「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号
報告
2008北京パラリンピック競技大会の報告
中森邦男
1 概要
2008北京パラリンピック競技大会(第13回夏季大会・以下、「北京パラリンピック」)は、オリンピックに引き続き12日後の2008年9月6日(土・開会式)から17日(水・閉会式)までの12日間、北京を中心として開催されました。
この大会は、2001年に国際オリンピック委員会と国際パラリンピック委員会が契約書を交わし、2008年のオリンピック招致にパラリンピック開催を含むことが決定した歴史的な大会となりました。このことでオリンピックと同じ組織委員会がパラリンピックを運営し、参加国に対し経済的援助(エントリー費の無料化、参加補助金の支給)を実施し、また、マーケティング規則の適用、ドーピング検査の実施や選手団およびメディアの参加方法もオリンピックと同様となりました。
北京パラリンピックは、過去最多の147か国・地域から約4000人の選手が参加し、20競技に熱戦が繰り広げられました。今回の大会では新たにボート競技が加わり、懸案であった知的障害者の競技は残念ながら実施されませんでした。
大会の運営面では、中国入国から輸送、選手村、食事、開会式、閉会式、競技運営、インターネットによる情報提供、そしてボランティアの教育など、今までで最高の大会といえるすばらしい状況で、中国政府の強い自信を感じることができました。さらに、競技場では地元中国の観客でいっぱいになり、その中で競技する選手には最高の喜びを感じたことと思います。
2 北京大会の特記事項
(1)多くの若いボランティア
参加したボランティアの多くが、オリンピックから継続して参加しており、その数は過去のパラリンピックと比較できないくらいの多数でした。選手村でのアパート入口の監視、部屋の清掃や消耗品の補充、開会式や閉会式、競技会場、シャトルバス、食堂なども若い多勢のボランティアが活動していました。
日本選手団には12人のアシスタントが付き、日本語が話せる日本語専攻の大学生で、日本チームのスムーズな運営に欠かせないものとなりました。日常的に一緒に活動しているアシスタントから、自国に対する強い誇りと自己に対する強い自信を感じることができ、日本ではあまり感じることのない新鮮なものでした。
(2)中国選手の活躍
アテネ大会から約50が減少したメダル種目、473個の金メダルのうち89個を中国選手団が獲得しました。開催国の中国チームのメダル獲得は驚異的なもので、金メダルの約20%を占め、2位のイギリスチームの倍以上を獲得しました。中国政府がパラリンピック開催を決定した7年前からの金メダルの獲得数は表1のとおりで、2回前と比較すれば3倍の金メダルを獲得し、この間の選手強化も並外れたレベルであることが推測されます。
表1 中国のメダル獲得数
北京大会 | アテネ大会 | シドニー大会 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
個数 | % | 個数 | % | 個数 | % | |
金メダル | 89 | 18.8% | 63 | 12.1% | 34 | 6.2% |
銀メダル | 70 | 14.9% | 46 | 8.9% | 22 | 4.0% |
銅メダル | 52 | 10.7% | 32 | 6.0% | 17 | 3.0% |
総メダル | 211 | 14.7% | 141 | 9.0% | 73 | 4.4% |
(3)より高くなった競技レベル
メダル種目数は、シドニー大会が550、アテネ大会が519、そして北京大会では、その数は472に減少しました。メダル種目数が減少した理由は、パラリンピックの競技性を高めるためで、異なったクラスの選手が一緒に競技するクラスの統合、参加選手数の少ないクラスの種目の取り止めが実施されました。
少ないメダルを競うことで、メダル獲得はより厳しい状況になった反面、開催国の中国を筆頭とし、2位のイギリス、3位のアメリカ、4位のウクライナと5位のオーストラリアで、金メダルの45%、銀メダルの38%、銅メダルの35%を獲得し、そして全メダルの39%を獲得したことになりました。これはシドニー大会、アテネ大会と比較しても、上位5か国のメダル獲得率はより高いものとなっています。そして、上位10か国で金メダルの3分の2を占めるなど、上位国のメダル獲得率が非常に高くなっています(表2)。
表2 上位国のメダル獲得数
2008北京 | 2004アテネ | 2000シドニー | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
金 | 銀 | 銅 | 計 | 金 | 銀 | 銅 | 計 | 金 | 銀 | 銅 | 計 | |
1位の国 | 19% | 15% | 11% | 15% | 12% | 9% | 6% | 9% | 11% | 7% | 8% | 9% |
1位から5位の合計 | 45% | 38% | 35% | 39% | 34% | 30% | 30% | 32% | 39% | 34% | 34% | 36% |
6位から10位の合計 | 19% | 15% | 18% | 17% | 19% | 21% | 23% | 21% | 21% | 22% | 18% | 20% |
