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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

1000字提言

叩けよ されば開かれん

橋本操

運命の扉は、だれにも開かれていると聞きますが、扉まで辿り着けない人、扉を叩けない人々がいます。ALSを発症した人の多くが、扉まで辿り着けない人々ではないかと考えます。

ここ数年は、マスコミでの露出度も高く、しばしば社会福祉士の国家試験にまで出題されています。しかしながら、どれほどの国民がこの苛酷な難病ALS・筋萎縮性側索硬化症の現状を知っているでしょうか?

日本ALS協会は、千代田区九段下に本部事務局を置き、患者会としても任意団体としても堅実な組織で、3人の専従職員とボランティアが、全国各地からの電話相談に追われています。相談は多様で個別性、地域性に富んだもので、会員、非会員を問わずに怒涛のようにあります。福祉の分野でも「地域間格差の是正」がうたわれて久しく、まさに耳にタコの状況が続いています。

ALS患者は一見、素晴らしい医療・保健・福祉制度に守られて恵まれた人々と思われがちです。最重度とされるALS患者の場合、医療費は無料とされていますから、今の時代、贅沢(ぜいたく)と思われるかもしれません。しかし、特定疾患治療研究の一環ですから、適用は医療保険の範囲だけです。

介護関係での制度利用状況も、介護保険・障害者自立支援法の利用状況も、地域間格差は凄まじいものがあります。介護保険ひとつを取り上げても、訪問介護の利用無しは珍しいことではありません。介護保険の利用料1割負担(地域により減免あり)は、年金生活者には軽い負担とは言えないでしょう。障害者自立支援法の居宅サービスを使えば、合算して4万円弱の負担が発生します。多くは40歳~60歳に発症するALS患者にとって、この金額が軽い負担とは断じて言えないし、結果的に利用が抑制されています。そうなると、在宅療養の受け皿も無いまま、ALS患者はどこで生きるのでしょうか?

人工呼吸器使用のALSは、外見だけで偏見と差別を受けることが多くあります。しかし、私たちは外見や世間体では生きていません。もっと深い場所にある個々の歴史や、親の思いを自分自身に問いかけながら生き、それぞれが前を向いて生きてゆきましょう。

私の独居を支えるためには、介護だけでも1000時間は必要なので、常に2~3人の学生が出入りしています。必要な介護時間のために、さらに扉を叩き続けるALS患者でありたいと思います。

(はしもとみさお 日本ALS協会会長)