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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

障害者自立支援法による新体系移行の経緯と今後の展望

叶原生人

1 はじめに

いずみ野福祉会は1977年、「障害者も市民として自由に働き暮らせる保障を!」の理念を掲げ、大阪府岸和田市に誕生した。その後、大阪府南部地域4市を中心に、障害者の「働く場」「生活の場」となる施設づくりを進めてきた。その発展のなかで、知的・身体の障害を併せもつ最も援助を必要とする障害者の「自律」をめざす生活の場の拠点として、障害児・者を子に持つ家族と共に力を合わせ2002年10月、身体障害者療護施設「梅の里ホーム」(定員50人、ショートステイ5人)と、身体障害者デイサービス事業「デイセンター梅の里」(定員15人)を開所した。

障害者の「自律」についての考え方は、ADLの機能評価がほぼ全介助と低くても、一人ひとりのその人らしい生き方を支援する。自立は極めて困難であっても、人格のあるその人の内なる「自律」は可能であり、自律的意思を有しているという考えに基づいている。

開所した2002年10月時点では措置制度であったが、翌年4月から利用契約を前提とした支援費制度に変わり、この制度が定着する間もなく2006年4月に障害者自立支援法(以下、自立支援法)が施行された。この数年間、制度がいくつも転換しそのたびに利用者とその家族、施設が振り回され戸惑うなかで施設経営の舵取りを行うこととなった。

梅の里ホーム利用者の障害の状況

障害程度区分 区分1(0名) 区分2(0名) 区分3(0名)
区分4(1名) 区分5(11名) 区分6(39名)
年齢構成 30歳未満 29% 30~39歳 41% 40~49歳 16%
50~59歳 12% 60~65歳 2% 65歳以上 0%
意思疎通の状況 可能0%・やや困難22%・極めて困難33%・判断が難しい45%
特記事項 定員50人(利用者51人)・療育手帳A判定50人

2 新体系移行に踏み切る

このような状況下、1.利用者にとってよりよい暮らし方の追求、2.施設入所を切望する切実な声に応える、3.日中活動の充実を中心に支援の抜本的な改善を行う、という目標を掲げ、制度に振り回され戸惑うばかりではなく、利用者を中心とした事業の充実と改善のために新体系移行に踏み切った。

具体的に1と2については、個別支援計画に沿って2人部屋や個室という小規模居住の場への地域移行を実現させた。地域移行の「地域」という文言については、入所施設も「地域」の居住の場として重要な役割とその必要性があると認識している。入所施設、ケアホーム、福祉ホーム等の事業も利用者・家族にとっては必要性が高く、「地域」においては同じ生活の場としての価値があると主張したい。そのため、入所施設からの地域移行(脱施設)ではなく、同じ「地域」のなかで小規模居住の場への移行(以下、地域移行)として、あえて概念の整理をしておく。

3 地域移行の具体例の紹介

Mさん30歳、脳性マヒ、頸直性四肢マヒ、難病(身障手帳2級、療育手帳B1、区分6)。2002年10月入所。かねてから本人より、一人暮らしへの希望があり、2007年5月福祉ホームへ地域移行し、日中は作業所へ通いクリーニングのたたみ作業に参加。給料は5,000円、入居者自治会に参加し中心的な存在として活躍中。

Oさん24歳、体幹起立障害、難病(身障手帳1級、療育手帳A、区分5)。2002年10月入所。施設では時間をもてあましていたが、2008年9月ケアホームへ移行し、昼間は生活介護事業所へ通い作業に参加。給料は3,200円、職住分離により生活にメリハリができ、利用者集団ともうまく関係が保たれている。

この他に2人がケアホームへ移行し、日中は生活介護事業所での作業や訓練に参加。そして、地域移行により空いた居室に待機者が入居(大阪府の待機者238人、2008年11月時点)している。

3については、週3回の入浴など介護の質を低下させることなく、日中活動の具体化に対応するために、企画・運営を行う専門職員を2人配置し、個別支援計画を基にグループを構成し作業やクラブ、訓練を行う。

4 新体系移行で行った工夫と課題

(1)徹底した制度の説明

まず利用者・家族・職員への制度説明を徹底して行った。利用者に対しては可能な限り配慮して個別説明を行ったが、なかなか理解するまでは至らず、代わりに家族への説明に重点を置かざるを得なくなった。具体的には新体系移行と障害程度区分の説明、利用者負担金の仕組み、個別減免制度の活用、個別支援計画の重要性と同意、利用契約書や重要事項説明書などである。

家族からは「療護施設がなくなるのか」「施設から出ないといけないのか」「訓練や医療的ケアはどうなるのか」「職員が減るのか」など多くの質問がでたが、新体系移行は「あくまでも事業の充実と改善のため」と説明を行った。職員への周知も重要である。個別支援計画の策定と見直し、請求実務、記録の重要性を説明し、利用者・家族が不安に陥らないように結果を出すため職員が一丸となって取り組むよう努めた。

しかし、実際は移行前と比較して実務量が膨大になり、加えて日々の記録とその管理が多岐にわたり実務時間の確保に苦慮している。また、制度も通知によって次々と解釈が変わるので、そのたびに請求実務や場合によっては利用契約書、重要事項説明書なども変更が必要となり、職員は不安定な制度設計によって業務が忙殺されている。

