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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

自立訓練・機能訓練施設の今後の展望

青木一男

1 当施設の概要

昭和48年に開設された七沢更生ホームは、神奈川県総合リハビリテーションセンターの福祉施設のひとつである。平成20年4月に肢体不自由者更生施設から自立訓練・機能訓練事業(80人)と、就労移行支援事業(25人、うち通所5人)へ移行した。

利用者の障害原因は年度によって変動があるものの、脳卒中が過半数を占め、次いで脊髄損傷・頸髄損傷、外傷性脳損傷となっている。入所経路は病院からが過半数を占め、次いで在宅から、老人保健施設などの福祉施設からとなっている。利用期間は平均して11か月。平均年齢は43.8歳で、男性の利用が9割を占めている。退所後の行き先は、家庭復帰が47%、老人保健施設や生活介護施設が21%、単身生活をされる方が17%である。

障害別の比率 H20年度
円グラフ 障害別の比率 H20年度拡大図・テキスト

2 新事業体系移行に際して配慮した点

(1)支援プログラムの見直し

当施設の支援プログラムは、隣接する神奈川リハビリテーション病院と連携した各種リハビリテーション訓練(PT・OT・ST・心理・職能・体育)、健康管理のほか、日常生活支援や社会生活力を高めるための各種プログラムを提供している。

社会生活力を高めるための各種プログラムには、市街地移動訓練、乗降訓練、調理訓練や、戸建ての宿泊施設を用いた宿泊訓練といった地域生活を意識したプログラムを提供しており、また、グループワーク援助技術を用いて脊髄損傷・頸髄損傷の方や、失語症の方への支援、障害別の家族懇談会も行っている。特に単身生活を目指す方への支援プログラムや、高次脳機能障害の回復段階に合わせたグループプログラムなどは、当施設の特徴的な内容であり、さらに機能回復関連では、訓練室で個別に行うだけではなく、グループで行うPT・OT、自主トレーニングと、支援段階に応じたプログラムを用意している。

これらの支援プログラムは新規に用意したものではなく、ほとんどが既存のプログラムである。しかし新事業体系移行前に「内容が事業の趣旨に適しているか、グループワークとして行うべきものか」等の見直しを行い、さらに実施の際はPTやOT・STなどのリハスタッフや、地域の事業所・当事者・ボランティアなど、施設職員以外の方にも加わっていただくことで、内容の濃いプログラム提供を心掛けた。

その中で特に効果があるのは、地域で生活する当事者(元利用者)の協力である。再び地域での生活を考える際、以前とは違った身体状況であることから、だれもが不安を抱えている。各専門スタッフからのアドバイスも当然必要であるが、実際に地域で生活をされている当事者から話を伺ったり、実生活を見せていただくことは非常に効果が高い。

(2)支援計画とモニタリング

約1年という有期限の支援期間を効果的に進めるためには、アセスメント・ニーズの整理・支援計画の作成・モニタリングが重要である。支援計画は以前から各生活支援員が作成していたが、新体系移行からは3か月ごとのモニタリングと支援計画の作成、6か月ごとの関係スタッフを集めた支援会議を徹底した。

特に支援計画作成の際は、都道府県の相談支援従事者研修やサービス管理責任者研修でも行われているように、利用者の思いに寄り添った将来目標と、そこからブレイクダウンした支援段階ごとの目標を設定し、分かりやすく意欲が高まるような説明文で作成するように心掛けた。

(3)地域の相談支援従事者との連携

安心して地域で生活するためには、単に機能回復訓練や住環境の設定をするだけではなく、これからの地域生活を支援する相談支援従事者の役割が大きい。そこで、支援期間の中期以降は地域の相談支援従事者と密に連絡を取り合い、地域のサービス調整会議に参加するなど地域の支援体制を築くための組織作りを共に行った。

3 具体的な取り組みと課題

(1)支援プログラムの展開

施設内外のスタッフと連携した支援プログラムを展開しているが、実施に際しては先方との調整に時間を要し、さらにグループワークで一定期間実施する場合は、担当する生活支援員が継続するなどの配慮が必要である。当施設では所内訓練を重視し、専任の生活支援員を配置しているが、近年は諸事情により配置数が減少したことで、変則勤務の生活支援員とチームを組むなどの試行をしている。

(2)住宅の確保

当施設では平成20年度だけで15人も単身生活へつなげているが、住宅の確保が重要である。公営住宅は周知のとおり当選確率が低く、民間のアパートを借りることが一般的である。しかし借りる際には保証人が必要になるが、近隣に身内がいない場合が多く、家主からの理解が得られにくい。また保証人協会の利用も勧められるが、最終的に契約までたどり着けず、その結果、支援期間を延長せざるを得ない場合もある。このことから家主が安心して貸せる制度や公営住宅への優先入居、また身体障害者のためのグループホームやケアホームの設置などの配慮が必要である。

入所経路 H20年度
円グラフ 入所経路 H20年度拡大図・テキスト

(3)ヘルパーの確保

日常生活を送るためにはヘルパーによる支援が必須であるが、人材不足から週末や夜間など事業所がヘルパーを派遣できなかったり、さらに身体障害の方に対する理解不足から対応に戸惑うヘルパー事業所もある。このため、ヘルパーとの関係作りをグループ学習や宿泊体験を通じて学んだり、またヘルパーに対しても介助方法や障害特性を助言するなど、双方への支援が必要である。

