「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年5月号
今後の障害者の地域生活支援の展望
北野誠一
障害者自立支援法が施行されて、3年が経った現在、その一部を改正する法案が、国会に提出された。
その中身のメインは、概要等にもあるように12項目ある。
- 利用者負担の見直し、応能負担を原則に
- 発達障害者と高次脳機能障害者を障害者の範囲に
- 障害程度区分を、障害の多様な特性を踏まえた障害支援区分に
- 市町村に中心となる総合的相談支援センターを設置し、地域移行・地域定着相談支援の充実
- 自立支援協議会を法に位置づけ、活性化
- サービス利用計画(案)の対象者の大幅拡大と、支給決定への活用
- 障害種別に分かれていた障害児施設(通所・入所)の一元化
- 障害児の通所サービスの市町村実施と、放課後等デイサービス事業の創設
- グループホーム・ケアホーム入居者への費用助成の創設と、身体障害者を含めた利用
- 重度の視覚障害者の移動支援の個別給付化
- 都道府県による精神科救急医療体制の確保の法定化
- 精神保健福祉士による地域移行相談支援の法定化
さて、今回の中心テーマは、自立支援法の制定の背景及びそのポイントの一番に挙げられていた、「障害種別を越えた地域支援」ということなので、この12項目の改正点との整合性を考えてみよう。
まず3・7・9あたりは、その主旨に沿っているようにも見える。しかし、問題はそれほど簡単ではない。
3については、自立支援法附則第3条1項で「政府は……施行後3年を目途として……障害者等の範囲を含め検討を加え、……必要な措置を講ずる」とあった。
しかし、多くの障害者団体が要望していた、障害者の範囲を手帳等に捉(とら)われず、サービスの必要に応じて、たとえば難病者等にも適用すべきといった意見は取り入れられなかった。「障害種別を越えるシステム」の最大のメリットは「真にサービスを必要としている人にそのサービスが行き届くこと」にある。速やかに附則に基づいて「検討を加え、……必要な措置を講じ」られるべきである。
7については、実際には障害児施設の一元化は、障害者施設の一元化以上に、困難を伴う。心身の発達支援や自立支援等の課題が共通する部分と、「障害の多様な特性」と本人の希望・可能性に合わせた支援部分とのコーディネートが必要であり、支援の現場での一元化は、相当高いレベルが求められていることを認識しなければならない。これは、特別支援教育の現場でも同様であり、「地域で共に生きる仕組み」を構築することは、これからの私たちのもっとも大きな課題である。
9もまた、悩ましい問題を抱えている。知的障害者や精神障害者だけでなく身体障害者が使えることは、障害種別を越えた望ましいことだとは言い切れない部分がある。
私は、2年間、厚労省の補助金による障害者自立支援調査研究プロジェクト「グループホーム等のあり方に関する調査研究」を手伝ったが、身体障害者のグループホームに取り組んでいる自治体や事業所のアンケート調査におけるその意識と内容の格差は、極めて大きい。特に今後の利用者像については、介助者がうまく使えない重度障害者の自立生活に至るまでの過渡的ニーズから、介助はほとんど要らないが、地域に使いやすいバリアフリー住宅が無い軽度障害者の住宅ニーズまで存在する。地域の社会資源の格差によって、一定の利用実態の幅が生まれるのはやむを得ないが、バリアフリー住宅等の代替や、地域での自立生活の足かせとなることがあってはならない。
さらに、アメリカのカリフォルニア州の状況(2007年12月現在)等を見れば、知的障害者においても、グループホーム等で暮らす人の数(全体の20.1%)に、自分で借りた(買った)アパート・住宅に支援を導入して自立生活や支援付き生活を送る人の数(全体の17.2%)が近づきつつある。精神障害者の場合も、その状態像の振れ幅の大きさを考慮すればSupportive Housingのような、サービスを柔軟に組み合わせられる仕組みがベターなのは、言うまでもない。
ということは、身体障害者のグループホームが重要というよりは、むしろ障害種別を越えて、必要な住宅政策と、それぞれ個別のニーズに合った介助サービスが、うまくコーディネートされることが、障害者の地域生活の要である。
ということは、4・5・6あたりが重要だということになる。
4は、それなりに正しい。ただし、この障害種別を越えて機能すべき「総合的相談支援センター」を、どこが、そしてだれが担うのかである。知的障害者・発達障害者・精神障害者・身体障害者・難病障害者等を考えれば、さらに年齢を超えて認知症障害者やパーキンソン症障害者等を考えれば、本人が複数の障害をもっている可能性はもちろん、その家族に複数の障害(児・者)がいることは大いに在り得る。その時に、その本人及び家族に必要な支援を、その本人及び家族の生き方を尊重しつつ、アセスメントしてコーディネートする力量のある、一定数の専門職やピアサポーターが最低必要である。
この障害種別を越えて機能すべき「総合的相談支援センター」には、ジェネリックな相談支援者を配置すればよいと言うことではない。そのジャンルで一定の経験を積んだ社会福祉士や精神保健福祉士(12は、当たり前のことを述べているわけだが、障害種別を越えた支援と種別性の高い専門職との関係をうまくチームワークする必要がある)や看護師・保健師やPT・OT・STや臨床心理士・臨床発達心理士や介護福祉士やピアサポーター等のチームワークに基づくシステムを取るか、英国のGeneral Practitioner(プライマリーケア医)のような、一人で幅広い研修と経験を積んだジェネリックな相談支援者になるかだが、後者のハードルはかなり高そうであり、前者をまずは目指すべきだと思われる。
5は、重要だが、現状では市町村間の格差が大きすぎる。何より、障害種別を越えた当事者及びその家族と、担当行政者と、彼らの地域生活を支える福祉関係者・教育関係者・医療関係者・雇用支援関係者・警察/消防等関係者・住宅関係者・地域住民活動関係者等が、必要なテーマごとに結集し、その問題解決に向けてプロジェクトを起こす必要があろう。
6は3とも関係する。そもそも障害程度区分を、「障害の多様な特性を踏まえた障害支援区分にする」とは、どういうことなのか? 私は、「必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す区分であることを明確化」する必要など無いと考える。
カリフォルニア州の在宅支援サービス(In-Home Supportive Service:IHSS)の3年を擁した膨大な各業務量―時間ガイドライン分析においても、食事の準備から排泄支援に至る各業務量―時間の5つの支援程度区分ごとのアセスメント・ソーシャルワーカーの裁量の範囲は2倍を超えており、さらに、それを超えることも、複数のソーシャルワーカー会議で認められている。それが、個別性の大きい人間に対する介助支援の実態の反映であり、安易な標準化は危険である。
さらに言えば、カリフォルニア州のIHSSのようなパーソナル・アシスタンス・サービス(コンシューマー・コントロールのもとでの普遍的介助)こそが、障害種別を越えた地域支援と呼ばれるべきであって、10のような、特性ごとのサービスメニューを、あちらからこちらへという問題ではないように思われる。
軽度の視覚障害者であろうと、軽度の知的障害者であろうと、移動支援が要る時は要るし、重度の視覚障害者であろうと、重度の知的障害者であろうと、要らない時は要らないのだ。そんなものは、本人がパーソナル・アシスタンス・サービス(普遍的介助)を、本人の必要に応じて本人の生き方に応じて活用できるようにすればいいだけである。カリフォルニア州のIHSSは、学校の行き帰りだろうと、就労先だろうと、必要に応じて活用できる。そのような普遍的―個別支援を私たちは「障害種別を越えた地域支援」と呼ぶべきではないのか。
(きたのせいいち 関西地域支援研究機構(KRICS)代表)