音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

大学における障害学生の受け入れ状況

殿岡翼/西村伸子

1 在籍状況

2006年4月現在、日本には745校の大学(大学校含む)があります。ここでは、全国障害学生支援センターが行ってきた「大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査」から障害学生の状況を見ていきます。2008調査では、回答のあった432校のうち、障害学生が在籍している大学は295校で、人数は2156人です。そして、障害学生が在籍している大学の、1大学あたりの平均在籍人数は7.3人です。障害別の内訳は表1の通りで、障害種別によって在籍人数にばらつきがあることが分かります。

表1 障害学生の在籍状況(2008調査より抜粋)
※「在籍あり」と回答した大学295校の内訳

障害種別 大学数(校) 人数(人) 平均在籍人数(人)
肢体障害 235 756 3.2
聴覚障害 180 543 3.0
内部障害 87 355 4.1
視覚障害 101 222 2.2
発達障害 33 110 3.3
精神障害 25 78 3.1
重複障害 22 24 1.1
知的障害 0.8

注:大学数の中には、障害学生の数を「人数不明」と回答したものを含む。

障害種別を問わず特徴的なのが、在籍総数の多い障害では、1大学に複数の障害学生が在籍していることです。平均在籍人数の推移を2005調査以降で見ると、視覚障害と聴覚障害は2005から2008調査で0.2人、肢体障害は0.4人、内部障害は1.8人増えています。このことからも、特定の大学に障害学生が集まる傾向が進んでいることが分かります。

2 受験時の対応

2008調査では、2005・2006年度に受験した障害学生が、283校の大学に1814人います。障害学生の受験を認めるかどうかは大学によって異なります。各障害別の状況は表2の通りで、最も受け入れのよい肢体障害でさえ、受験を認めている大学が244校(回答大学の56.5%)、現時点では認めるかどうか未定=可否未定の大学が181校(41.9%)、受験を認めていない大学が7校(1.6%)あります。

表2 障害学生の受験可否(2008調査より)

  受験可 受験可否未定 受験不可
大学数(校) 有効回答比 大学数(校) 有効回答比 大学数(校) 有効回答比
肢体障害 244 56.5% 181 41.9% 1.6%
聴覚障害 230 53.2% 187 43.3% 15 3.5%
視覚障害 194 44.9% 218 50.5% 20 4.6%
内部障害 188 43.5% 233 53.9% 11 2.5%
精神障害 112 25.9% 284 65.7% 36 8.3%
発達障害 85 19.7% 305 70.6% 42 9.7%
知的障害 78 18.1% 301 69.7% 53 12.3%

2002調査以降の受験可否の動向は、大きく分けて二つあります。一つは「受験可の大学が減って、可否未定の大学が増える」傾向です。これは、視覚・聴覚・肢体・内部障害に共通して見られます。視覚障害を例にとると、受験可の大学は、2005調査で回答大学の50.3%だったのが、2008調査では44.9%になっており、受験可の大学が5.4ポイント減っています。一方で、受験可否未定の大学は逆の動きをしており、2005調査では45.1%、2008調査では50.5%で、5.4ポイント増えています。そして受験不可の大学はほぼ横ばいです。

もう一つは、「受験不可が減って、未定が増える」傾向で、知的障害と発達障害にみられます。知的障害を例にとると、受験可が、2005から2008調査で0.6ポイント減ったものの、ほぼ横ばいで、可否未定が4.4ポイント増え、不可は3.8ポイント減っています。このように、受験については障害種別を問わず、可否未定の大学が増え、障害学生の状況を見た上で、大学でできる配慮内容を検討してから受験可否を判断したい、という大学が増えています。

入学試験については、配慮する大学が多く、その数も年を追うごとに増えています。しかし、具体的配慮項目への回答実数が少なく、回答中の大学からのコメントには「実際に受験希望者が出てから検討する」という内容も多く、入学試験での配慮の実施には多くの課題が残されています。

