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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年7月号

計画の評価と期待

引きこもり精神障害者にも障害福祉の光を!

飯塚壽美

さいたま市精神障害者家族会連絡会は、市内の4つの家族会が連携し、精神障害者が、親亡き後も安心して生まれ育った地域で生きていけることを願って、活動をしている。

他人の輪の中に入っていくことが特に困難な精神障害者を抱える家族は、日々の悩みや今後への不安と戦いながら、とかく社会から置き去りにされがちな立場を理解してもらわなければならない。

さいたま市でも「ウィーズ」という精神障害者の当事者会が発足して、現在各地で講演活動をするなど、しっかり自己主張ができる人が増えてきた。それはそれですばらしいが、自ら訴えることもできずに苦しみ引きこもっている場合は、家族が代わってその実態を知らせて、支援を求める他はない。

さいたま市障害者施策推進協議会には、そのような家族の視点から意見を述べることに努めているが、会議で活発に議論される内容を追いかけるのに精一杯で、会議の後でこう発言すればよかったと後悔するばかりだ。

平成18年から2年間で取り組んだ障害福祉計画作りでは、障害者自立支援法の影響について緊急実態調査を行い、サービスやサービス利用の低下が起きていないかの状況把握に努め、各障害団体からは、市独自の激変緩和策を求める悲痛の声が出された。八都県市の首脳会議で、さいたま市長が率先して自立支援法への改善策をまとめ国に提出したこともあり、障害福祉の担当課は、推進協議会で要求されたデータを積極的に提供し、また市独自の支援策を実現してくれた。

2年間に9回開催された推進協議会の他に、6回のワーキンググループ会議を持ち、障害福祉計画が絵に描いた餅とならないように数値目標の達成を見守る進行管理のグループワークと、キメの細かなニーズに対応するための相談支援体制の構築のグループワークとを持ち、市内の中心となる施設の職員が熱心に取り組んでくれた。

3障害者が同じテーブルに着いたとは言え、何ら実態が変わらず苛立ちを覚えた。さまざまな関係機関から意見を出してもらって、現状認識を高め、制度の不備な点を共有して、次回の計画作りに反映させようと努めてきた。

昨年秋に、身体・知的・精神・難病の団体・精神科入院患者に対するアンケートが実施され、より深い実態把握に努めた結果、今年3月に厚さ約2センチの堂々とした「障害者(保健)福祉に関するアンケート結果報告書」ができ上がり、関係者を感動させた。担当した市の職員はたいへんだったと思う。

昨年4月に初めて、精神保健福祉手帳の診断書料へも補助がつくようになり、小さな一歩と喜んだものだが、よくよく考えてみれば、障害年金を受けている人には手帳への診断書など必要ではなく、ほとんどの精神障害者にはメリットにならなかった。

相談システムの構築も、地域に置き去りにされた人への支援が期待できると信じたが、現在それほどの成果は得られていない。各区にできた地域生活支援センターが支援計画を練り、他の機関と連携するための連絡会議が持たれているが、今後に期待したいと思う。

精神障害者の相談には、身近な各区の保健センターが第一の受け手となり、そこから精神の専門機関である保健所や、より困難な事例に対応する心の健康センターへつなぐという三重構造のシステムが考えられたが、身近な保健センターが広報にその役割を載せず、受け入れに消極的なことをうかがわせている。

精神の専門機関である保健所では、圧倒的なマンパワーの不足が原因で、治療に結びつかない障害者の相談に行っても、十分な対応を受けることができないでいる。本人に会えなければ、結局はそのままであり、家族はあきらめてしまう場合が多い。入院させたいと相談に行っても、「ぎりぎり放って置いて、何か事が起きれば警察が対応してくれますよ」と言われたと聞いた時には、怒りを覚えた。

現在国の施策に沿って、さいたま市でも独自に精神障害者の退院促進事業に取り組んでいるが、アンケートから、阻害要因の第一が本人の意欲の欠如であり、二位が家族の受け入れ拒否と出た。長い間家族への支援が置き去りにされたことからの当然の結果である。

病状が悪く、病識のない本人を説得し入院させた時の家族の経験は、並大抵のことではない。必死で説得し連れて行った病院、やっと治療に結びつけた後の安堵感。そんな家族への十分な配慮やケア、情報提供がなければ、急性期の治療が済んだからと、また家族の手に委ねようとしても、なかなか受け入れることはできない。特に思春期に発病する精神障害の場合は、長期間入院していた場合にはなおさら、親はかなりの高齢になっている。

これまでの日本では、あまりに家族への依存が強く、地域の支援策が十分ではなかった。退院してくる障害者と同じように、家庭に引きこもった当事者とそれを支える家族にも配慮してほしい。精神の社会復帰施設への補助金があまりにも少なく、大きな問題ではあるが、そこに参加することもできない場合は、その24時間の暮らしを支えているのは家族であり、家族は当事者ではないけれど、患者の専門家として見えることを、要望という形でしっかり伝える義務があると思う。

さいたま市精神障害者退院支援事業の概要
事業利用者のみに限らない退院支援
図 さいたま市精神障害者退院支援事業の概要拡大図・テキスト

(いいづかすみ さいたま市精神障害者家族会連絡会会長)