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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

NPO法人Checkの取り組み
―Check A Toiletユニバーサルデザイントイレマップ―

金子健二

私が代表理事を務めるNPO法人Checkは、企業や自治体、ボランティア団体などの協力を得て全国の車いす対応のトイレ情報をまとめ、フォーマットを統一し公開していこうとするインターネットプロジェクトを管理・運営しています。

多機能トイレ・車いす対応トイレの情報や地図は、地域の有志や自治体によって作られていますが、情報が統一されていない、何年も前の情報でその後更新されていない、隣接する自治体同士の境界線上にある情報が抜けている、といったさまざまな問題点があります。その現状を少しでも変えられないか。また、車いすの方が気軽に外出できるような情報を提供していけないか、という思いで、私たちは2007年6月「Check A Toiletユニバーサルデザイントイレマップ」のサイト(http://www.checkatoilet.com/)をオープンしました。

[CAT」-プロジェクトのイメージイラスト
[CAT」-プロジェクトのイメージイラスト拡大図・テキスト

5000通のメールを送った結果、210社の企業、15か所の自治体から「情報提供」を受けることができ、車いす対応のトイレマップをサイトで公開しています。現在、全国各地(首都圏、名古屋、大阪が中心)のJRや私鉄の駅、空港、高速道路などの交通機関、コンビニやホテル、デパートなどの商業施設、公園や福祉施設などのトイレ情報をインターネット上で検索できます。知りたい場所を検索し、地図上のピンをクリックすると、段差の有る無し、扉の形式、スペース、手すりの有無などトイレの詳しい情報ページが開きます。さらに、利用者が実際に行って確認した、人に聞いたといった「クチコミ情報」の信頼性も分かるようにしました。トイレによって情報の充実度は違いますが、今後も自治体・企業からの「情報提供」、利用者からの「クチコミ情報」を呼びかけていこうと考えています。何度でも情報を更新できるのが、Check A Toiletユニバーサルデザイントイレマップの魅力です。

ところで、なぜ、私がこのようなプロジェクトを始めたのか、お伝えしなければなりませんね。以前は、旅行会社の営業マンでした。営業のノルマ達成に追われる毎日の中で、車いすユーザーの方々の旅行プランを担当することになり、特にトイレの情報がないと安心して旅行していただけない、という現実にぶつかりました。

人間、だれでもトイレがなくては生活できません。特に高齢の方の場合、1時間に1回はトイレを使います。しかし、車いす対応のスペースを持ったトイレがどこにあるのか、その情報を得るには自分で直接行って調べなければなりませんでした。

しかも、一口に車いすユーザーといっても、障がいによって何を必要とするかは異なっていることが、だんだん分かってきました。また、車いす対応トイレがあっても、本当にユーザーの人が使いやすいとはいえない場所もたくさんありました。たとえば、商業施設の2階に車いす対応トイレがあるのに、エレベーターがないので2階へ上がれない。センサーで動くドアの開閉ボタンが、ズボンを降ろそうとしたときに反応する。介助する人とのプライバシーを守るカーテン付きトイレも非常に少ないことも分かりました。

もともと社会に貢献できる仕事をしたい、と思っていた私は、車いすの方対象の旅行企画で役に立つ喜びを実感するうちに、この仕事を自分の専門にしたいという気持ちが強くなっていきました。だれでも、いつでも、どこにいてもトイレ情報にアクセスできるようにしたい。それには、インターネット上で検索できるシステムがよいと気がつき、システム制作のノウハウを学ぶためにシステム会社へ転職した後、2006年に独立しました。その間に、だれでも簡単に情報を発信できるサイト(ブログ、SNSなど)が急速に普及するなど、インターネットの利便性が高まっていたことも、思い切って会社を辞めるきっかけになりました。

