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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

ワールドナウ

第3回インターネット・ガバナンス・フォーラム報告
―すべての人のインターネットをめざして

野村美佐子

第3回IGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム)がインドのハイドラバードで2008年12月3日から6日にかけて開催された。ムンバイでのテロ事件(11月26日)の直後であったため会議直前でのキャンセルも多くあったが、94か国から1,280人の参加があった。

IGFとは、国連世界情報社会サミットがジュネーブ(2003年)とチュニス(2005年)で開催されたが、そこで解決されなかったインターネットの管理問題についてマルチステークホルダー(政府、企業、市民社会など)が政策対話を行うために発足した。2006年の第1回会合は、ギリシャのアテネで、2007年の第2回会合はブラジルのリオデジャネイロで開催された。

このIGF会議は、何かを決定する権限はないが、世界各国のマルチステークホルダーが対等に、インターネットを巡る諸課題について自由な議論を行うことができる。そしてその成果は着実に各国政府、国連機関に影響を与えている。

今回の会議のテーマは”すべての人にとってのインターネット“である。メインセッションにおいては、以下のテーマで5つのセッションが行われた。

  1. 次の10億人への到達(Reaching the Next Billion)
  2. サイバーセキュリティとトラストの推進(Promoting CyberSecurity and Trust)
  3. インターネット重要資源の管理(Managing Critical Internet Resources)
  4. 新たな課題―今後のインターネット(Emerging Issues the Internet of Tomorrow)
  5. 実績を評価し先に進む(Taking Stock and the Way Forward)

今回の会議で特筆すべきことは、情報保障として国連が認定する6つの言語での通訳、そしてインドの開催ということからヒンズー語も追加されていたことだ。また英語の要約筆記がメインセッションすべてに付けられ、その字幕を大きなスクリーンで見ることができたことは、聴覚障害者への配慮とともに、英語が第一言語でない筆者などには話したことが確認できてよかった。またインターネットによる同時放送が行われ、物理的に参加できない人も会議の様子を見ることで参加が可能となった。

3日のメインセッションは、「すべての人にとってのインターネット―次の10億人への到達」というテーマで、「多言語インターネットの実現」と「アクセス」の2つのパネルディスカッションから始まった。

前者には、WSISの障害者のグループを代表して、最初からリーダーとして関わってきたDAISYコンソーシアムの河村宏氏がスピーカーとして招待された。情報弱者である障害者について世界が関心を示し始めた証拠だ。また河村氏以外に、ユネスコやインターネットの管理民間団体などからもパネリストとして参加した。

このセッションでは、今日のインターネットにおける多言語性と多様性、そして将来のインターネットに関わるさまざまな問題に焦点が当てられた。たとえばソフトウェアの現地語化の重要性、そのためのツールの開発、ドメイン名の国際化などに言及し、すべての人が多言語で利用できるインターネットをめざして、さまざまな問題解決や活動やプロセスについて討議がなされた。

河村氏はスピーチの中で、障害者のウェブへのアクセスを推進するためにDAISYコンソーシアムによって開発された技術、DAISYについて述べた。また「事前に十分な情報を得た自由な合意」という国連障害者の権利条約の中でも言及されている民主的な参加の基本原理がインターネットの管理の基本となるべきであり、特に現在、インターネットコミュニティから排除されている障害者や少数派言語使用者、書記文字を持たない先住民族、そして非識字者の参加がDAISYにより保障されると主張した。

前記のメインセッションと並行して、ワークショップ、好事例フォーラム、あるテーマについて参加者が自主的に集うダイナミック・コアリション会合、およびオープンフォーラムが開催された。

その一つに、アクセシビリティと障害者に関するダイナミック・コアリション(Dynamic Coalition on Accessibility and Disability)のワークショップがあった。障害に関わらずインターネットがすべての人にとってアクセシブルでなければならないというアピールをすることが目的で、関係者が連携してセッションを行った。視覚障害、肢体不自由、聴覚障害をもつ当事者が次々にスピーカーとして登場し、それぞれの立場から情報のアクセシビリティについてプレゼンテーションを行い、参加者にインパクトを与えた。

国連障害者の権利条約第9条で、このセッションでは、スピーカーのコミュニケーションの保障としてカナダから遠隔要約筆記が行われ、スピーカーとなった難聴者がとてもそれに頼っていたことが印象的であり、アクセシビリティの重要性を参加者により効果的に訴えたように思う。今後、手話通訳、資料の電子ファイルでの提供など、障害に配慮した情報保障がIGFの中でさらに進むことが望まれる。

DAISYコンソーシアムの開発途上国普及担当者であるディペンドラ・マノーシャさんは、防災に関する情報のアクセシビリティについてのプレゼンテーションを行った。その中で、情報は、災害への準備(Disaster preparedness)、災害警報(Disaster warning)および救援活動(Relief operation)において重要な役割を果たすと述べ、アクセシブルな情報としてDAISYという情報技術を紹介した。

今回の会議で取り上げた新たな議題として、インターネットと気候変動に関するダイナミック・コアリション(Dynamic Coalition on Internet and Climate Change)による「ICTと気候変動」と題するセッションがあった。このセッションの目的は、気候変動におけるインターネットのインパクトを示し、二酸化炭素の排出を減少させる可能性を指摘することだった。同時に、参加者に活動の協力の呼びかけを行っていた。

閉会式においては、最後に第3回IGF会議の議長に代わって挨拶したJainder Singhさんは、先進国の経済やセキュリティのためだけでなく、開発途上国の経済が効果的に開発目的に対応する必要な健全で安定したインターネットのインフラを維持していくために、今後も継続して重要なインターネット資源の管理について話し合っていく必要性があると述べている。

今年のIGF会議はエジプトで開催され、2010年にはリトアニアで開催されるが、2006年に民間主導で始まったマルチステークホルダーによる連携と協力関係、そしてオープンな対話の場として、IGFの5年間の成果が期待されている。

(のむらみさこ 日本障害者リハビリテーション協会情報センター)

参考ウェブサイト
http://www.intgovforum.org/cms/