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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

手話の言語的な処遇とコミュニケーションの権利行使保障の実現を

小中栄一

全日本ろうあ連盟は、障害者基本法改正に対し、基本的なこととして、障害者権利条約において手話が言語として定義づけられたことに基づき、手話の言語的な処遇を明記すること。あらゆる分野において手話通訳の保障をはじめとするコミュニケーションの保障をすること、および、障害当事者による権利行使の考え方を明記することを求めている。

1 基本的な理念

障害者権利条約を基本として障害者基本法を見直し、「機会が与えられる」「差別をしてはならない」等の恩恵的または自覚と努力に期待する規定でなく、障害者の主体的な権利行使を保障すること。および合理的配慮に基づき、直接的かつ間接的な障害者に対する差別の定義と根絶を明確に規定すること。

また、「障害者差別禁止・権利保障法(仮称)」の制定の検討を盛り込むこと。

2 手話の言語的な処遇

障害者権利条約では「言語とは、音声言語および手話その他の形態の非音声言語をいう」と定義づけられている。手話が音声言語と同じように「言語」として定義づけられたことは、国内法に明記し、司法、立法、行政、教育、社会等のあらゆる分野で言語的な処遇を行うべきとの方向を示すものであり、障害者基本法においても手話の言語的な処遇を法的に明記すべきである。

3 障害者の定義

障害者の定義については、身体障害者福祉法に規定する範囲に限定せず、障害がすべての種類の機能障害に関連するもので、態度および環境との相互作用から生じるという観点を含めるべきである。身体障害者福祉法に規定する基準に達しない聴力レベルの人も、コミュニケーション支援をはじめとするさまざまな支援が必要である。

4 情報・コミュニケーションのバリアフリー化

公共的施設、情報のバリアフリー化については、ハード面の整備や情報の活用だけでなく、聴覚障害者に関しては、施設、交通機関、放送、災害対策、政見放送等あらゆる情報を文字・手話・光・振動等、目で分かる方法で提供するとともに、聴覚障害者と聴覚に障害をもたない人双方への手話通訳、要約筆記によるコミュニケーション支援を重要な柱とするべきである。

また、情報・コミュニケーションの総合的な法整備の検討が必要である。

5 雇用・就業分野における合理的配慮としてのコミュニケーション保障

雇用・就業分野においては、合理的配慮に基づき、聴覚障害者が必要とする時に手話通訳者・要約筆記者の派遣が保障されることが必要である。現在、民間企業に対しては、「障害者介助等助成金による手話通訳担当委嘱制度」がある。しかし、この制度では、手話通訳者の派遣を依頼するのは事業主となっている。職場における手話通訳者派遣については、企業秘密等の理由で手話通訳・要約筆記派遣依頼を断られる事例もよく聞く。手話通訳者派遣を必要としている聴覚障害者の依頼に応じて手話通訳者の派遣がなされるように法整備することが必要である。

また、職場におけるさまざまな間接的な差別についても目を向けなければならない。会議や研修だけでなく、朝礼、ミーティング、昼食等の休憩・休息など、聴覚障害者が分からない状態のまま放置されている場面は多い。何もしないでいることも差別である。企業として、日常会話程度の手話を学び、手話で直接、聴覚障害者とコミュニケーションする姿勢が合理的配慮として行われることの理解が必要と考える。

6 生活支援

生活支援分野については、所得保障の推進、聴覚障害者の特性に対応した手話による相談支援・社会的資源の整備が必要である。

7 教育

教育については、聴覚障害児の教育について、同じ言語・コミュニケーション手段として、手話が自由に使える聴覚障害の子どもの集団においてアイデンティティーが育まれることが必要であり、そのためにろう学校を維持、充実していく必要がある。普通学校で学ぶ聴覚障害の子どもたちに対しては、手話または手話通訳、要約筆記等の合理的配慮が十分になされるようにすることが必要である。そのためには、聴覚障害児の教育に関わるすべての教職員が、手話を習得し、コミュニケーションできる研修システムを整備しなければならない。

8 医療・介護

聴覚スクリーニングにおいて、医学的な面から聴覚障害があると判明した場合の対応が言語としての手話を考慮せず、聴覚補償と音声言語の獲得のみに偏りがちである。保護者に対する手話の理解、成人ろう者の実態、ろう者のコミュニティと社会参加についても十分な情報を提供する必要がある。また、親子間のコミュニケーションが十分にできるよう、親が手話を学ぶシステムの整備などが必要であり、医学分野の施策が、教育分野、情報・コミュニケーションの分野等の施策とも連携したものとなるようにするべきである。

最後に、障害者権利条約に見られる重要な理念、障害者に対する直接的・間接的な差別や偏見を根絶し、合理的配慮による権利行使の保障、インクルージョンの実現、モニタリングなどは社会的、国民的な課題でもある。国および地方公共団体の責務もさることながら、事業主を含めた国民に対する啓発活動を積極的に行うべきであると考える。

(こなかえいいち 財団法人全日本ろうあ連盟事務局長)