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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

障害者基本法改正に向けて

東山文夫

1 はじめに

政府は平成16年6月に障害者基本法の一部を改正する法律を公布し、「政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律による改正後の規定の実施状況、障害者を取り巻く社会経済情勢の変化等を勘案し、障害者に関する施策の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と同法の附則に規定されています。

この間における障害者を取り巻く環境は、大きな変化をみせています。平成17年10月には、従来の支援費制度に代わる障害者自立支援法が成立しました。この法律は、より利用者の立場に立った制度改革を目指し、地域生活支援という喫緊の課題を解決しようとしていました。自立支援法施行に伴う制度改革の範囲も広範囲にわたり、相談支援、障害者福祉サービスの体系、就労支援、障害者医療等、障害福祉全般に関する制度改革が行われたところであります。

また、平成19年9月には、国連障害者の権利に関する条約(仮称)に日本も署名し、批准に向け国内法の見直しが進められつつあります。権利条約の中には、障害を理由とする差別の定義として「合理的配慮」という新たな概念が規定されています。

これら情勢の変化を踏まえ、日本盲人会連合としては、次のことを要望してきたところであります。

2 改正に向けた要望事項

(1)理念規定としての実効性ある法律の運用(第3条関係)

基本法が施行されて40年を迎えるが、障害者が共生できる社会になっているとは言い難い現状にあります。この原因は、地方公共団体の責務や国民の責務については、明確に規定されていますが、裁判規範をもった罰則規定がないことに起因していると思われます。したがって、障害者自立支援法と同様に罰則規定を設けること。または、障害者に対する差別を禁止する法律を整備する必要があります。

(2)生活できる年金等所得保障の充実(第13条関係)

障害者は障害がある故に経済的負担がかかります。視覚障害者の就業者は、平成18年実態調査によれば、わずか21.4%であります。就業につけない障害者は、どうしても年金生活になりますが、現在の障害基礎年金の水準では、厳しい生活を余儀なくされている障害者が少なくありません。したがって、だれもが健康で文化的な生活ができる年金等の所得保障を検討する必要があります。

(3)障害を理解するためにも統合教育の実施(第14条関係)

障害児(者)が健常な児童、生徒、学生とともに同じ教育環境で学ぶことは、お互いの個性を理解し合うことができ、障害者の社会参加を容易にする最も重要なことであります。もちろん、特別支援学校も必要でありますが、障害児あるいは保護者の希望により、子どもの能力に応じた教育環境が整備された学校を選択できることが重要であります。

(4)就労・雇用(第15条、第16条関係)

わが国の就労問題は、常に雇用中心に施策が進められてきていますが、就労している視覚障害者の43.2%は、自営業活動により生計を維持しています。これは、多くの重度障害者の場合も同様と思われます。したがって、雇用ということだけで労働を考えず、自営業も含めて、本人が十分に生計が維持できる労働環境の構築が必要であります。

基本法では、自営業に対する取り組みが不十分であります。また、法定雇用率についても、障害種別による雇用率が把握されていません。このことは、多種多様な障害特性に対応した実効ある就労・雇用対策を策定することは困難であると言わざるを得ません。

(5)情報保障(第19条)

視覚障害による不自由は、情報を入手すること、歩くことと言われています。近年のIT技術の進展により、視聴覚障害者の情報機器の開発が進んできました。情報機器の一部は日常生活用具として福祉施策に取り入れられていますが、購入の場合、非常に高価になります。

視覚障害者の場合、移動のための補助手段として白杖が補装具として給付されています。白杖と同様、視覚障害者のための情報機器についても補装具として採用することが望まれます。

3 今後の課題

冒頭に述べたとおり、国連の障害者の権利に関する条約の批准を控え、早急に障害者に関する法律や制度の見直しが求められています。私ども障害者団体は、各関係団体との連携を密にし、今後の障害者施策が権利条約本来の趣旨、目的にのっとって運用されるよう、より一層、積極的に議論を重ねていく必要があります。

(ひがしやまふみお 社会福祉法人日本盲人会連合常務理事)