4 今後の展望

(1)利用料と施設運営

障害者自立支援法の施行により、施設を利用する際は収入に応じた費用の負担が求められるようになったが、当施設で施設入所支援も含めて利用した場合、最高額で9万円台(ひと月)の利用料となる。この金額は措置費の時代に比べ数倍も値上がりしている。費用の算定方法も前年度の収入であることから、現在無収入であっても、経済的な負担が大きくのしかかってしまう方もいる。

また介護保険の対象でもある方は、老人保健施設の利用も考える。当施設より少し高い費用で、健康管理と機能回復訓練、さらにクリーニングなどの身の回りの世話まで対応する老人保健施設は、特に家族にとってはありがたい存在かもしれない。しかし、社会復帰が期待できる年代の方であっても適切な支援を受けられないことが多い。

自立訓練・機能訓練を行う事業所にとっても、排せつ・入浴・食事、さらに夜間の体位交換などさまざまな生活場面での支援や、各種支援プログラムの提供を行うためには、生活支援員のほか、看護師、PTやOTなどの専門スタッフが必要である。特に単身生活を希望される方に対しては、アパート探し、契約、住宅改修、地域の支援スタッフとの打ち合わせ、家財道具の用意など、手厚い支援をしなければならない。

これらの人件費を利用料ですべてまかなうことは到底無理で、当施設の場合、県からの指定管理料が無ければ施設運営することは難しい。全国的にも自立訓練・機能訓練事業への移行率が低いが、このように採算が取れない状況であれば、各施設は躊躇せざるを得ない。今後は利用される方への軽減措置や、施設に対しては、期間内に単身生活を実現させた場合に特別加算を付けるなど、報酬単価の引き上げを検討する必要があろう。

(2)地域密着型の小規模事業所と総合リハセンターとの役割分担

現在神奈川県内には、旧肢体不自由者更生施設から自立訓練・機能訓練事業へ移行した事業所が4か所、旧デイサービスや身体障害者療護施設、地域作業所等から移行した事業所が5か所、合計9か所存在する。地域密着型の小規模事業所が誕生することで、生活拠点を変更することなく機能回復訓練を受けられたり、自宅での調理訓練や、自宅周辺での乗降訓練など実生活の中で支援を受けることができ、非常に効果的といえる。しかし実際の生活を送る住居がない場合や、専門スタッフが少ないことから小規模事業所での対応が難しい場合もある。

そこで当施設や、政令指定都市に旧法から存在する施設が「ハブ施設」となり、地域の事業所に対してサービス内容の支援を行うことを提案する。連携することで県内の事業所のサービス内容を均一化することができ、地域で生活される方が、住み慣れた場所で同じ内容のサービスを受けることが可能になる。

また当施設で一定の支援を行った後は、地域の事業所が引き続いて支援を行うことで、早く地域に戻ることができ、逆に地域で対応が難しい場合は、当施設で支援を行うなどの連携も行える。

地域密着型の小規模事業所が誕生することで、当施設を利用する方が減ることになるが、地域との連携を取りつつ、多くの専門スタッフがいる施設だからこそ提供できるプログラムの検討と、それに見合った定員数を常に考えていく必要があろう。

(3)自立支援協議会への参加

当施設がある厚木市は、神奈川リハビリテーション病院もあることから、身体障害の方が比較的多く居住されている。その分、ヘルパーなどの居宅サービスが求められるが、十分な対応が難しい。当施設の対象は全県域であるが、地元の自立支援協議会に参加することでこのような課題を共有し、解決策を共に考え、講師派遣などの協力を行うなど、地域を意識した施設運営が必要と考える。特に神奈川県では、自立支援協議会を県域・障害福祉圏域・市町村と重層化しているので、これらの協議会と深く関わりを持つことが、地域からの利用促進にもつながるのではないかと考える。

(4)医療機関との連携

当施設の利用者の多くは、40代や50代の脳血管障害による介護保険第2号被保険者である。現在、医療保険による回復期リハビリの後は介護保険サービスを利用する流れができており、回復期リハビリを利用した後、地域での生活が困難な方は老人保健施設などを利用される例が見られている。

しかし、再び社会参加することを考えれば、地域生活への支援プログラムを持つ自立訓練・機能訓練事業施設の利用に向けた流れを作ることが重要と思われる。数年前から地域の拠点病院を訪問し、当施設の役割をお伝えしているが、手ごたえは今ひとつであることから、有効に活用していただくための効果的な方策をさらに検討する必要があろう。

5 おわりに

七沢更生ホームは設立以来、社会復帰への通過施設の立場を貫き、多くの方々を再び地域へ送り出してきた。そして今も多くの元利用者が、支援プログラムに快く協力してくださるほか、小学校の福祉教育の講師を務めたり、当施設の将来について、当事者団体の立場から職員や自治体へ助言するなど活躍されている。

振り返れば多くの福祉人材の育成も行っていた。そんな元利用者の活躍ぶりは、私たち生活支援員にとっても仕事への意欲向上に繋がっている。

たとえ身体に障害を負ったとしても、人間の価値とは何ら関係無いことを理解し、再び地域で主体的に生活ができるよう、ご本人と家族、地域の福祉・医療関係者や一般の方々を支援する施設として、地域と連携しながら歩んでいくことが七沢更生ホームの役割であることを再確認していきたい。

(あおきかずお 神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ホームサービス管理責任者)