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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

ワールドナウ

第7回WBU総会、ジュネーブで開催

山口和彦

世界盲人連合(WBU:World Blind Union)は、8月18日から22日までの5日間、ジュネーブで第7回総会を開催した。総会には119か国から国家代表229人と通訳、付き添い、オブザーバーなどを含め、600人以上が参加。日本からは日本盲人福祉委員会の笹川吉彦理事長をはじめ、4人の国家代表を含めて総勢14人が参加した。開会式では、ウィリアム・ローランドWBU会長(南アフリカ)の挨拶を皮切りに始められ、地元スイス連邦大統領の祝辞などもあり、4年に1度という世界大会らしい雰囲気に包まれた。

これまでの4年間のWBUの活動についてローランド会長が報告した後、6つの地域(アジア・太平洋地域、ヨーロッパ地域、北米・カリブ地域、ラテン・アメリカ地域、アフリカ地域、アジア地域)の代表から過去4年間のそれぞれの地域での取り組みが報告された。地域に共通の問題としては、点字の識字率が低く、開発途上国では教育環境が整っていないこと、就労の機会に恵まれていないこと、子どもや女性に対する人権が保障されていないことなどが挙げられる。

また、開発途上国への援助の目的で、会費の大幅な改正が行われた。これは、会員の国力を考慮し、年会費25ドルから2000ドルまで4段階に分け支払うように決定された。

役員改選では、会長として、マリアン・ダイアモンド氏(オーストラリア)が選出された。マリアン・ダイアモンド会長は、キキ・ノードストローム氏(スウェーデン)に次いで2人目の女性会長であり、今後、女性障害者に対する差別撤廃、女性の地位向上など大きな期待が寄せられた。

役員改選後、最終日には10の事項について決議された。決議内容の主なものを以下列挙する。

1.WBUはUPU(国際郵便連合)の諮問委員会に対して、従来通り、郵便業務に関して視覚障害者の利益を保護するように郵便物の無料を要望する。

2.開発途上国の雇用については、視覚障害者の70%から90%が非雇用の状態であるという現実を直視し、2008年から2012年にかけてそれぞれの地域においてより効果的な改善を図るために優先順位をつける。各国WBU委員にアンケート形式で雇用の実態調査を行う。

3.2009年1月4日は、点字の考案者、ルイ・ブライユの生誕200年にあたることから、点字の普及に尽力された方々を顕賞するとともに、各国政府、団体にルイ・ブライユの功績を広く啓発する。第6回ケープタウン総会で要望された世界点字協議会の創設を緊急な課題として再度要望する。

4.ONCE(スペイン盲人協会)が主宰する「子どもの声に耳を傾けよう」という宣言にWBUとICEVI(国際視覚障害教育協議会)が協調し、子どもの固有のニーズを取り上げ改善に努める。このONCEが行っている「すべての子どもたちに教育の機会を!」の運動をWBUとしてもさらに推進し、点字の普及に努め、各国の識字率を高めるとともに、音声による視覚障害補助機器などの教育環境を整える。

5.開発途上国においては、女性と青少年に対して特に配慮されることを要望する。特に、女性と子どもの人権については、各国政府に対して十分に配慮し、教育、就労、日常生活の面で差別されないように配慮すべきことを要望する。大半の視覚障害者は、開発途上国のなかでも貧困地帯に居住していることを考え、2015年までに貧困の削減を図る。また、マイクロ・クレジットなどの制度を導入し、視覚障害者に大きな財政的な負担をかけずに経済的自立を促進することを図る。

その他、高齢の視覚障害者、弱視者、女性に対しても、それぞれの固有のニーズに合わせて配慮するように各国に要請した。特に、先進諸国においては、高齢化が進み、また低視力の障害者が増大する傾向があるので、こうした視覚障害者に対する対策も緊急の課題になった。

また、日本の提案で進められている高齢者・障害者に配慮したユニバーサル・デザインの推進運動については、財団法人共用品推進機構の高橋玲子氏が現在の日本におけるさまざまな取り組み、具体的には音声や触覚を活用したガイドについて紹介したところ、大きな反響があった。たとえば、クレジット・カードに識別マークを付けることで、視覚障害者が容易にカードの種別を認知できることで、今後、急速に進むカード社会のなかで大変有益だと評価された。今回の決議のなかにもユニバーサル・デザインの促進が入れられた。

19日から21日にかけて行われた選挙では、以下のとおり、新しい本部役員が選出された(敬称略)。会長:マリアン・ダイアモンド(オーストラリア)、第1副会長:アーント・ホルテ(ノルウェー)、第2副会長:キャンディル・フランシス(ウガンダ)、事務局長:エンリケ・ペレス(スペイン)、会計:アジャイ・クマル・ミッタル(インド)。

また19日夕方と20日午前には、WBU-AP(WBUアジア太平洋地域協議会)の総会が開かれ、新たに加盟したラオス、東ティモールを含む14か国1地域の代表など60人以上が参加。両日にわたって行われた選挙では、以下の新役員が選出された(敬称略)。会長:指田忠司(日本)、副会長:サバラトナム・クラセガラン(マレーシア)、事務局長:アイバン・ホ・タク・チョイ(マレーシア)、会計:ケビン・マーフィット(オーストラリア)、WBU地域代表執行委員:田畑美智子(日本)、モンティアン・ブンタン(タイ)、キム・モック(中国=香港)。

今回のWBU-APの総会で注目されたのは、チェンホック氏(シンガポール)に代わり、指田忠司氏(日本盲人会連合国際委員会)が会長に、WBU地域代表の世盲連執行委員に、田畑美智子氏が当選したことだ。

これまで地道に続けてきた日本の国際支援が発展途上にある国々から支持され、今後より一層の支援を期待する気持ちを込めて日本に票を投じたとも考えられる。たとえば、日本の按摩・マッサージ、鍼灸に関しての技術指導、最新医学知識や技術交流の紹介と人材育成のための日本への招聘、アジア・アフリカ諸国への点字器の寄贈、コンピュータを使ってのICT技術の指導、点字作文コンテストの主宰、デイジーを主体とした情報アクセスなど、さまざまな分野で日本が支援してきたことが評価されたものと思われる。特に近年の目覚しいICT技術のお蔭で、時空間を超えてお互いにコミュニケーションが容易になり、着実にネットワークが構築しつつある。

しかし、こうしたICT技術の恩恵にあずかれるのはまだごく一部の人たちだけであり、情報格差がさらに貧富の差を広げていることも事実である。貧富の差が全地球的に広がっており、障害者の生活がさらに厳しくなっている。貧困にあえぐ開発途上国にとっては今後ますます物的援助と人材育成を福祉先進国、日本に求めてくるのは間違いないだろう。こうした要望に対して、WBU-APの指田新会長を軸に新たな体制の下で視覚障害者の生活環境が改善されることを期待したい。

(やまぐちかずひこ 国際視覚障害者援護協会理事長)