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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

全日本ろうあ連盟の権利擁護の取り組み

小中栄一

全日本ろうあ連盟(以下、「連盟」と略)は、1947年にろう者主体の全国組織として結成され、都道府県のろうあ協会とともに、ろう者の人権を尊重し文化水準の向上を図り、その福祉を増進することを目的に活動している。それ自体が聴覚障害者の権利擁護の取り組みでもある。活動は多岐にわたるが、聴覚障害者への差別や偏見との闘い、手話の普及と手話通訳制度化、相談支援体制確立の三つを取り上げる。

聴覚障害を理由とする差別的な処遇の撤廃について

1966年、京都で「全国ろうあ青年研究討論会」が開かれた。全国各地のろうあ青年が、耳が聞こえないために受けねばならなかったさまざまな苦しみや悲しみを語り合うとともに、悩みや疑問が自分一人のものではなく、すべての仲間に共通した社会的な問題であることを確認した。これを契機に、聴覚障害を理由とする社会的、制度的差別の撤廃をしていく運動が始まった。

1967年に岩手県盛岡市の聴覚障害者が無免許運転で起訴された裁判が始まった。連盟は1968年から裁判支援とともに運転免許獲得運動を大規模に展開し、1978年に補聴器装用条件による警察庁通達を勝ち取った。30年後の2008年の6月から、条件付ではあるが、ようやくすべての聴覚障害者に免許取得の道が開かれた。

1997年に神奈川県の聴覚障害者が手話通訳を通じて公正証書遺言作成を拒否された問題が起きた。また、1998年に薬剤師国家試験に合格した聴覚障害者が、当時の薬剤師法の欠格条項のため資格取得できなかった。こうした問題を契機に、連盟は関係諸団体と連帯し聴覚障害者を差別する法令の改正を目指す署名運動、地方自治体に差別条項のある法律の改正を政府に要望する決議を請願するなどの運動を展開した。2001年には聴覚障害者を差別する法律が改正、障害者を特定した絶対的欠格条項が撤廃された。

手話による知る権利、聞く権利の保障実現について

聞こえない障害は、外見からは「見えない障害」とも言われるが、聴覚障害と手話に対する誤解や偏見と闘い、ろう者の知る権利・聞く権利の保障のため、手話の普及と手話通訳制度実現に向けての運動を続けている。

1965年に東京で不運な事件を起こし刑事裁判に問われたろう者の知る権利を保障する取り組みは、「権利としての手話通訳」保障の要求運動へと展開されていった。1970年から国のメニュー事業として始まった養成、設置、派遣各事業は、「ろう者の生活と権利を守る」手話通訳制度化運動に取り組み、委託を担った地域のろうあ協会と手話通訳者集団、手話サークル等の関係団体の努力によって発展し、手話を普及してきた。

事業がボランティア依存であるため手話通訳の専門性や派遣条件などに大きな格差が生じたことから、全国に4,000人の手話通訳士を配置する制度を求めるなどの提言と国民への啓発運動を展開し、これをもとに1989年から手話通訳技能認定(手話通訳士)試験制度が始まった。また、2000年に手話通訳事業が第二種社会福祉事業として位置づけられた。これを根拠に2002年、手話と手話通訳に関する学習・研究・養成の専門施設として、社会福祉法人全国手話研修センターを連盟・全国手話通訳問題研究会・日本手話通訳士協会の出資により設立した。

2006年に施行された障害者自立支援法では、手話通訳事業は要約筆記事業とともにコミュニケーション支援事業として市町村必須事業と位置づけられた。全国のどこの地域で暮らしていても、聴覚障害者の費用負担は無料で、等しく知る権利、聞く権利が保障される事業となるよう取り組んでいる。

そして、国連・障害者権利条約に打ち出されている手話の言語的権利行使が各方面において保障される法制度の確立に向けて、条約の批准と国内法の整備に取り組むことが今後の大きな柱となっている。

聴覚障害者の権利擁護を担う相談支援体制について

身体障害者福祉法が施行されたときから「手話のできる福祉司」を求めてきたが、福祉事務所等の公的機関には手話のできる人がいないので聴覚障害者の個別問題の解決を援助することが十分にできない。「手話ができ、聴覚障害者の心情等を十分に理解できる相談員」が必要であると地方自治体に要望してきた結果、1963年に北海道旭川市に聴覚障害者が採用されたことを皮切りに、聴覚障害者協会事務所や福祉事務所、社会福祉協議会等に、聴覚障害者への相談支援を専門に行う「ろうあ者相談員」を採用する地方自治体が増えていった。

1990年、身体障害者福祉法が一部改正され聴覚障害者情報提供施設の設置が盛り込まれた。現在まで設置されているのは31都県6政令指定都市となっている。情報提供施設は、地域の聴覚障害者に対するコミュニケーション、相談支援の面で重要な拠点であり、全都道府県・政令指定都市の設置と充実が求められるところである。

2006年度の連盟による「ろうあ者相談員」登録によれば、35都道府県192人となっている。障害者自立支援法における相談支援事業においても手話で直接コミュニケーションできる人がほとんどいないため、聴覚障害者が自由に利用できるものとはなっていない。聴覚障害者と十分なコミュニケーションがとれ、聴覚障害の特性等について専門的な知識を有する者を配置する国の制度を求めている。

連盟は、今、創立60周年記念事業として映画「ゆずり葉」を製作している。初めてろう者が中心になって製作するもので2009年6月に公開を予定している。聴覚障害者の権利擁護に取り組む活動の大切さとこれからの期待を広く国民にアピールしていきたい。

(こなかえいいち 財団法人全日本ろうあ連盟事務局長)