、発達障害者支援センターにおいて講習や交流会を行う「発達障害者就労支援者育成事業(12百万円)[平成18年度~]」、一般の職業能力開発校において、発達障害者を対象とした職業訓練を行うモデル事業を実施する「一般の職業能力開発校における発達障害者を対象とした職業訓練モデル事業(106百万円)[平成19年度~]」は、実施校が昨年の3か所から8か所に増やされた。

3 発達障害支援の現状とこれからの課題

発達障害は、数年前までは制度の谷間に置かれ、支援の対象となっていなかったことを考えると、ここ数年で国が支援の対象として認識し、各種の支援事業を展開していることは、大きな前進である。しかし、個々の事業を見て行くと、地域限定や数か所でのモデル事業的なものが多く、全国の各地域に普及しているものは少なく、個々の発達障害のある人の実感としては、あまり以前と変わっていないというのが実感であろう。

発達障害児者支援が目指すべき姿は、日本中のどこに住んでいても、発達障害のある人が、その一人ひとりのニーズに合わせた、一貫性のある適切な支援を受けることができ、生き生きとした自立した社会生活が送れるような社会の実現である。

これからすると、発達障害者支援はまだ緒に就いたばかりであり、まだ模索の段階といっても過言ではない。また、発達障害は障害として認知されつつあるとは言え、三障害を中心とした制度の仕組みの中では、まだ蚊帳の外に置かれているというのが実態である。

20年度は発達障害者支援法の見直しが予定されている。障害者自立支援法の見直しも行われる予定であることから、これを機に発達障害を障害施策の中の位置づけを明確化し、発達障害者支援が、模索の段階から普及の段階に進む年になることを願っている。

(やまおかしゅう 日本発達障害ネットワーク代表)