次に、入学試験での配慮について、肢体・聴覚・視覚障害学生への対応と2002調査以降の推移を具体的に見ていきます。

【肢体障害受験生への配慮】

2008調査では、肢体障害学生の受験可と可否未定に答えた大学425校のうち、試験時に配慮する大学は350校(82.4%)で、3障害の中で最も高くなっています。2002調査以降、「配慮あり」の推移を見ると、2002から2005調査で5.6ポイント、2005調査から2008調査で1.8ポイント増えています。2008調査で回答のあった具体的配慮内容と2002調査以降の推移は、表3の通りです。これは「試験時に配慮する」と回答した大学が実施可能と答えた具体的配慮内容の抜粋で、上肢障害の場合に高いニーズのある解答方法と、回答実数の多かった配慮項目上位三つを抜き出しています。個々の障害の状況によってニーズが大きく異なる肢体障害。解答方法にもバリエーションが必要ですが、配慮実数はそれほど多くありません。受験生の能力が十分に発揮できるよう、試験内容によっても複数の解答方法を組み合わせるなど、柔軟な対応が望まれます。

表3 肢体障害受験時配慮内容と推移 ※「入学試験で配慮あり」と回答した大学350校の詳細

  2008実数 有効回答比 2005→2008 2002→2005
拡大文字用紙に解答 52 14.9% 2.0pt 2.0pt
チェックによる解答 32 9.1% 0.9pt 0.8pt
代筆での解答 19 5.4% 0.1pt 1.1pt
パソコンによる解答 16 4.6% 0.6pt 0.2pt
車での来校を認める 149 42.6% 1.3pt 1.7pt
試験室入り口までの付き添いを認める 137 39.1% 1.2pt 4.2pt
別室受験 132 37.7% 3.4pt 3.9pt

一方、2002調査以降の推移は、3障害で唯一、すべての項目で伸びています。「別室受験」と「拡大文字用紙に解答」は2002調査以降、同じようなペースで増えています。肢体障害学生への配慮は、在籍する学生も増えていることから、二つがよい意味で影響しあっているようです。

【聴覚障害受験生への配慮】

2008調査では、聴覚障害学生の受験可と可否未定に答えた大学417校のうち、試験時に配慮する大学は332校(79.6%)です。2002調査以降、「配慮あり」の推移を見ると、2002から2005調査で4.3ポイント、2005調査から2008調査で1.6ポイントと、調査年による差はあるものの、配慮する大学は増えています。2008調査で回答のあった具体的配慮内容と2002調査以降の推移は、表4の通りです。これは「試験時に配慮する」と回答した大学が実施可能と答えた具体的配慮内容の抜粋で、試験上必要なコミュニケーション方法に焦点をあてた項目と、回答実数の多かった配慮項目上位三つを抜き出しています。聴覚障害をもつ受験生特有のニーズである、コミュニケーション上の配慮が極めて少ないことが気になります。

表4 聴覚障害受験時配慮内容と推移 ※「入学試験で配慮あり」と回答した大学332校の詳細

  2008実数 有効回答比 2005→2008 2002→2005
面接時の筆談 66 19.9% 2.1pt 2.4pt
手話通訳者の利用 18 5.4% 1.6pt 0.7pt
手書き要約筆記者の利用 11 3.3% -1.2pt 1.0pt
パソコン通訳者の利用 0.9% 0.2pt 0.7pt
座席位置の配慮 141 42.5% 4.8pt 1.1pt
補聴器の使用 126 38.0% 2.8pt -1.4pt
注意事項の文書伝達 104 31.3% -1.1pt 0.7pt

また、2002調査以降の推移をみても配慮増減は少なく、「座席位置の配慮」が2005から2008調査で唯一、大きく伸びています。また、筆談での面接は少しずつ増えていますが、受験生にとって最も適した方法が取られることを望みたいものです。

【視覚障害受験生への配慮】

2008調査では、視覚障害学生の受験可と可否未定に答えた大学412校のうち、試験時に配慮する大学は324校(78.6%)です。2002調査以降、「配慮あり」の推移を見ると、2002から2005調査で2.3ポイント、2005調査から2008調査で2.6ポイントと、配慮する大学が増えてきています。2008調査で回答のあった具体的配慮内容と2002調査以降の推移は、表5の通りです。これは「試験時に配慮する」と回答した大学が実施可能と答えた具体的配慮内容の抜粋で、比較的障害の重い受験生に必要な配慮項目と、回答実数の多かった配慮項目上位三つを抜き出しています。

