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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

ほんの森

1981年の黒船
─JDと障害者運動の四半世紀

花田春兆著

評者 上田敏

現代書館
〒102―0072
千代田区飯田橋3―2―5
定価1,700円+税
TEL 03―3221―1321
FAX 03―3262―5906

「ご存知」俳人にしてエッセイスト、障害者運動家、等々の多面的な顔をもつ花田春兆さんの、久しぶりの本であり、1981年の国際障害者年という「黒船来襲」以来25年のわが国の障害者運動の「私史」である。花田さんはJD(日本障害者協議会)と前身の国際障害者年日本推進協議会の副代表を務められ(現在JD顧問)、その立場から、JDを中心とした国内外の障害者をめぐるさまざまな動きを述べておられる。

その狙いは、「はじめに」にあるように、「日本の障害者運動にそれまでにない画期的な足跡を残してきたJD。その記録を書きとめて残すことが…私の果たすべき責任」「障害者運動に内側から関わり続け、行政の動きも割合根幹のところで肌に触れてきた…滅多に味わえない生涯だった」「どうせ書くからには、『厚生白書』や『障害者白書』のような公の表の部分だけではない、影の裏の部分に踏み込み、定まった法令自体よりもそれが生まれたプロセスや実施されての影響を浮き上がらせたかった。」という言葉に尽くされている。まさに春兆さんというすぐれた個性を通じた障害者運動25年史である。正式のJD史は30周年記念事業として準備されているとのことで、JD自体とはつかず離れずの感じであるが、それが幸いして、著者が「春兆調」とよぶ自由さがなんともこころよい。

内容は多岐にわたるのでぜひ手にとって読んでいただきたいが、評者は「リ・ハビリ」と養護学校(第3章)、「岩倉」に想う精神障害者問題(第5章)、差別語問題(第6章)などに特に目を開かる感をもった。

本書のもう一つの特徴は巻末の年表とコラムである。年表は1976年以来の30年以上をカバーし、コラムは対向ページにその時期の重要な話題24項目を14人の方が執筆しておられ、両者で29ページを占める。これだけでも貴重な記録であり、「自分史」的な本文を客観的な事実で裏付けており、同時に楽しい読み物でもある。

あちこちの余白に春兆さん自身の描かれた俳画がちりばめられているのも楽しい。たとえば「はじめに」の末尾には「蟹」が描かれ、左の鋏には俳句、右の鋏にはエッセイとある。8本の足には障害者運動、文化史、図書資料、うたとおどり、パラボラ、うたの森、特養生活、陶俳画とあって、花田さんの関心・活動範囲の広さがわかる。面白いのはその上に「どれに絞る?」「それでも一番が抜けている?」とあることである。「抜けている一番とは?」と想像するのも楽しい。

(うえださとし 日本障害者リハビリテーション協会顧問)