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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

一人で操作できないデジタルテレビ
―視覚障害の立場から

田中徹二

2011年7月のアナログからの全面切り替えを前に、地上デジタルテレビ放送が始まり、その受像機が盛んに発売されている。画面が見えない視覚障害者向けの副音声(音声解説)の目標値が、2015年の段階で、NHK全番組で15%というのも問題だが、それよりもデジタルテレビが一人で操作できないというのは、視覚障害者にとってはさらに大きな問題である。だれか見える人に手伝ってもらえばいいというのは、視覚障害者の尊厳を無視する暴言と言える。

今年8月、ジュネーブで第7回世界盲人連合の総会が開かれた。3日目の技術分科会で、英国盲人協会のLesleyAnne Alexander女史が、「デジタルテレビジョン」という題で講演した。その要旨は次のようなものであった。

視覚障害者にとって、テレビの重要性は無視できない。英国盲人協会は、視覚障害者にとってのテレビの役割を調査した。それによると、英国では、ラジオを聴くよりテレビを見る盲人が多かったという(日本の調査でも同じ結果が出ている)。しかし、親しんできた単純なアナログサービスが複雑なデジタルシステムに変わることにより、操作性が問題になってきている。一般の人々が使い方を理解できないために、30%が返品されるという指標さえある。ましてや視覚障害者がデジタルテレビから締め出されることは深刻な問題である。

一方、デジタルテレビは、データ、画像、音声を送ることができ、視覚障害者に役立つ情報も提供できる。その一つは、番組に音声解説が付けられること、もう一つは、テレビのメニューに音声を付ければ、コンピュータや携帯電話と同じように使えることである。

こうしたテレビを視覚障害者が楽しむには、アクセシブルな受像機の標準化が必要である。たとえば、地上デジタル波放送のシステムでも、ソニー、パナソニック、サムソンのような主要なテレビ製造業者は、音声解説のチャンネルを標準として装備している。

ところが、新しいデジタルテレビのサービスでは、チャンネルが200、あるいは1千にもなる可能性がある。視覚障害者にとって見たい番組をどうやって探すのかは大問題となる。テレビが複雑になるにつれて、画面上のメニューとコントローラーへの依存度が増えてくる。電子的な番組ガイドがあり、数多くの番組から見たいものを選ぶ必要がある。コントローラーで対話方式のチャンネルにアクセスできるようにすること、番組の名前を読みあげるだけでなく、視覚障害者がメニューを選び、番組案内が使えるようにしなければならない。

英国では2009年春に、音声読みあげメニューと弱視者用の超感度画面を持つテレビ受像ボックスを開発する。パナソニック、サムソン、フィリップス、ソニーとの交渉では、アクセシビリティの国際的な標準の開発を約束しているという。

この報告では、当面、デジタルテレビに外付けのボックスを作成していくようである。質問ができなかったので詳しいことは分からないが、報告の終わりに、こうした方式を標準の受像機に組み込んでいかなければならないので、皆さん大きな声をあげてくださいと女史は発言した。国際的な標準に基づいたボックスができれば、わが国でも使用できるのかもしれないが、これまで私たちが総務省、経済産業省や電子情報技術産業協会に陳情している中では、そんな話は全く出ていない。

ISO(国際標準化機構)では、超高齢社会に対応して、国際規格を策定する場合には、高齢者、障害者を配慮することを推進し、ISO/IECガイド71(高齢者及び障害のある人々のニーズに対した規格作成配慮指針)を制定している。デジタルテレビ受像機にとっても、このアクセシブルデザインは超高齢社会に対応するための最重要課題と言えよう。

最後に、現在のデジタルテレビの操作で視覚障害者が操作できない点だけを列挙してみよう。

1.チャンネル数が増えた場合、今どのチャンネルを見ているかを確かめることが困難。

2.ガイド(マニュアル)は、音声読みあげがないので理解できない。

3.番組表が表示されても、音声読みあげがないために、それ以降の操作は不可能。番組内容もチェックできない。

4.さまざまな画面で、画面のカーソルを移動させても、音声読みあげがないため、決定ボタンをどこで押せばいいか分からない。

5.今現在やっている番組を録画することはできるが、再生する時、録画されている番組にたどり着くことが不可能。

6.番組表に音声読みあげがないため、予約して録画することは不可能。

7.インターネット機能は、音声読みあげがないために不可能。

こうした点を総務省の地上デジタル放送推進に関する検討委員会の席上で訴えたことがある。また、受像機の操作性に関することなので、メーカーを監督している経産省に話を通すのが早いと、経産省の情報通信機器課にも相談した。初めの対応は初耳というものだったが、しばらくすると、簡易リモコンがあるとか、番組表を音声化しているテレビがあることを教えてくれた。しかし、私の印象では、経産省や電子情報技術産業協会ではメーカーを強く指導することは無理のようだった。

NTTドコモの「らくらくホン」は、すべて音声で操作できるので、視覚障害者のほとんどが使っている。こうした例をデジタルテレビ受像機にも期待したいものである。

(たなかてつじ 日本点字図書館理事長)