音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

列島縦断ネットワーキング【奈良】

知的障害のある人たちの地域生活の拠点「ぷらっと」

森本育代

ぷらっとができるまで

奈良県上牧町社会福祉協議会は、隣町にある河合町社会福祉協議会と共同で、平成14年度からレスパイトサービス事業を実施してきました。この事業では、知的障害をもつ人の地域生活を支援するため、毎月1回のレクリエーションや外出などの余暇支援活動、ボランティアの養成、地域への啓発活動、本人会の活動を開催しています。地域や本人同士の交流、また障害をもつ人の社会経験を獲得する場として地域のボランティアさんの協力を得ながら少しずつ定着していきました。

このような事業を通して、本人やその家族と関わらせてもらう中でさまざまな課題が見えてきました。一つは障害をもつ人や家族が、特に学校を卒業してからの生活に強い不安を持っている方がとても多いということ。二つめは地域で身近に福祉制度や生活のことを相談できる機関が少ないことで悩みを抱え込んでしまっていること。三つめは一般就労へつながるような支援機関や福祉的就労の場として、本人が定期的に通える場を望む声が多いことでした。

また、身近な地域で本人同士が交流し、仲間作りへとつながる場の必要性も感じました。本人が地域で生活する中で仲間同士の支え合いは欠かせません。気軽に立ち寄れる場や、互いの思いや悩み事を打ちあけられるような友達と語れる場をもつことで、主体的に自分たちの生活を考えることができ、本人会活動へと広がりをもたらすことができるのではないかと思いました。

私たちはこのように働きながら仲間と交流できる場が、本人や家族だけが利用するのではなく、地域住民とふれあえる場にするため、地域の中に作ることに意味があると思いました。そして、喫茶店として開店することで、気軽に地域の人がお客さんとして来店してくれれば、自然に地域の人と障害をもつ人とが関われるようになると考えました。

こうした思いを経て、社会福祉協議会とは別の地域の商店が並ぶテナントに、平成17年8月に「ぷらっと」が誕生しました。

ぷらっとの事業内容

ぷらっとでは、次のようなことを大切にしながら活動しています。

  1. 障害をもつ人の働く場の提供
  2. 障害をもつ人のエンパワメント
  3. 障害をもつ人が自由に集まり語り合う場づくり
  4. 関係機関との協働により気軽に相談できる場づくり
  5. 障害をもつ人と地域住民との関係づくり

「カフェぷらっと」の営業は、月曜日から土曜日の朝9時から夕方4時までです。初めは慣れない喫茶業務で働くメンバーも、失敗しながらでもお客さんとふれあうことで仕事の楽しさが増していったようです。ぷらっとでもイベントを開催し、地域の人に参加してもらい、メンバーもなるべく地域の行事に参加することで、少しずつぷらっとを知ってもらうことができました。

働くメンバーは週1回から月1回の人などさまざまですが、メンバー全員でぷらっとを作り上げています。毎月第4日曜日に開催している「ぷらっと会議」は、メンバー全員が集まり、日々働いていて感じたことや気付いたことを話し合う大事な会議です。自分たちのお店は自分たちで作っていこうと、みんな熱心に喫茶店の運営などを話し合っています。

喫茶営業とは別立てで、毎月1度「ぷらっと講座」を開催しています。これは仕事ではなく、自分たちで企画をしてゲームや外出をしてメンバー同士の交流を図っています。働いている時とは違う顔でみんな楽しそうに参加し、同じ仕事場で働く者同士の関係性もできています。そして、自分の出勤日以外でも、気軽にぷらっとへ足を運べるようになってきたのではないかと思います。

ぷらっとの今後

ゆっくりと少しずつ、メンバーの中に友情関係やぷらっとが自分の働く場という意識ができ、さまざまなイベントを通して、たくさんの人に支えられながらぷらっとは地域に根付いていきました。

そんな中、平成18年4月にぷらっとが引っ越しをすることになりました。運営主体である社会福祉協議会が新たにできた障害者福祉センターへ転居することになり、それに伴ってぷらっとも移転することになりました。現在は、この福祉センターの一角に喫茶コーナーを設けています。前の店舗は大通り沿いにあり喫茶店の店構えも目立ったことから、少ないながらも地域のお客さんが来店することがありましたが、福祉センターは駐車場が狭く、道路から建物も見えにくいためにお客さんが激減しました。

メンバーにとって、喫茶店で働く楽しみの一つはお客さんとのふれあう時間でした。このままでは、ぷらっとが障害をもつ人ももたない人も交流できる接点の場所として存在する意味が無くなってしまいます。そこで、少しでも地域の人に福祉センターに足を運んでもらえるよう、社協事業として夏祭り等のイベントを開催しました。

また、ぷらっとの喫茶コーナーでは、自宅でいらなくなった本を提供してもらい、自由に読書や本の持ち帰りができる古本喫茶を始めました。たくさんの地域の人に協力していただき、今では壁一面にある棚に本がびっしり詰まっています。ほかに、福祉センターの中庭を利用して小さな農作業を始めました。季節の野菜や簡単なハーブなどをいろんな人に教わりながら栽培し、喫茶メニューに取り入れています。

移転当初に比べ福祉センターの利用者は少しずつ増えてきましたが、まだまだぷらっとが障害をもつ人と地域住民とが交流できる場になっているとは言えません。しかし、ぷらっと会議などのメンバーの意見では、少しでも地域のお客さんに来てもらえるような工夫や、自分たちでチラシやポスターを作り、掲示板や店頭に置くなど積極的な意見が出されました。このように地域に出向き、自分たちから発信していこうという思いは、これまでのイベントや喫茶の仕事の積み重ねの中で芽生えたものだと思います。今後も地域の中でぷらっとを知ってもらうための活動を積極的に展開し、障害をもつ人が地域と関わりを持ちながら当たり前に自分らしく暮らせるまちづくりを目指します。

(もりもといくよ 上牧町社会福祉協議会)