1位から10位の合計 | 64% | 54% | 53% | 57% | 53% | 51% | 54% | 53% | 61% | 56% | 53% | 56% |
全メダル数 | 473 | 471 | 487 | 1431 | 519 | 517 | 532 | 1568 | 550 | 545 | 558 | 1653 |
3 日本選手団の成績
日本選手団は、アテネ大会に次ぐ162人の選手が、17競技に参加しました。日本選手団の成績は表3のとおりで、メダル獲得数では、過去5大会の中で最も低く、国別金メダルランキングでは、アテネ大会の10位から17位に大きく後退しました。
表3 日本選手団の成績
選手数 | 金 | 銀 | 銅 | 計 | 国別金メダル ランキング |
|||
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個人競技 | 団体競技 | 合計 | ||||||
北京 | 98 | 64 | 162 | 5 | 14 | 8 | 27 | 17 |
アテネ | 109 | 54 | 163 | 17 | 15 | 20 | 52 | 10 |
シドニー | 115 | 36 | 151 | 13 | 17 | 11 | 41 | 12 |
アトランタ | 58 | 23 | 81 | 14 | 10 | 12 | 36 | 10 |
バルセロナ | 53 | 22 | 75 | 7 | 8 | 15 | 30 | 17 |
競技ごとに成績評価を前回と比較した場合、成績向上した団体が7団体(初出場も含む)で、成績が低下した団体が9団体でした。競技ごとの評価は少し成績が下がったことになります。
メダルを獲得した団体の成績では、成績向上した団体が2団体で、成績が低下した団体が4団体でした。競技別には、水泳が23個(金8)から5個(金1)、陸上競技が18個(金7)から12個(金2)、柔道が4個(金1)から1個(金0)、アーチェリーが3個(金0)から1個(金0)、自転車が2個(金0)から6個(金1)、そして車椅子テニスが1個(金1)から2個(金1)でした。
メダル獲得数が減少した背景には、障害の重度選手のメダル種目の減少、クラスの統合やリレー種目の減少と一部有力選手のクラス変更が挙げられます。さらに各国の競技力向上が日本選手を上回ったことが原因となっています(表4)。
表4 日本団体競技の成績
NO. | 競技名 | 北京大会 | アテネ大会 | ||||||||
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参加数 | メダリスト数 | 成績 | 参加数 | メダリスト数 | 成績 | ||||||
メダル数 | 計 | メダル数 | 計 | ||||||||
1 | 自転車 | 4 | 2 | 金 | 1 | 6 | 4 | 2 | 金 | 0 | 2 |
銀 | 3 | 銀 | 1 | ||||||||
銅 | 2 | 銅 | 1 | ||||||||
2 | 車椅子テニス | 9 | 2 | 金 | 1 | 2 | 8 | 2 | 金 | 1 | 1 |
銅 | 1 | 銅 | 0 | ||||||||
3 | 水泳 | 18 | 3 | 金 | 1 | 5 | 24 | 15 | 金 | 8 | 23 |
銀 | 2 | 銀 | 6 | ||||||||
銅 | 2 | 銅 | 9 | ||||||||
4 | 陸上競技 | 32 | 8 | 金 | 2 | 12 | 34 | 15 | 金 | 7 | 18 |
銀 | 7 | 銀 | 4 | ||||||||
銅 | 3 | 銅 | 7 | ||||||||
5 | 柔道 | 9 | 1 | 金 | 0 | 1 | 7 | 4 | 金 | 1 | 4 |
銀 | 1 | 銀 | 2 | ||||||||
銅 | 0 | 銅 | 1 | ||||||||
6 | アーチェリー | 10 | 1 | 銀 | 1 | 1 | 7 | 5 | 銀 | 2 | 3 |
銅 | 1 | ||||||||||
7 | ゴールボール 女子 | 6 | 0 | 7位 | 0 | 6 | 6 | 銅 | 1 | 1 |
4 まとめ
北京パラリンピックでは、オリンピックと同じように人間の限界を追及し、最先端のスポーツ科学を背景とした効果的トレーニングがなければ勝てない状況になりました。日本チームが現在の強化を継続した場合、次回のロンドンパラリンピックでの競技成績は、さらに悪くなることが予想されます。
ロンドンパラリンピック参加に向け、北京大会を上回る成績を上げるためには、従来からの課題を改善することが必要となります。第一にボランティアスタッフ中心の競技団体に対しては、専用事務所や専従職員の設置により基盤を整備し、さらに、国際資格を含めた強化スタッフの育成などが挙げられます。第二に強化活動に参加する選手の自己負担をなくし、強化コーチへの経済的な支援、国際大会参加支援などJPC予算を大幅に引き上げる必要があります。
これらの課題改善は大変なことですが、関係する組織や部署と連携を図り、創意・工夫をもって進めていきたいと思っています。
(なかもりくにお (財)日本障害者スポーツ協会日本パラリンピック委員会事務局長)
【写真提供 エックスワン】