表5 視覚障害受験時配慮内容と推移
※2008調査の実数は、「入学試験で配慮あり」と回答した大学324校の詳細

  2008実数 有効回答比 2005→2008 2002→2005
拡大文字による出題 94 29.0% 0.1pt -0.4pt
点字による出題 67 20.7% -0.4pt -4.3pt
パソコンでの出題 1.9% 0.8pt 0.6pt
車での来校を認める 130 40.1% 6.9pt -1.5pt
別室受験 128 39.5% 1.6pt -0.8pt
試験室入り口までの付き添いを認める 125 38.6% 2.9pt 1.5pt

これを見ると、重度の視覚障害学生には欠かせない点字や拡大文字、パソコンでの出題が非常に少なく、受験生にとって厳しい現実がみられます。さらに、2002調査以降の推移をみても、状況の悪化している項目が目立ち、2005から2008調査で少し伸びているのは「車での来校」や「試験室入り口までの付き添い」など、大学の準備が少なくて済むものにとどまっています。受験時の制約の多さが、在籍する視覚障害学生の少なさを表していると思われます。

3 入学後の支援状況

受験のハードルを乗り越えて大学に入学した障害学生。障害をもたない学生と同じ質の学生生活を送るには、さまざまなサポートが必要です。

入学後の支援内容と推移は表6の通りです。授業全体を通して何らかの配慮をすると答えた大学は348校(80.6%)で、障害学生が入学すると何らかの配慮をしたいという大学は多いようです。2002調査以降の動向をみても、「配慮あり」の大学は、2002から2005調査で1.8ポイント、2005から2008調査で2.8ポイント増えています。

表6 入学後の支援内容と推移

  2008実数 有効回答比 2005→2008 2002→2005
授業全体の配慮 348 80.6% 2.8pt 1.8pt
一般講義での配慮 210 48.6% 2.5pt 1.6pt
定期試験での配慮 193 44.7% 5.8pt 2.3pt
体育実技での配慮 162 37.5% -1.9pt -5.1pt
語学授業での配慮 101 23.4% 0.3pt 2.3pt
実習での配慮 92 21.3% 2.1pt 2.7pt
実験での配慮 55 12.7% -0.5pt -0.8pt
肢体障害学生への支援 174 40.3% 5.0pt 7.2pt
聴覚障害学生への支援 139 32.2% 2.6pt 6.7pt
視覚障害学生への支援 111 25.7% -1.0pt 3.8pt

しかし、配慮を担当教員に一任する傾向があり、支援方針を決めて対応する大学はまだまだ少ないようです。配慮をしている大学のうち、「障害学生が履修していることを担当教員に伝える」大学が224校(64.4%)、「障害学生への配慮内容を担当教員に依頼する」大学は193校(55.5%)と多くなっています。また、この二つの項目では、2005調査以降の推移も3ポイント強増えています。一方、「ガイドラインを作成し各教員に示す」大学は43校(12.4%)で、伸びも前記二つに比べると低くなっています。

その他の状況では配慮の多い順に、一般講義での配慮、定期試験での配慮、肢体障害学生への支援です。逆に少ないのは、実験での配慮、実習での配慮です。また、2002以降の調査で、配慮の伸びが大きいのは、定期試験での配慮、肢体障害学生への支援、聴覚障害学生への支援です。逆に減少しているのは、体育実技での配慮と、実験での配慮です。

ここで特に注目したいのが、年を追って大幅に増えている項目です。まず定期試験での配慮ですが、受験時の配慮と共通する部分が多いようです。受験の配慮が行われれば行われるほど、そのノウハウは入学後の定期試験にも活かされます。障害学生が入学すると、受験時よりも具体的な状況が分かるため、障害学生と相談しながら個別の障害に合わせたきめ細かな配慮が作られていくことが望まれます。

次に、肢体障害学生への支援と聴覚障害学生への支援についてみていきます。2005調査と2008調査の在籍人数を見ると、肢体障害が241人、聴覚障害が118人増えており、それに伴って学内サポートも充実してきたと考えられます。

