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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

わがまちの障害福祉計画 神奈川県厚木市

神奈川県厚木市長 小林常良氏に聞く
行政に必要なのは縦割りに“横串”を入れること

聞き手:小川喜道(神奈川工科大学教授)


神奈川県厚木市基礎データ

◆面積:93.83平方キロメートル
◆人口:226,668人(平成20年12月1日現在)
◆障害者の状況:(平成20年12月1日現在)
身体障害者手帳所持者 5,430人
療育手帳所持者 1,037人
精神保健福祉手帳所持者 819人
◆厚木市の概況:
神奈川県のほぼ中央に位置し、市西部に丹沢山系を配する豊かな自然環境に囲まれている。東京まで46km、横浜まで32kmという地理的条件に恵まれ、業務核都市として首都圏機能の一部を担って成長を遂げてきた。鉄道、高速道路網も整備され、近年交通の利便性はさらに高まっている。平成14年特例市移行。平成17年市制施行50周年。平成20年度を「市民協働元年」と位置づけ住民自治基本条例の制定をめざしている。
◆問い合わせ:
厚木市福祉部障害福祉課
〒243―8511 厚木市中町3―17―17
TEL 046―225―2221(直)FAX 046―224―0229
HP:www.city.atsugi.kanagawa.jp/

▼厚木市は丹沢山塊を背に相模川を有し、自然にとても恵まれていると思いますが、市長はどのようなまちづくりを目指していますか。

活力ある街にしていきたいという願いがありまして、「みんなでつくろう元気なあつぎ」をキャッチフレーズにしています。その中で、障害者、高齢者が地域で共に元気に暮らしていけるように、まさにノーマライゼーションの理念を念頭においております。生きがいをもち、幸せに生きるには、ひとつは制度面、もうひとつはハートだと思います。制度というのは、ややもすると形を整えるということに傾きかねません。

▼人とのつながり、ふれあいが優先ということでしょうか、具体的にはどんなことを実践されてますか。

平成20年1月より「セーフコミュニティ・プロジェクト」をスタートしました。人が生きていく中で一番大切なものは何だろうかと考えた場合、まず安心で安全な居住空間、まちづくりでしょうし、市民の要求の中でも一番高いものとなっています。市内には、自治会、ボランティア、防犯・防災、交通安全などさまざまな地域活動がありますが、個々の活動が独立している傾向にあります。そこに横串を入れたい。その横串の機能として、このセーフコミュニティ・プロジェクトがよいと考えました。そして、世界に誇れる安全・安心都市として認めていただけるようWHO(世界保健機関)のセーフコミュニティの認証取得に向け努力している最中です。

具体的には、病気、けが、事故などを科学的データに基づいて検討・分析して、高齢者や障害者が事故やけがにあうのはどのような場面か、それらを解明し、その部分を集中的に改善していくこと、また、交通事故が多い場所などにも科学的なメスを入れて速やかな動きをしていこうというものです。

▼セーフコミュニティで横断的な対応、予防的な対応をしていこうということですね。

はい、そこで昨年6月に60を超える団体で組織する厚木市セーフコミュニティ推進協議会を設置しました。そして、分科会を作りそれぞれに活動を始めたところです。これまで個々に活動していた団体に横串を入れる組織ができ、これは障害のある方々にとってのセーフティネットであると信じております。昨年の11月13日には、この推進に向けて「市民総決起集会」を開催しました。約350人の市民が参加しました。

▼街のバリアフリー化も、厚木市の大きな特徴といえるかと思いますが、どのように認識されていますか。

厚木市移動円滑化基本構想を策定しており、また、国土交通省のバリアフリー化・無電柱化のスーパーモデル地区指定を受けて、市街地の整備を進めてきました。私自身、車いすに乗ったり、障害のある方のお話をうかがったりしながら、歩道をしっかりと整備し、動線を確保するという考え方でおります。厚木の街は多くの障害のある方々をお見かけするので、ずいぶんと外出しやすい環境になっていると思います。課題は、自転車対策です。不適切な駐輪がバリアになっているので、街の再開発計画の中でも駐輪場を整備していかなければなりませんし、市民の心づかいも大切です。

▼ところで、障害者の地域支援事業の一環で総合相談を設けていらっしゃいますが、そこでは3障害を分けずに、一体となって相談を受けているのですね。

あつぎ障害者自立生活センターをはじめ、身体・知的・精神それぞれの障害を専門とする市内の相談支援事業所から職員を派遣していただき、3障害に対応した総合的な相談窓口として、平成18年11月に設置しました。本厚木駅前の総合福祉センター内で月~金曜日の9時から17時、3人の相談員が協力しながら取り組んでおります。ハートとハートを結ぶという意味で「ゆいはあと」と名づけています。

