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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

1000字提言

車いすと温泉

沖川悦三

チェアスキー行事で車いすの方と温泉や大浴場のあるホテルに宿泊することがよくあります。ほとんどが車いす用に配慮されたホテルではありませんが、彼らの多くがアスリートなので工夫しながら入浴をしています。

一般のホテルの大浴場で入浴するには、まず車いすの上で服を脱ぎ、自分の車いすのまま洗い場に入って洗い場の床に降ります。そして体を洗ったり浴槽につかったりしてゆっくりしたあとは、洗い場の床から車いすに上がらなくてはいけません。車いすから床への乗り降りは大変なことです。特に床から車いすに上がるのは一苦労です。直接できない場合は、浴室に置いてある腰掛けなどを補助に使って乗り降りしますが、それでもこの動作をするのは大変です。

近年、受傷後のリハビリテーション期間が短く、車いすから床への乗り降りが完璧にできるようになる前に退院することになる方が多くいらっしゃると聞きます。このことに限らず、車いす上での動作に慣れる前に退院ということになるようですが、こうした状況を補うのに、車いすの先輩たちとのつきあいが大きな力になります。大浴場のあるホテルなどで宿泊を伴う行事に参加するのは、かなり有効です。

「温泉」の大浴場でも同じような入浴方法になりますが、温泉では車いすに大きな負担がかかります。そうです、温泉の多くには金属を腐食させる成分が含まれています。洗い場に入った車いすには温泉が直接かかるばかりでなく、体に温泉のお湯がついたまま車いすに乗り降りしますので、車いすの全体に温泉がかかることになります。日常用の車いすはこのような使い方をすることが想定されていません。フレーム部分は腐食しにくいように塗装されていますので問題は少ないのですが、駆動輪やキャスターの回転部分に使われている軸受け(多くはボールベアリング)にはそのような処理がされていません。水をジャバジャバかけるのもあまりよくはありませんが、温泉など、さびの原因となるようなところを通ったあとは、軽く水洗いして乾燥させたほうがいいでしょう。

「車いすと温泉」という組み合わせでは、他にもまだ苦労することやそれらを解決する工夫などがありますが、何事も経験しないと身に付きません。仲間をたくさん作って、いろいろなことにチャレンジするのもいいのではないでしょうか。

(おきがわえつみ 神奈川県総合リハビリテーションセンターリハ工学研究室)