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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

1000字提言

視覚障害者と裁判員制度

高橋玲子

市民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」が、いよいよこの春から実施されます。全盲の私も昨年夏に、東京地裁で開かれたその「模擬裁判」で裁判員役を務める機会をいただきました。ナイフで人を刺した被告が殺人未遂罪で起訴された事件で、被告が殺意を否認しているという設定。傷口の数や深さ、凶器の種類なども検討し、犯行時の被告に殺意があったか否かが審議の争点となりました。一般市民からなる裁判員6人と、裁判官3人が2日間の審議に立ち会い、評議を経て罪名と量刑とを決定しました。

法廷では、裁判官も検察・弁護人の方々も、私の存在をかなり意識され、提示される写真や図面などは言葉でも説明してくださいました。被告や証人がだまってうなずくと、「返事は声に出すように」と促されたりもしていました。後に裁判長が「視覚情報を言語化することは、自分自身にとっても細かい点の確認の機会となりよかった」と振り返ってくださり、他の裁判員の方たちも、大半が、私を意識してなされた丁寧な説明について、「分かりやすくて役に立った」と評価してくださっていました。

点字の資料としては、スケジュール、宣誓書、起訴状をタイムリーにいただき、後から論告をいただきました。また、事前に当日の案内を墨字と点字で郵送してくださり、その中に霞ヶ関駅から裁判所までの言葉の地図があってとても助かりました。

私は法廷で、話された事柄や気になった言葉について、11枚の紙にびっしり点字のメモを取りました。もしそれができなかったら、かなり心細かったと思います。独力で読み書きのしにくい人の場合には、たとえば気になったところで合図をするとメモを取ってくださる等の人的支援が必要なのではと思います。評議の場である程度安心して(自信をもって)意見を言うには、記憶よりも確実な、自分にとってアクセスしやすい記録を持っていることが重要と私は感じました。

また、視覚情報について「何でも質問していい」と言っていただいても、目が見えていれば一目瞭然と思われるような内容をどこまで尋ねていいものか、やはり当事者は悩んだり気が引けたりするものです。「一人の裁判員として、できるかぎりのことを把握して評議に望むことはあなたの権利であり義務でもあるのです」のような強い指示が必要と感じました。

また、交通事故など、現場の状況や事物の位置関係などがとても重要な事件では、その言語化は非常に難しいと思います。状況や図面の言語化については音訳グループなどのノウハウを取り入れて、今後ある程度マニュアル化することも必要と思いました。

(たかはしれいこ (株)タカラトミー社会環境課)