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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

ノーマライゼーションは、子どもから

片桐公彦

はじめに

昨年12月16日に示された社会保障審議会障害者部会の報告を受けて、障害児分野の今後についてどう感じるかを書いてほしいと編集部よりご依頼いただいた。まったくもって役不足であると感じつつ、これまでの私の実践を基に、今回の見直し案について、自分自身思うところを綴(つづ)ってみたいと思う。

障害児支援の見直し

障害児支援の見直しの部分で今回示されたのが、以下の3点となっている。

(1)ライフステージに応じた支援の充実
(2)相談支援や家族支援の充実
(3)施設機能の見直し等による支援の充実

(1)ライフステージに応じた支援の充実

ここでは「障害の早期発見・早期対応策」「就学前の支援」「学齢期・青年期の支援」が挙げられている。私自身は今まさに、ここの部分を担わせていただいている立場として、非常に期待をしてこの項目を読ませていただいた。

「障害の早期発見・早期対応策」:報告書では「障害の早期発見・早期対応の取組を強化するため、各地域において、医療機関(産科、小児科)、母子保健、児童福祉、障害児の専門機関等の連携を強化し、可能な限り早期から親子をサポートしていく体制づくりを進めていくべきである」とある。早期発見することで早期のサポートにつながり、障害を抱えつつも地域で暮らせる体制を整えていくという視点は必要ではあるが、多くの場合、「障害の早期発見」の第一段階となるのは検診である。一般的には1歳半検診、3歳児検診ということになろうが、それが障害なのか、定型発達の範疇におけるものなのかを判断することは、ここの段階では難しい。就学前にある程度障害の有無を把握する必要があることを考えると、5歳児における検診の仕組みを検討するべきである。

「就学前の支援」:障害者自立支援法の目的が「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与すること」であることを踏まえて考えるならば、子どもの時から生まれた地域で必要な療育や教育を受けられる環境を保障することは、基本的な考え方として盛り込まれるべきである。この際、専門的支援が「ハコ」に象徴されるようなハードに偏ったものではなく、専門的な機能をアウトリーチさせることを基本とした、あるいは身近なハードでサービスが受けられるような仕掛けが必要であると考える。車で1時間以上もかかるような児童デイサービスでないと療育サービスが受けられない、ではその子どもは地域からどんどん離れていくことになる。たとえば、既存の保育園に専門職が出向くといった方法で、なるべくその地域から障害をもった子どもが離れることがないような制度的なインセンティブを働かせる必要があるだろう。

「学齢期・青年期の支援」:社会的な状況の変化も相まって、障害児を抱える母親の就労率はここ数年で飛躍的に上がった。それ故に放課後・長期休暇における支援の在り方は非常に重要であり、緊急性も高い。新潟県上越市は、ここ数年で普通学校に通う障害のある子どもが増え続けている。小学生でいえば、特別支援学校を選択するのはほんの数人という状態である。中学校においてもその傾向は引き継がれ、普通中学校への入学希望も増え続けている。小学生であれば、障害があったとしても放課後児童クラブの指導員の加配対応で乗り越えることができるが、中学生になると、部活動に参加できない障害のある子どもは放課後の支援が全くない状態となる。

報告書の中では「放課後型デイサービス」という新たなサービスの可能性が記されており、「単なる居場所としてだけではなく、子どもの発達に必要な訓練や指導など療育的な事業を実施するものは、放課後型のデイサービスとして新たな枠組みで事業を実施することとするべきである」とある。【居場所的機能=日中一時支援事業】【必要な訓練や指導など療育的機能=放課後的デイサービス】という切り分け方を想定していることが読み取れる。個人的にはこの放課後型デイサービスには期待を寄せており、中高生の部活動的なアクティビティができれば面白いと思う。

ただし、これも放課後の機能だけが自分の学校区から離れた「ハコ」に対して機能が付くといったものであると意味はない。あくまで「自分の通う学校区」で完結できるような仕組みを求めたい。

