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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

声も出せない、動けないALSと意思伝達装置

北谷好美

ALS(筋萎縮性側策硬化症)という最重度の進行性難病に罹病してから、今年で17年目を迎えました。進行が比較的遅い私は、発症後に妊娠・出産・子育てをしている変わり種です。進行が遅いといっても、昨年末に気管切開と胃ろう造設、今年の2月には栄養失調から肺炎を起こし緊急入院の末、呼吸器の装着となりました。気管切開前までは声が出ていました。

日常のコミュニケーション手段としては、口文字と意思伝達装置を使っています。意思伝達装置はALS患者にとって日常生活を営む上で必要不可欠の生活用具の一つです。

私が初めて意思伝達装置の給付を受けたのは7年前。ALS患者の間で、もっともポピュラーな伝の心(PC+ソフトウェアのセット)というものでした。それまでは普通のワードプロセッサーやノート型パソコンを使用していました。今は買い替え申請中で借り物の伝の心です。

伝の心は意外と操作が簡単で、足の特殊スイッチで操作しています。足からメールを送受信なんて普通は思いつきません。その他にも話したいことを音声に変えたり、呼び出し音(ナースコール)、生活機器のリモコン操作(テレビや電灯のON/OFF、チャンネル切替など)等、いろいろな機能があります。私は主に、日々の献立作成・援助者用の介護マニュアル作成・頼みたいことの音声切替(これは娘とのやり取り=バトルに役立ちます)・メールやインターネットの活用・不定期発行の「好美通信」の配信などに使っています。特筆すべきは、2年前、同じ患者仲間のメールのやり取りから全国の仲間の原稿が寄せられ、一冊の『闘病記』が出版されたことです。

一昨年10月の制度改正により「重度障害者用意思伝達装置」が日常生活用具から補装具に移行され、身体障害者更生相談所の判定が必要になりました。それに伴い「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドラインが公開(http://www.resja.gr.jp/com-gl/)されました。

私が一患者として考える現状の問題点としては、1.判定基準、判定方法が全国的に統一されていない。2.更生相談所に公正・適切な判定を下せる審査官が配置されていない。3.直接判定、書類判定の審査結果が出るまでが遅い。4.確定診断が難しいALSの場合、判定基準、判定方法を患者代表や患者会、医師を交えて検討・見直ししてほしい。5.進行性難病の審査基準は別枠で設けてほしい。

意思伝達装置は、ALSという特殊な難病においては意思を相手に伝える道具としてはもちろんのこと、病のために、社会隔絶されてしまわないように、社会活動に参加できるようにしてほしいのです。メールやインターネットを使えることは患者のQOLと可能性を高めるのです。社会参加・社会コミュニケーションのためになくてはならない生活用具なのです。

とかく難病というと、特にALSのように進行性で呼吸器をつけてしまうと寝たきりで何もできないと思われがちですが、「意思伝達装置の支給を制限されることはない」と言えるのではないでしょうか?声も出せない、動けないALS患者にとって、自己の持てる身体の残存機能を活かしてパソコンを操作する、病気の最終段階 totally locked-in stage になったとしても脳の機能を酷使して意思伝達装置を操作する、何と壮絶な姿でしょう!…(なぁんて自分のことなのに)。

ALS患者の多くがパソコンを特殊な入力用スイッチを使ってわずかに動く筋力で操作しています。ある人は手の指で、ある人は顔面の筋力で、ある人は口で、そして私は左足の指でといった具合です。ALSで一番困ることは、自分の伝えたいことが伝えられないこと(意思疎通の遮断)。また、コミュニケーション手段として申請した意思伝達装置が患者本人に適正だと認められないことも困ります。だれもがなりうるALSという難病のために、速やかな判定と審査が、速やかな支給に結びつくことを願います。

(きたたによしみ 日本ALS協会東京都支部患者代表)