また、障害別の支援には、たとえば肢体障害学生に対しては授業時や学内生活での介助に、聴覚障害学生に対しては授業での手話通訳やノートテイクに、視覚障害学生に対しては教科書やプリントなどの点訳や拡大コピーに、費用がかかります。この費用を負担している大学の数は、2008調査では115校(26.6%)で、2002調査以降の推移は、2002から2005調査で6.6ポイント、2005から2008調査で3.6ポイントと高い伸びになっています。これは、肢体障害学生や聴覚障害学生への支援が増えた裏付けになっていると同時に、これまでボランティアなど学生や教職員の善意のみによって行われていた支援を、大学や学部全体としてバックアップしようとする動きの表れとも言えるでしょう。ただ、肢体・聴覚障害に比べて、視覚障害学生への支援があまり進んでいないことが課題です。これは、重度の視覚障害学生の在籍が少ない状況とも大きく関係していると思われます。

4 障害学生の支援体制(表7

障害学生一人に焦点を当てた場合、学生生活全般をトータルに見て支援することは大切です。障害学生が学生生活で困難に直面したとき、相談にいける場所があると非常に安心です。2008調査では、相談窓口がある大学は368校(85.2%)で、多くの大学が障害学生からの相談に応じる姿勢を持っています。しかし、ほとんどの大学では障害をもたない一般学生と同じ対応をしており、障害学生専門の相談窓口のある大学が30校(8.2%)、障害学生担当職員のいる部課をもつ大学が43校(11.7%)となっています。2005調査以降は、どちらの項目も2ポイント強増えています。障害学生の状況をみて適確な対応をするには、その障害学生を継続的に支援し、関係する人や学内の組織と連携できる相談窓口を持つことが、今後ますます大切になってきます。

表7 支援体制の状況と推移

  2008実数 有効回答比 2005→2008 2002→2005
障害学生担当職員のいる部課(注) 43 11.7% 2.5pt 2.4pt
障害学生専門の相談窓口(注) 30 8.2% 2.3pt -0.9pt
障害学生支援の費用負担あり 115 26.6% 3.6pt 6.6pt
障害学生支援費の予算化あり 115 26.6% 5.4pt 3.0pt
障害学生支援を統括する組織あり 82 19.0% 1.9pt 1.5pt

注:「障害学生の相談窓口がある」と回答した大学368校の詳細

その一方で、障害学生支援に必要な費用負担や、費用の予算化などの実績は、かなりの伸びを示しています。2008調査では、費用負担をしている大学と予算化している大学がともに115校(26.6%)あります。実数はまだ少ないですが、今後、障害学生支援について把握する組織が作られたり、支援のための費用負担が行われることを通して、学内にサポートの必要な学生がいることが周知され、当事者の周囲にいたごく身近な人たちだけの支援から学内全体へと、支援の輪が広がっていくことを期待したいものです。

入学する障害学生の数が増えることと、学内の支援体制が整うことは、お互いに深い関係があるようです。どちらが先ということはありません。障害学生の受け入れ実績がない大学でも、学生の入学をきっかけに支援が始まることもあります。また、多くの障害学生が在籍する大学でも、個々の学生のニーズに合わせた支援は、日々新しく作られています。個別のニーズに合わせた支援を作るためには、大学や教職員、障害をもたない一般学生などが、よいネットワーク関係を作り、それぞれの立場を活かして積極的に動くことが大切です。

ここまで、障害種別やサポート内容を項目ごとに分けて書いてきましたが、ニーズは個人によって違う、と考えれば、すでにある支援や他大学の情報を参考にしながらも、「その人にとっての支援」を作っていくことが一番のポイントです。

(とのおかつばさ、にしむらしんこ 全国障害学生支援センター)

注1:調査結果の表記について

  • 2008調査結果の数字は、特別な表記がない場合、回答大学数420校に学部別回答を含めた、計432校中の内訳です。
  • 2002調査以降の推移は、各調査の全回答学校数に対する実回答数の割合を出したうえで、各年調査ごとの数値をポイントで比較しています。

○『大学案内障害者版』など連絡先
電話・FAX 042―746―7719
E-mail info@nscsd.jp
http://www.nscsd.jp/