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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

第1回情報保障サミット~さあ、ネットワークを広げよう~を終えて

安田遥・益子徹

去る9月28日立教大学池袋キャンパスにて、関東聴覚障害学生懇談会(以下、関東聴懇という)情報保障グループによる「第1回情報保障サミット~さあ、ネットワークを広げよう~」が行われました。今回の企画を立ち上げるにあたり、立教大学ボランティアセンター・日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet―Japan)・全国障害学生サポートセンターの皆さまには、開催場所や資料提供などのご協力をいただいたことを心からお礼申し上げます。

当日は企画名通り、さまざまな大学からスタッフを含め40人近くの方が集まり、有意義な時間を過ごすことができたのではないかと思います。

関東聴懇は、1976年に聴覚障害をもつ学生たちによって設立されました。その目的は、大学などの高等教育機関における情報保障の普及や、聴覚障害に伴う諸問題について議論し合い、親睦を深め、さまざまな活動を行っています。30年以上の時を経た今日でも「関コン」「関東聴懇」などの呼び名で親しまれています。

近年、聴覚障害学生を取り巻く情報保障の状況は、関東聴懇設立当初に比べると大きく変化しました。私たち関東聴懇の中でも、大学によって異なり、すべての授業にノートテイクなどの情報保障がついている学生もいれば、全くついていない学生もいるという状況があります。このように聴覚障害に対する理解や認知が広まった分、ニーズも多様化し、情報保障が十分行われていない現状があります。それらの多様化したニーズに対し、当事者団体としてしっかり対応していくために立ち上げられたのが、私たち情報保障グループです。

この私たちのグループ名にもなっている情報保障という言葉は、なかなか聞き慣れないかもしれません。手話通訳やノートテイク、パソコン筆記通訳などの方法を用いて、聴覚に障害のある学生が聞こえる学生と対等に講義に参加する権利を保障することを「講義保障」と言います。それに加え情報保障とは、より広義な意味合いを持っており、大学の講義に限らず、音声情報をそれらの方法で聞こえない人へ伝えること全体を意味します。

私たちのグループでは講義保障だけではなく、より広く情報保障されるべきだと考え、それらに携わっている聴覚障害学生、支援学生のニーズに応えるべく活動しています。現在はその多様な現状を活かし、お互いに支え合っていくために、学生同士のネットワークを構築していくことを大きな目標として活動しています。

第1回となる今回の「第1回情報保障サミット~さあ、ネットワークを広げよう~」では、そんなグループ全体の目的を具体化した企画内容を準備し、小さなネットワーク同士をつなげることにより分散している情報保障の現場同士をつなげようという思いを込めて、この企画名・内容を考えました。

当日の企画内容は次の通りです。

1.都内3大学による発表(早稲田大学・立教大学・日本社会事業大学)
2.「大学ノートテイク支援ハンドブック」DVD鑑賞
3.グループディスカッション

都内にある3つの大学で、今実際に情報保障を受けている聴覚障害学生や支援学生にご協力いただき、「情報保障制度を確立するまでと現状」というテーマで発表してもらいました。

今回は、障害学生支援の状況がほぼ整っている学生数約5万6千人規模の早稲田大学と、教職員たちで構成される身体しょうがいしゃネットワークという学内組織を持つ約1万7千人規模の立教大学。それから約900人規模の学生組織で支援している日本社会事業大学に依頼をしました。このようにそれぞれに特色のある3つの大学に発表をしてもらうことで、小さな大学が行う支援のメリットとデメリット、大きな大学が行う支援のメリットとデメリットなどを知り、自分の大学に合った支援像を考えてもらうことが大きなねらいです。

次に、今回協力していただいている日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet―Japan)が出版している「大学ノートテイク支援ハンドブック」DVDを鑑賞しました。聴覚障害学生支援にはどのような支援形態があり、支援がある場合とない場合にはどのような違いがあるのか。聞こえない学生が求めている支援とはどういう支援なのか。DVDを鑑賞し、実際に支援のある状況とない状況を見つめることで、参加者に改めて支援の必要性について感じてもらい、ディスカッションへ向けての考えを深めてもらうことができたと思います。

そして3番目に、グループディスカッションです。今回は5つのテーマでディスカッションをしてもらいました。この企画では、参加者同士の情報交換、交換した情報や自らの体験から、そのテーマのより良いあり方を考えることが目的です。今回は、私たち多くの聴覚障害学生が一度は考えるであろう「通訳のルール」「通訳者の養成」「通訳者の募集」「他大学、他通訳者との交流」「その他」の5つを用意しました。これらのテーマは参加申込時に希望を聞き、参加者が悩んでいることや話したいことなどを中心に話し合われました。

具体的には、通訳上のマナー、どうしたら支援学生が集まるのか、本来の通訳者養成とはどのようなものなのか、大学側や支援者に対して、どのようにしたら理解が得られるのかといったことなどをそれぞれのグループで話し合いました。

今回は、さまざまな立場の方に参加していただけたため、ディスカッションではいろいろな意見に触れられたのではないかと思います。通訳技術に自信がないために通訳にいけないという悩みをもつ聞こえる学生、通訳支援が全くない状態で授業を受けている聞こえない学生、情報保障に対して経験が豊富な人や、実際に大学の職員として働いている方、視覚障害をもつ学生など、それぞれ異なる立場や環境下にある人たちが共通のテーマで語り合うことで、同じ関東圏内でもさまざまな支援状況があることを改めて実感できる機会となりました。

今後の情報保障グループの具体的な活動としては、メーリングリストの運用やニーズの把握、ホームページなどを用いて企画だけで終わらせるのではなく、今回集まってくださった参加者のみなさんのネットワークを生かして、必要な機関へ情報をつなげていく活動をしていきたいと考えています。

情報保障とは本来それ自体が目的ではなく、聞こえない学生がその先の勉強や夢に向かっていくための「手段」にすぎません。関東聴懇設立時に比べれば、ある程度社会的な理解や認知も広まってきたと言えると思います。しかし、実際には大学との連携が上手くいかない、支援学生が足りない等さまざまな理由で、講義が聞こえないまま過ごしている学生がまだまだ存在していることも事実です。だからこそ今、改めて聴覚障害学生にとって、情報保障とは理解や配慮ではなく、保障されなければならない学ぶ権利であることを訴えていくべきではないでしょうか。

聴覚障害学生個人への対応はもちろん、そのような聴覚障害学生が全体として抱える課題についての解決方法を探っていける機会・場を提供していくことが、これからの私たち関東聴覚障害学生懇談会情報保障グループの使命であると感じています。

(やすだはるか・立教大学3年、ましことおる・日本社会事業大学3年)

関東聴覚障害学生懇談会情報保障グループのHP
http://kankonjh.koiwazurai.com/index.html