(2)相談支援や家族支援の充実

「ライフステージを通じた相談支援の方策」:障害児にこそ丁寧なケアマネジメントが求められていると強く感じる。学齢期には、長期休暇や家族環境の変化などでサービス利用を複雑に組み合わせて乗り切っている家庭がある。今回、障害福祉サービス利用計画作成費対象者の大幅な拡大が報告書の中でも示されたが、ぜひとも児童を積極的に対象に含めることを期待したい。さらにサービス利用計画作成の報酬についても、相談支援を自立支援法の理念を実現するための「実弾」として位置付けるのであれば、報酬を引き上げない限り一般化されていかないだろう。

また関係者が集まっての個別支援会議すらまともに開かれていない地域もまだ多く存在する。就学前から就学期、それから青年・成人期へとライフステージを通じた相談支援の出発点は「まず集う」ことに尽きるように思う。こうした個別支援会議の開催については報酬上、一定の評価が必要だと考える。

「家族支援の方策」:私がこの世界に足を踏み入れたのは、障害のある子どもを抱える家族の負担を少しでも軽減したいというところが出発点になっている。それだけにこの項目については強い関心がある。報告書には「家族に対する養育方法の支援」「レスパイトの支援」と書かれているが、特に「レスパイト機能」については地域で障害児やその家族を支えるという意味では、何においても整備しなければならないものだと感じている。冠婚葬祭やほかの家族の急用など、人の暮らしとは突発的な出来事の連続である。また片時も目を離すことのできないことの多い児童期において、家族の頑張りだけを本人を支える資源にしてはならない。セーフティーネットとしてのレスパイト的な機能が地域支援のサービスとして位置づくことが必要であり、日々の暮らしにおける割引感を埋めていくことで、地域での暮らしを信じることができるのだと思う。

レスパイトの機能として、私が必要だと思うのは次の3点である。

  • 場所と方法を固定しないこと
  • 365日24時間であること
  • 緊急時にこそ利用できること

この3つが満たされていると、家族は何か不測の事態が起きたとしても安心して地域で障害児を育てることができることを実感している。短期入所は、家庭的な雰囲気のある一軒家でも事業として成り立つような報酬にする必要がある。行動援護は突発的利用には対応できないことになっているが、たとえば強い自閉症の方の突発的な対応には高い専門的支援が必要になる。個別支援計画に落とし込みきれない需要についても認めるような柔軟な運用ができれば、安心感は増すはずだ。

(3)施設機能の見直し等による支援の充実

児童入所の機能については、報告書を読む限り「その機能の充実」と記されているが、軸足は地域においた上での機能の充実を望みたい。障害児の前に「子ども」である彼らに必要なのは、施設での暮らしではなく地域である。「地域」とは何か?と問われれば、私は自分の学校区の範囲であると感じている。自分の学校区の中で基本的な暮らしが整えていけるような仕組みの拠点として入所施設が存在することは許容できるとして、そのハード機能が肥大化するようなことがあってはならない。

さいごに~ノーマライゼーションは、子どもから~

ノーマライゼーションとは「障害者の住居、教育、労働、余暇などの生活の条件を、可能な限り障害のない人の生活条件と同じにする(=ノーマルにする)こと」とある。これは子どもにこそ保障されるべきものと考えている。自らの軸足を、生まれた地域でとするのであれば、のキーワードは「ニアレストサポート」であり「アウトリーチ」であろうと思う。「ハコ」ではなく「ヒト」に給付されるべきであり、「ここに行かないとサービスが受けられない」という仕組みでは、地域から切り離して支援を行わざるを得ない。

障害があっても子どもの時から、共に学び、遊び、育っていく、それを保障する制度が障害者自立支援法である。私は、それを信じたい。「ノーマライゼーションは、子どもから」なのだから。

(かたぎりきみひこ NPO法人りとるらいふ理事長)