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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

平成20年度障害保健福祉関係予算から何が見えるのか

平野方紹

平成20年度予算を審議する通常国会は、平成20年1月に開幕しましたが、その主要な論点はガソリン税の暫定税率から道路特定財源問題へと、わが国の社会資本整備のあり方をめぐる論議にまで発展し、与野党間のみならず、地方自治体も巻き込んで展開されました。その道路整備計画は、10年間で59兆円を投入しようというもので、仮に1日100万円を使っても、1兆円を使い切るには2739年(!)もかかることからも分かるように*1、私たちの日常の生活感覚からはとても実感できない世界です。しかし、その巨額のお金も本をたどれば、ガソリン1リットル当たり15円程度の税から始まっています。このように一見、私たちの生活とはほど遠いような財政や予算の世界ですが、実際には密接に関わっています。そこで、20年度予算を中心に、障害者に関わる制度や政策の動向について分析してみましょう。

1 平成20年度予算の全体的動向

(1)突出した障害保健福祉予算の伸び

20年度予算の概要を見てまず気付くことは、その「突出」ぶりです。社会保障予算全体は、小さな政府を目指すという「骨太の方針」により、自然増などがあっても2,200億円の削減という厳しい方針のため、20年度の社会保障予算費全体は21兆6,132億円と前年度当初比で3.1%増に抑えられました。また、社会保障内の福祉関係予算は前年度当初比で5.2%増ですが、障害保健福祉関係予算は、6.7%増と社会保障全体、あるいは福祉分野の伸びを大きく上回っています。特に障害福祉サービス関係費は前年度当初比で9.7%増となっており、その伸び率は特徴的です。国立社会保障・人口問題研究所京極高宣所長は「障害者自立支援法にはさまざまな批判もあるが、3年間で1800億円予算が増えた。来年度は医療保険分野を除いて障害福祉サービス費が5000億円台の予算となり、これは日本の福祉歴史はじめてという飛躍的に伸びた」*2と高く評価しています。しかし、そうそう単純ではないようです。

(2)障害福祉サービス費の奇怪な動き

ここで京極所長が評価した障害福祉サービス費の内訳を分析してみましょう。表は、障害福祉サービス費の各項目について、19年度当初予算、20年度概算要求(厚労省から財務省への要求額)、20年度予算を整理したものです。

  19年度当初 20年度概算 20年度予算 当初比
自立支援給付 4,473億円 4,882億円 4,945億円 10.6%増
地域生活支援事業 400億円 450億円 400億円 ±0
自立支援医療 1,313億円 1,350億円 1,414億円 7.7%増

ここで「奇怪」なのは、自立支援給付と自立支援医療です。20年度予算額が概算要求額を上回っています。つまり、厚労省が要求した以上に財務省が予算をつけたのです。年度途中で制度改正があれば本来は補正対応ですので、今回の措置には違和感があります。考えられることは、1.官庁レベルではない、政治レベルでの決着があった、2.補正ではなく、年度当初から打ち出されるものでなければならない、ということです。つまり昨年12月に与党プロジェクトチームが打ち出した「障害者自立支援法見直し案」の一部を先取りして入れてあると考えられると同時に、その「上積み分」を見るなら、見直し案のすべてが実現される訳ではないことも読み取れます。

(3)20年度予算の新規事業を見てみると

20年度の新規事業は次の3つに整理できます。1.北京パラリンピック関係事業費が盛り込まれた、2.自殺対策の人材育成経費が盛り込まれた、3.精神障害者の就労や地域移行支援の充実が盛り込まれた、ということです。

ここで注目すべきは精神障害者対策です。20年度には新規事業の「精神障害者地域移行支援事業」に、入院障害者の退院・地域生活移行促進のため、17億円が計上されています。これと合わせるかのように、グループホーム等の整備促進費30億円が計上されています。立ち遅れた精神障害者分野を手厚くすることは必要ですが、精神障害者の地域移行を進めるのであれば、ただ退院させ、グループホームに移せばよいというものではなく、日中活動の場やケアマネジメントなどの福祉サービスの充実が求められます。医療からの移行を図る姿勢には、厚労省の推進する医療保障制度改革や生活保護改革が肩越しに見えます。なお、20年度から「社会福祉法人経営支援事業」が計上され、いよいよ社会福祉法人の再編を推進する「社会福祉法人改革」が本格化することになり、1法人1施設の中小法人が多い障害福祉分野への影響に注意が必要です。

2 特別対策はどうなるのか

18年12月に1,200億円の巨費を投じた「特別対策」ですが、予算上は出てきません。これは、国が1,200億円を各地方自治体に配分し、各自治体はそれを「基金」という貯金にし、それを19・20年度で取り崩していくという別会計にしたためです。ですから実際の国の障害福祉サービス費は「障害福祉サービス費+特別対策費」となります。しかし、問題点もあります。1.総額1,200億円という定められた上限があり、これ以上の事業を行えば自治体の持ち出しとなる、2.基本的には自治体への「渡しきり資金」であり、自治体のサービス給付との整合性はない。また特別対策の継続を18年度同様、省内の不要財源を集めてやるとすれば、予算議論がないままの執行となり、財政ルールの及ばない領域を障害保健福祉分野に作ってしまうことになります。障害保健福祉の財源確保は重要ですが、同時に地方分権の中で、どのような財政ルールがよいのかを考えなければならないでしょう。

(ひらのまさあき 日本社会事業大学)

*1「しんぶん赤旗」2008年2月22日号「潮流」

*2「障タイムズ」(日本障害者センター)Vol.24 2008年1月25日