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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

わが国の盲ろう者福祉活動の取り組み

庵悟

1 盲ろう者とは?

視覚と聴覚の両方に障害を併せもつ者を盲ろう者と呼んでいる。有名なのは、アメリカのヘレン・ケラーだ。「盲ろう」は、英語では、「deafblind」となっていて、単なる視覚と聴覚の重複というのではなく、独自の障害として国際的にも認知されている。

盲ろう者は、目と耳からの情報が得られず、自分の身の回りにいったい何が起きているのか、世の中の動きがどうなっているのかも分からず、家族や友人とのコミュニケーションもままならず、一人での外出もできないまま、家に閉じ込もっている者が多い。

そのため、盲ろう者は、日本の障害者運動の歴史の中では、埋もれた存在であった。ヘレン・ケラーが過去3回来日した折も、彼女を出迎えたのは、視覚障害者団体であり、盲ろう者の存在はほとんど意識されていなかった。

2 全国盲ろう者協会のあゆみ

1949年、山梨県立盲唖学校(現在の山梨県立盲学校)で、盲ろう教育の実践が始められた。これがわが国における盲ろう重複障害者への教育的取り組みの嚆矢とされている。

現在の盲ろう者福祉につながる動きの始まりは、1981年、筑波大学附属盲学校(現筑波大学附属視覚特別支援学校)の生徒であった福島智氏の大学進学を支援する会「福島智君とともに歩む会」の結成である。この会に続いて1984年には、大阪に門川紳一郎氏の大学進学を支援する会「障害者の学習を支える会(門川君とともに歩む会)」が結成された。1991年に、「福島智君とともに歩む会」を母体として、社会福祉法人全国盲ろう者協会が発足した。

当協会は、まず、一人ぼっちの盲ろう者が地域で当たり前に生活できるようにしようと考え、通訳・介助者の養成と派遣事業を、全国規模で展開した。また、当協会設立の年の8月には、栃木県宇都宮市で第1回全国盲ろう者大会を開催した。その後、全国大会に参加した人たちが中心となって、各地に盲ろう者の会ができていった。

当協会の盲ろう者向け通訳・介助者派遣事業がモデルとなって、1996年4月から東京都において「通訳・介助者派遣事業」が開始され、同年12月からは、大阪市でも「盲ろう者ガイド・コミュニケータ派遣事業」が実施されるようになった。

これらの動きを受けて、2000年からは、国の補助による各都道府県の「盲ろう者向け通訳・介助員派遣試行事業」が開始された。さらに2006年4月より「障害者自立支援法」の施行に伴い、同年10月より盲ろう者向けの通訳・介助者養成事業と派遣事業が都道府県地域生活支援事業として位置づけられた。当協会では、盲ろう教育に経験のある教師・研究者を集めて、「盲ろう教育手法開発委員会」を作り、盲ろう教育の研究にも取り組んできた。そして、「盲ろう教育研究紀要」を発刊してきた。

一方、毎年夏に開催している全国盲ろう者大会では、「ふうわ」という盲ろう児保育のスペースがあり、盲ろう児や親、兄弟姉妹が参加してきた。2003年7月に学校教師、研究者、親たちが集まって「全国盲ろう教育研究会」が設立され、同年8月に盲ろう児とその家族の会「ふうわ」が設立された。

各地で友の会等盲ろう者地域団体が次々とできてくる中で、盲ろう当事者の生の声を国や自治体に届けたり団体同士のネットワークをつくることを目的に、2006年8月には、盲ろう当事者の組織である「全国盲ろう者団体連絡協議会」が設立された。

3 今後の課題

1.「盲ろう」障害の法的位置づけの明確化

「盲ろう」は、独自の障害であり、特別なニーズをもつものである。国連の障害者権利条約第24条3項(C)では、原文の「deafblind」は、独立したひとつの単語として表記されている。2001年発足の「世界盲ろう者連盟」においても「deafblind」を1単語で表記することが徹底されていて、同連盟が国連公認の「国際障害同盟」の八つの構成団体に含まれている事実など、「deafblind」の表記は国際的に定着している。そんな中で、日本ではまだ、「盲ろう」が独自の障害として認知されていない。国や自治体の福祉や教育において、「盲ろう」を多様に存在する重複障害の一つにすぎないとして把握してしまうのではなく、障害種別のひとつとして位置づけられる必要がある。

2.盲ろう者地域団体(友の会等)の未設置県の解消

2008年7月末現在、未設置県は7県となった。盲ろう者福祉施策の要は、全国各地の盲ろう者地域団体の組織化と運営強化である。

3.通訳・介助者派遣事業および養成研修事業の未実施県の解消とさらなる充実

2008年7月末現在、派遣事業は18道県で、養成研修事業は8県で未実施である。次のステップとして、盲ろう者関連事業の充実と運営の安定化を図っていく必要がある。

4.リハビリテーション施設の建設と就労問題への取り組み

盲ろう者は働く意欲があっても、職に就くための訓練の場に受け入れ態勢がない。コミュニケーション、生活技術、歩行の訓練、職業訓練等、盲ろう者の就労や社会復帰のための総合リハビリテーション施設を日本で建設することが急務である。

4 世界会議でさらなる飛躍を

2013年に、世界中の盲ろう者団体の代表が集まる世界会議が日本で開催される予定である。準備の過程において、一般社会に盲ろう者への理解を広めながら、日本の先端技術を生かした情報機器の充実を図ることによって、社会の各分野で盲ろう者が活躍できるような環境を築き、世界の盲ろう者福祉の模範となるような体制づくりを目指していきたい。

(いおりさとる 社会福祉法人全国盲ろう者協会職員)