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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

障害者自立支援法の見直しの答申を受けて

海原泰江

はじめに

特定非営利活動法人あまねは、現在、法定事業として居宅介護支援事業所と2か所のケアホーム、法定外事業として神奈川県の独自制度である障害者地域作業所を4か所運営している。主に知的障害者の方が利用しており、すべての事業所を合わせると100人以上の方が利用している。

私たちの事業の礎は『地域に根ざした』『仲間たちを主人公』にした作業所を作ろうと、地域の多くの方とともに26年前に立ち上げた法定外事業である障害者地域作業所(小規模作業所)である。

神奈川県は昔から他県と比較し、圧倒的に入所型の施設が少ない県である。そのために、障害当事者や家族とともに昭和50年代に入ると生活を支える仕組みとしてヘルパー派遣事業、活動の場として障害者地域作業所制度を、そして生活の場としてのグループホーム制度などを国に先駆けて作り、在宅福祉(地域福祉)に力を注いできた。いろいろと課題はあるものの、今改めてこの時代の神奈川県の行政施策を考えてみると、障害者地域作業所実施要領の目的に「本事業は、障害者の地域ケア対策推進の一環として地域ぐるみの協力により、主に就労することが困難な在宅障害者が作業活動等を通じて、地域社会の一員として生活することを促進するものである」と書かれているように、障害当事者の願いを神奈川県の実態に即し、制度化していったと思われる。

利用者負担と所得保障

障害当事者の方が一番腹を立てているのは、当然生きていくために必要な食事の介助やトイレに行くことをはじめ、働く場である施設から利用料の徴収(利用者負担)をすることである。今までは、収入に応じて負担(応能負担)していたものが、障害者自立支援法の施行後は、上限設定されているものの原則利用した1割を負担する応益負担(定率負担)となった。障害当事者をはじめ、多くの関係者の運動によって軽減措置はとられているものの、負担の撤廃はこの見直しからは感じられない。

もしこのまま利用料の負担を継続するのならば当然、所得保障とセットで考えなければならない。福祉先進国と言われている北欧は、障害者が支援の対価として支払うことが可能な所得保障がなされている。しかし、見直しでは所得保障も検討すべきという文言で、実行性のあるものにはなっていない。今後、実効性のある施策の構築に期待したい。

地域での暮らしを支えているなかで見えてくるもの

(1)地域生活支援事業と自立支援協議会

私たちの事業所は、障害をもつ方の暮らしの場・日中活動の場として、生活や余暇を支える支援と地域での暮らしを支えている。当然、全国一律の基準で給付を行う自立支援給付と、各自治体の特性や利用者の状況に応じてサービス形態や利用方法等を柔軟に設定する地域生活支援事業とを利用して、事業を展開している。

地域生活支援事業は多岐にわたっている。ここで課題となるのは、自立支援法施行以前から権限委譲に伴う政策と実態との乖離が懸念されていたが、市町村事業化による格差問題と市町村間の社会資源の不均等である。

当法人あまねで実施している居宅介護支援事業所は、知的障害者の移動支援が支援の大多数を占めている。しかし、横須賀市と隣の三浦市でも、移動支援に対する考え方の違いや報酬単価の違いがでている。たとえば作業所には横須賀市と三浦市の方が通所している。横須賀市は作業所や施設の通所に移動支援を利用することができるが、三浦市の場合は利用することはできない。些細(ささい)なことだが、同じ作業所を利用しながら、一人で通所することが困難な利用者が移動支援を利用できない場合、家族の支援がなければ日中活動の場を利用することができない状況が生まれている。これでよいのだろうか。サービスを市町村間で調整する仕組みとして圏域の自立支援協議会があるが、まだ十分に機能しているとは考えにくい。

今回の見直しのなかで、自立支援協議会の法律上の位置づけを明確化することが触れられているが、昨年8月、横須賀市の自立支援協議会が立ち上がり会長として職務を遂行するなかで、実効性のあるものにしていくための企画・調整には時間も労力もかかり、予算措置がないなか、事業所運営をしながら手弁当で実行していくことには限界を感じている。法律上の位置づけをするのであれば、最低限の予算措置はきちんとすべきであると考える。

(2)小規模作業所の移行について

見直しのなかでは小規模作業所の移行促進について触れているが、国が大多数の移行先として考えている地域活動支援センターも、神奈川県内の各市町村によって考え方に大きな違いが出てきている。国が示した大枠の考え方に沿って制度設計しているところ・個別給付事業と同じ仕組みで制度設計しているところ等々。いくら各地域事情によって在りようが異なる地域生活支援事業であっても、必ず実行しなければならないメニューとなっているのであれば統合補助金の中で実施せず、制度の枠組みとそれに伴う予算措置は別立てで行うべきである。

小規模作業所問題は、以前から国として避けては通れない問題として捉え、小規模通所授産施設制度や基準該当デイサービス事業などを考えてきた。しかし、いずれも根本的な解決には至らずにきている。今回の地域活動支援センターも市町村事業である限り、根本的な解決策にはなっていないと考える。

小規模作業所問題を考えるとき、「なぜこの制度がここまで広がってきたのか」をもう一度考えていく必要があると思う。決して法定内事業が不足していただけではなく、人として障害のある方にそっと寄り添い、共に悩み、その人と一緒に歩んでいこうとする相談支援の原点が小規模の作業所にはあったからだと考える。だからこそ作業所にはさまざまな障害の方が集まり、課題を発信し、地域を変えていく力を発揮したと思う。このことを本当の意味で生かしていくことのできる新たな制度が必要だと考える。

(3)相談支援事業の仕組みと地域生活に必要な「暮らし」の支援

支援費の導入以来、それまでの措置制度から契約制度に代わり、障害者が主体的にサービスの内容を決定できる仕組みとした。考え方としては当然なことと思うが、権利擁護システムが伴っていないことに大きな不安を感じる。そして相談支援体制の充実とうたっているものの、相談支援事業所だけでは障害者の支援はできない。また本当に困った事態に24時間対応できる体制にはなっていない。そのために、当居宅介護支援事業所の担当者の携帯電話には、早朝・夜間・深夜を問わず「よろず相談事」が持ち込まれ対応している。

しかし、これは自立支援給付対象にはならず、まったくの厚意で行っていることである。今回24時間相談支援対応の必要性が盛り込まれ、自立支援給付の対象とするよう検討するということに期待するとともに、その際は相談支援事業所だけでなく、実際に、多くの場面で支援している事業者にも支援給付対象となるような仕組みも必要であると考える。

さいごに―全体を通して感じること―

昨年の12月16日に発表になった見直しの提案に目を通し、障害者自立支援法が施行されて以来、課題として挙げられている内容の根本的な解決とは程遠い内容だと感じている。

今回ここに挙げた内容以外にも、実際の支援の中からは自立支援法の多くの矛盾や課題がでてきている。そして、それらのことを総合して考えてみると、この制度が社会福祉基礎構造改革に端を発し、国の行財政論が先行したなかで作られたもので、障害者の生活実態や願いから積み上げられたものではないということが、根本にあるように思えてならない。

見直しに当たっての視点の1番目に、当事者中心で考えるとなっている。それをぜひ実行していただくよう期待したい。そして、制度設計を担当する担当者は、当事者の話を聴くだけでなく、実際に多くの現場を見て実態把握をするとともに、先駆的に取り組んでいる事例に学び、施策を構築していただくことを心から期待する。

(かいばらやすえ NPO法人あまね代表)