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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

盲ろう者からの放送バリアフリー

上野正彦

盲ろうという障害は視覚障害と聴覚障害を組み合わせ、1.全盲ろう、2.全盲難聴、3.弱視ろう、4.弱視難聴、の4タイプに分けられる。また盲ろう者ははじめ聴覚障害だけだったのが、視覚にも障害を負ったろうベースの盲ろう者、はじめ視覚障害だけだったのが、聴覚にも障害を負った盲ベースの盲ろう者、生まれつきの先天性盲ろう者、大人になってからの中途盲ろう者に分けることもある。いずれにしてもコミュニケーションや情報接取、移動に大きな困難が伴う。単に見えにくい、聞こえにくいだけでなく、それに伴うストレスや心理面など個人差が大きく、一括りにできない障害である。

盲ろう者は情報障害ともいわれる。盲ろう者の立場から放送を考えてみたい。

■ソフト面―字幕放送

テレビやラジオを視聴するソフト面は、視聴機能が残っている人は自分で見える位置、声の大きさを決めている。しかし一般の人が見聞きしているのと同じ内容ではなく、多くは異なる受け止め方をしている。

現在のデジタル放送の字幕は、上や下、番組によっては画面の真ん中に出るものもある。字幕は背景に重ならない位置に固定してコントラストを出して表示してもらいたい。

コマーシャルには映像と文字、テロップがあるが、実際の宣伝文句などは分からない。コマーシャルにも字幕があれば宣伝文句や商品情報が正確に分かって楽しいはず。情報を共有することができる。

しかしながら、テロップや文字表現の場合、フォントやデザインが凝っていて、色付きが多い。文字の流れも早い。映像効果を狙ったものだろうが、いわゆるロービジョンと呼ばれる人たちは文字を追うのに苦労している。文字の部分を統一して、映像と分けると見やすく読みやすくなる。

臨時ニュース・災害ニュースの字幕は背景映像はそのままなので、読みにくい。ニュース開始に音を鳴らすが、字幕には何の配慮もない。読み上げもない。緊急性がある情報なら背景を犠牲にしてでも字幕内容を強調すべきだと思う。

■ハード面―説明書、画質・画面調整等

本体やリモコン操作などハード面では、説明書の文字が小さく読みにくい。説明の内容によってはさらに小さい文字がある。説明書のページ数が増えても、フォントサイズを同じにしてほしい。

盲ろう者の中には言葉の聞き取りができる人がいる。伝音性難聴や加齢による難聴は大きな声でゆっくり話すと聞き取りやすい。ラジオには音声をスローにして聴く機能付きがあるが、テレビにはない。テレビにもスローで聴く機能があってもよいと思う。

テレビ映像の調整はチャンネル合わせや色調調節はほとんど自動になった。買ってすぐ楽しめる、便利な技術だと思う。今の映像はすべてカラー化されている。カラー画面が見づらいという盲ろう者はいる。明るさや画質を落として見る盲ろう者は多い。

ある番組で昭和30年代の映像を紹介していた。モノクロの映像だった。画質は粗いがよく見える。今のテレビはモノクロにして見ることはできない。カラー画面とモノクロ画面を切り替える機能を付けてほしい。モノクロを決して過去の技術にしないでほしい。

自分に合った画面設定を記憶して、見たいとき、必要なときに設定画面にするボタンが本体とリモコンにあるとよい。通常画面と設定画面をワンタッチで切り替える機能だ。

リモコン操作の際、画面文字が小さい。画面に出る文字の大きさを変えられる機能や背景色を選べる機能があるとよい。また文字放送の文字の大きさを変えられる機能もほしい。

点字ディスプレイという機器を用いて、盲ろう者もインターネットやメールによる情報交換を楽しめるようになった。インターネットを通じてテレビ放送を点字で視聴することは技術的に可能と思われる。

■手話放送

通常放送の手話通訳挿入は、手話通訳者の位置が画面隅になっている。画面の小さなテレビでは手話通訳はますます小さくなる。ヨーロッパやアメリカでは、縦3分の1に手話通訳を挿入した番組がある。正しく伝えるという観点から、手話通訳挿入は最低でも欧米並みに縦3分の1は必要だろう。

■緊急時もリアルタイムの字幕放送を

近年字幕番組が増えてきた。多くはバラエティーやドラマに挿入されている。盲ろう者は情報障害といわれるように社会の動きを捉えられないことが多い。ニュースや報道番組は生活と結びつく大事な情報源である。しかしニュース・報道番組には字幕がない。今現在起こっている事件事故、社会動向をリアルタイムで伝えるのが報道番組だから、字幕もリアルタイムで挿入されるべきである。同時にインターネットを通じてニュースを配信してほしい。

最後にNHK受信料について、身体障害者手帳1級または2級の重度盲ろう者は、テレビの視聴覚情報を受信するのに著しい困難が伴うため、家族収入に関わらず、全額免除としていただきたい。

(うえのまさひこ 愛知盲ろう者友の会)