手始めに東京23区のボランティア団体を回り、協力者を探しました。自分の足やクチコミで見つけるには限界があるからです。地域や車いすの方のニーズをヒアリングしながらトイレチェックシートのフォーマットを作り、事業計画を練りました。名古屋のアイラインというシステム会社に依頼して地図システムを開発してもらい、友人たちの協力を得てサイトを作りました。そして、企業からは資金や情報提供、ボランティア団体や自治体からは情報提供を受け、システム管理は私たちが行います。

トイレマップ チェックシート

信頼性 聞いた・見た・使った
確認日  
場所名  
ジャンル 交通機関・飲食店・レジャー施設・ビル・オフィス・ショッピング施設・宿泊施設・公共施設・住宅・神社・寺院・学校・医療機関・福祉施設・その他
トイレの表示 車いす対応トイレ・多機能トイレ(誰でもトイレ)・オストメイト対応トイレ
男女別 男女共有・男女共に設置・男性側に設置・女性側に設置
トイレまでのバリア 段差なし(5mm以下)・段差あり(5mm以上)
スロープあり・バリアあり(車いす移動不可)
スライド式・電動式・アコーディオンカーテン・60cm以下(車いす移動不可)
スペース 介助者1人分スペース(片側500mm以上)
介助者2人分スペース(車いす移動可能)
介助者3人分スペース以上(電動車いす回転可能)
手すり(壁側) にぎりレバー(横型)・にぎりレバー(縦型)
L型手すり T型手すり・U形手すり・手すりなし
手すり(移動) 可動手すり(水平に可動)・可動手すり(上下に可動)
T型手すり・U形手すり・手すりなし
便座 右側からアプローチ(座って左に可動手すり)
左側からアプローチ(座って右に可動手すり)
前方アプローチ(両側に固定手すり)
温水洗浄便座
トイレ内設備 オストメイト洗浄設備・非常呼出ボタン・点字案内
ベビーシート・介助シート(パブリックシート)
荷物置き・トイレ内カーテン
トイレ外設備 点字ブロック駐車場・車いす対応駐車場・授乳室
利用時間  : ~ :
備考  

去年の11月10日、資生堂の社内ボランティアグループと横浜の自立生活センター「自立の魂 (じりたま)」の合計12人が横浜みなとみらい地区でトイレチェックイベントを行いました。

イベントの目的は、トイレマップ情報を充実させるだけでなく、楽しみながら障がいのある方と一般の方がふれあい、お互いのことをよく知ってもらうことにありました。障がいのある方の役に立ちたいと思っているのに、障がいのある方が何を求め、何に不自由しているか知らない人は大勢います。資生堂の方たちは、障がいのある方が、トイレに必要とするものが一般の人と違うことを具体的に知り、驚いていました。ベビーベッドがあるので車いすが入りにくい、手すりが片方しかないので介助の道具としては不便である。新鮮な発見を共にすることが喜びにつながり、トイレ探しがまるで宝探しのように盛り上がりました。

イベントが終わった後、資生堂の方から感想をいただきました。「散歩感覚でチェックができた」とイベントを楽しんでいただけた声もあれば、「なかなか障がいのある方に接する機会がないので、こういう形で貢献できれば」という声もありました。また、「じりたま」代表の磯部さんからは、「このシステムが発展することで、障がい当事者である私も安心して外出ができるようになると思います」と、コメントを寄せていただきました。この仕事に携わる確かな手応えを感じています。

もちろん、呼びかけたすべての企業や自治体から協力が得られるわけではありません。しかし、県の福祉担当から、「ぜひ情報を活用してください」という返信がくるなど、自治体へ送ったメールの3分の1に返信があったのには驚きました。社会貢献をアピールできるというので関心を示してくれる企業もあります。

3月からは、サイバーマップ・ジャパンの協力を得て、携帯電話からも車いす対応トイレが検索できるようにします。企業に呼びかけ、ユーザーの要望を反映した新たな車いす対応トイレの設置も計画中です。この事業は何より継続することが大切です。今後も、企業と自治体、障がいのある方と一般の方をつなげる試みを続けていきます。

(かねこけんじ 特定非営利活動法人Check代表理事)