音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

列島縦断ネットワーキング【佐賀】

佐賀が進める
ユニバーサルデザイン(UD)

松尾一夫

佐賀県では、平成10年3月に福祉のまちづくり条例を制定し、不特定多数の人が利用するスーパーやホテル、病院など公共的施設のバリアフリー化に取り組み、個々の障壁を取り除く点において、バリアフリーはこれまで大きな成果を上げてきました。障壁が存在する限り、今後もこの取組が重要であることに変わりはありません。

しかし、これからは、バリアフリー化の推進とともに、年齢、性別、能力、国籍等、人々が持つそれぞれの違いを超えて、はじめからすべての人にとって安全・安心で利用しやすいように、建物、製品、サービスなどをデザインするユニバーサルデザイン(UD)の考えに立ってまちづくりを推進することが重要です。

古川知事が平成15年にマニフェストで「すべての人にやさしいユニバーサルデザインのまちづくり」を掲げて知事に就任しました。まずは公共施設のUD化から進め、県有施設から率先し新築、増改築する際にはUDに配慮し整備しています。

また、民間の公共的施設については、福祉のまちづくり条例を改正し、UD適合基準を設け、基準を満たした施設に対してUD適合証を発行しています。このUD適合基準では、たとえば、「出入口」では、車寄せには庇、雨よけ等を設けること、男子用、女子用トイレにそれぞれ車いすやベビーカーが入れる簡易型多機能トイレを設置することなどが定められています。また「道路」では、歩車道の段差をなくすこと、排水溝の蓋を杖や車いす・ベビーカーのキャスターが落ち込まない構造にすることなど多様な人々の声を聞き、さまざまな配慮をするものとなっています。

もちろん、UDを推進していくためには、施設だけでなく、ものづくりやソフト(情報、サービス)づくり、意識づくりなど総合的に進めていくことが必要です。このため、県では、平成17年度に佐賀ユニバーサルデザイン推進指針を策定し、73の取組具体例を掲げ、これを受け、平成18年度に実施計画をつくり、県民、CSO(市民社会組織)、企業、行政で構成する佐賀UD推進会議を中心に、県民と協働しながらそれぞれの事業を進めているところです。

佐賀県パーキングパーミット制度

主な取組としては、まずは「佐賀県パーキングパーミット(身障者用駐車場利用証)制度」です。

この制度は、平成18年7月から全国初の試みとして実施している制度で、身障者用駐車場を利用できる方を明らかにし、本当に必要な方のために駐車スペースを確保するものです。

具体的には、身体障害者や高齢者で要介護の方など本人の状態が変わらない5年間有効の緑の利用証と、妊産婦やけが人など1年未満で必要な期間有効のオレンジの利用証の2種類を発行しています。

この制度の特徴は、車ではなく、身体に障害のある方などの本人に対して交付されることや、身体に障害のある方をはじめ、高齢者や妊娠、ケガをされている方、難病の方など歩行困難な方を広く対象としていることです。高齢者の場合は介護認定の要介護1以上の方、妊産婦の場合は、あくまでも本人の状態を考慮し、妊娠7か月から産後3か月、ケガの方の場合は、1年未満で診断書により歩行が困難な期間としています。

また、この利用証は、県と協定書を締結した施設で利用でき、県と協力施設が一緒になって、障害のない人の駐車をなくしていこうというものです。

昨年度末現在、利用証の交付数は5,645人、協力施設数も520施設を超え、確実に制度は浸透しています。また、昨年3月に実施した利用者へのアンケート調査でも、障害のない車が減ったと回答した人が54%、停めやすくなったと回答した人が75%という結果が出ています。

制度実施後、県内はもとより全国各地からの問い合わせが相次ぎ、あらためて身障者用駐車場は全国共通の大きな問題であることを実感しています。「このような制度を県が実施していただいて大変ありがたい」との多くの声とともに、「画期的な取り組みだと思う」「全国に広めてもらいたい」などの心強いご意見やご感想もいただいています。

内部障害者の方からは「外見上健常者に見えるため、周りから冷たい視線を感じていたが、どこからでも見える利用証を使えることで安心して駐車できる」、妊産婦の方からは「体調が悪くても、病気でないからと遠慮してきたが、これで堂々と停めることができ、大変ありがたい」、身体障害者の方からは「今まで、身障者手帳をダッシュボードにおいて停めていたが、大切なものなので、抵抗感があった。これなら安心して置いておける」などのたくさんのうれしい声もいただいています。

この制度を佐賀県モデルとして全国に発信した結果、昨年度、山形県(6月)、長崎県(8月)、福井県(10月)、熊本県(1月)が同様の制度を開始し、全国に広がりつつあります。

図 身障者用駐車場 利用証拡大図・テキスト
佐賀県パーキングパーミット(身障者用駐車場利用証)【有効期間:5年間(左)と有効期間:1年末満(右)】

みんなのトイレ制度

主な取組の次の例は「みんなのトイレ制度」です。県では、だれもが安心して外出できるよう、設備や広さなどだれもが利用しやすいように配慮されたトイレを設置したホテル、スーパー、コンビニ等にご協力いただき、共通の案内サインを標示して気軽に使えるようにした「みんなのトイレ制度」を平成19年3月に創設し推進しています。

この制度により、だれもが利用できるトイレを県内に増やし、車いすを使用されている方やオストメイト(人工肛門・人工膀胱)の方、高齢者、妊婦、こども連れの方などみんなが気軽にまちへ出かけられるようになることを目指しています。協力していただく施設の出入口等にマークを掲示していただき、だれもが安心して利用できるトイレの目印となります。

この制度に協力していただいた企業や施設は、UDの推進に積極的に取り組まれている施設として、県のホームページなどで公表し、広くPRしており、昨年度末現在、230施設にご協力いただいています。

その他の取組

その他、県内で企画・製造されたUD製品の普及と需要拡大を促進するための「佐賀県UD推奨品制度」、だれもが気軽にまちに外出しやすいよう施設等のバリアフリー情報やトイレ等の情報を掲載する「UDマップ」、UDのまちを県内で具現化する「UD推進地区の支援」では現在、第1次推進地区として、鳥栖市(新幹線新鳥栖駅及びその周辺)、唐津市(市街地再生地域)、嬉野市(観光を含むまち全体)の3地区を指定し、庁内で支援チームを組んで支援しています。またUDのホームページ「さがユニバーサルデザインラボ」をはじめ、各種の広報媒体を通じての情報発信や学校現場では、総合学習の時間や道徳、特別活動等の教科でUDに関する取組が進むなど、まち、もの、ソフト、意識づくりそれぞれでさまざまな取組を行っています。

平成22年には第5回UD全国大会を、UDのまちづくり・観光地づくりに地域住民や企業、行政等が一体となって取り組まれ、また昨年12月には障害者の旅をサポートするバリアフリーツアーセンターを全国で2番目に開設した嬉野市で開催することにしています。

この大会で、パーキングパーミットやUD推奨品など本県の先進的な取組を全国に発信するとともに、この大会を契機として更に県民の意識啓発や県民協働の取組を促進していきたいと考えています。

(まつおかずお 佐賀県健康福祉本部地域福祉課UD担当係長)