ゆいはあとは隣の愛川町、清川村の障害のある方やご家族も対象としており、出前相談も行っています。まずは相談の入口としていただき、その後個別支援会議を開いて、各支援機関が手をつないで支援していけるように、市は、そのコーディネーター役を担えるように心掛けております。

▼相談の中には働きたいという相談も多いと思いますが、市内の障害者の就労状況はいかがですか。

市内の民間企業の実雇用率は1.63%(19年3月現在)です。そこで障害のある方の安定的な雇用を促進するため、障害者を雇用する事業主には「障害者雇用奨励交付金」を(20年度24か所)、また職業適応能力を向上させ、一般就労につなげるための福祉的就労協力事業所には「福祉的就労奨励金」を交付しています(20年度14事業所)。

▼そういえば、厚木市は障害関連の社会資源がたくさんありますね。

神奈川県総合リハビリテーションセンターをはじめとして市内には入所・通所を含めて10施設あります。当然、市内で暮らす障害のある方は多く、これも他市にない特長だと思います。それらを社会資源として捉え、地域交流事業を積極的に展開しています。地域移行に向けたケアホーム、グループホームの整備も進んでいます。また、知的障害施設連絡会、障害者地域作業所連絡会などそれぞれのネットワークがありますが、以前より、市も定期的にそれぞれの会議に出席し、意見交換などを通じて情報の共有や連携を図ってきました。防災関連では、知的障害児者施設と災害時における緊急受け入れに関する協定を結び協力体制をとっております。

平成19年3月に「厚木市・愛川町・清川村自立支援協議会」が構築されましたので、この協議会を通じて、行政と各障害者支援機関が相互に情報を共有し、協働で障害のある人が地域でいきいきとした生活ができるよう取り組んでいきたいと考えております。最近は、居宅介護サービス利用者150人と14の施設・病院にアンケートを実施し、ニーズを把握するとともに、障害者福祉対策への提言も行っていただいております。提言内容には、障害特性に配慮したサービスの提供、優れた人材の確保、介護報酬の見直しなど、市レベルから国レベルまでの幅広いご意見をいただいたところです。

▼自立支援協議会は、3市町村が一体となって運営されているということですが、近隣町村との連携をどう図っていこうとお考えですか。

広域で実施しているのは、福祉分野ばかりではなく、ごみ処理や図書館の共有化も図っています。またこの地域の特性もありますが、最近、鹿、猪、猿の鳥獣被害がひどくなっています。相手は山から出てきますから、対策は協力しあって一緒にやらないといけません。福祉もそうではないでしょうか。近隣自治体が協力して作り上げるものだと思います。自立支援協議会の専門部会は、従来の身体、知的、精神の障害種別ごとの縦割りではなく、障害のある方が共通して持つ「生きづらさ」に着目し、生涯を通じて一貫した支援が地域全体で行えるようになることを願って、「発達支援部会」「進路・就労支援部会」「生活支援部会」というように、ライフステージごとに部会を設置しております。

▼障害福祉計画も市町村単位で考えがちですが、もっと広域で考えるべきこともありますね。近隣全体を考えた施策が必要ということですね。

基本は隣り近所、仲良くするということです。自分の市さえ良ければいいという考え方ではだめですね。地域支援も「ゆいはあと」だけで解決していくのではなく、他市の相談支援の職員と協議しながら進めていることも多いのです。そういうことを考えると、一市町村だけで福祉をやっていくというものではないですね。

この地域で言えば、川がまさにバリアなのです。「対岸の火事」「川向こう」ではいけません。福祉というものは、他人ごとではなく取り組んでいくものです。川をバリアではなく、人をつなぐ資源と考えなければいけません。私は、相模川を境にした自治体がもっと共通認識をもって、環境保護、川との関わり、観光などをみんなで考えよう、「相模川サミット」を開催して、福祉やまちづくりに共通することを話し合おうと、県知事にも提案したところです。

▼最後に、障害者福祉について一言お願いします。

障害のある方には、もっともっと外に出てもらうことが大切です。静から動に向かう必要があります。その「動」に向かうには、インフラも必要、その中でもマンパワーが必要となります。そうした環境整備を今後も続けていく努力をしていきたいと思います。


(インタビューを終えて)

小林市長は長年厚木市及び神奈川県行政に関わってきた方なので、近隣市町村との共存共栄を進めていますが、その一環で障害者福祉も捉えているということが理解できました。つまり、自治体完結型ではなく、障害者の暮らしというものを考えれば広域での社会資源の活用や支え合いというものが必要となります。本企画「わがまちの障害福祉計画」もいずれ市町村連携型の試みなどを取り上げることもよいのではないか、とヒントを得ました。また障害者福祉は、事故防止や救急医療体制など広く「安全・安心」を求めた取り組みとリンクする必要があるということも再確認しました。そして、市長が述べられた「縦割りに横串を入れる」「川向こうと結ぶ」「静から動に向かう」というキーワードが印象に残りました。