(2)正当な区分判定のためのチーム編成

次に、「障害程度区分」自体の是非については本稿では述べないが、新体系移行に際して「正当」な区分判定がなされるよう学習会参加、判定マニュアルの読み込みやシュミレーションを行うため、介護とリハビリから専門職員を選びチームを編成した。実際に判定が始まり、各市町村の審査会から調査員が派遣されてきたが、全国一律の評価基準のはずが調査員によってその解釈の違いがあり大きく戸惑わされた。また書類などの取り扱いについても市町村審査会によってまちまちであったが、周到に準備をした成果もあり、「正当」な区分判定を主張できた。

障害程度区分のあり方については、新体系移行がなかなか進まない原因の一つになっているのではないか。程度区分と利用率によって報酬と人員配置が変わる仕組みによって、それが職員確保に直結するため、施設経営の課題としては重大である。一方、利用者・家族からは「区分次第で利用の可否が左右されないか」「支援の質が下がらないか」「格差は生じないか」という不安の声が届いている。今回の見直しで、さらにその矛盾が広がることにつながらないか懸念している。

新体系移行に伴い、大阪府障害者基盤整備事業補助金などを積極的に検討し申請を行った。改造や備品購入など支援の向上に活用できる内容となっているが、大阪府の場合、補助金申請の前提が「入所施設から地域へ」という自立支援法の趣旨に基づき、入所定員の削減が条件の一つとなっており、待機者がいる実態のなかで定員を減らすということはできず申請を断念した。実態に合わない補助金制度の解釈に矛盾を感じている。

また、梅の里ホームは2002年の開設のため、新体系の基準にそのまま合致したが、旧法施設では基準に合致せず、敷地の条件からも増改築も困難で定員を削減して居室や多目的室などの確保が必要であるが、身障ケアホームが制度化されてないために移行先がなく、大変苦慮されているという話も聞いている。

(3)課題は日中活動の充実

移行後の課題としては、日中活動の充実があげられる。梅の里ホームは生活介護1と施設入所1を合わせて、1.7:1の職員配置である。そのなかで日中活動の専任職員を配置しているが、入浴や食事、排せつ介護と並行して日中活動を行わなければならず、日中支援が思うように進んでいない。また、通所施設の生活介護1と比較して、通所施設は月曜日から金曜日の週5日、常に1.7:1の職員配置ができるが、梅の里ホームは同じ1.7:1で月曜日から日曜日の7日間のすべての支援を行わなければならず、おしなべて6:1程度の職員配置になり、通所施設と比較して大きな格差が生じている。

今回の見直しで加算制度の創設など改善策が出されたが、入所施設が利用者と職員を守りながら新体系へ移行し、安定した経営を行うためには課題が山積していると言わざるを得ない。

梅の里ホーム週間予定表

 
午前 入浴(女) 入浴(男) 入浴(女) 入浴(男) 入浴(女) 入浴(男) 余暇
午後 作業
クラブ
訓練
作業
クラブ
訓練
作業
クラブ
訓練
作業
クラブ
訓練
作業
クラブ
訓練
余暇 余暇

5 今後の展望

この数年、制度変革の波にのみ込まれ舵取りが思うようにできない状況下に置かれている。しかし、制度がどう変わろうが、私たちを頼りにしなければならない、障害者やその家族の切実な声に応えていかなければならない。

わが法人の理念の一つに「常に障害者とその家族など、関係者の深刻な実態の改善と切実な要求の実現を、法人の中心課題として追求する。」とある。また、全国身体障害者施設協議会の3つの理念では「最も援助を必要とする最後の一人の尊重」「可能性の限りない追求」「共に生きる社会づくり」とある。加えて、療護施設の7つの機能として、1.自立支援機能、2.専門的生活介護機能、3.治療・健康管理機能、4.社会リハビリテーション機能、5.地域生活支援機能、6.居住提供機能、7.情報提供機能を備え、求めに応えていく、とされている。

この姿勢を堅持し、入所施設の専門性を益々高めていくことが重要と考える。先にも述べたように、ケアホーム、福祉ホーム、そして入所施設も地域における生活の場の一つの選択肢として存在し、加えて前述した機能を備える専門施設としての役割を発揮しなければならないと考える。この機能は自立支援法が制度化される以前から考えられてきたことであり、制度化によってより柔軟で機動的に機能を発揮することが可能になるのではないかと考える。

地域生活における緊急時対応、家族介護の先行きの不安解消、自律訓練の場の提供、24時間相談できる入所施設が地域にあることの安心感。そして、災害時の拠点、小中学生の体験学習、介護教室の開催、市民向けセミナー開催、施設開放、自治会への積極的な参画など、現在、多くの入所施設が地域の拠点的な役割と機能を果たそうと奮闘している。

同時に施設機能の発揮、利用者・市民からの期待に応えようとすればするほど介護や看護、リハビリ職員の確保や処遇向上、医療的ケア、身障ケアホームの制度化、利用者負担金のあり方など引き続き課題を明瞭にしなければならない。そして、科学的な根拠をもって国に対して要望していく必要がある。

激動の社会福祉制度改革のなか入所施設が誇りをもって存在価値を主張し、障害者とその家族など、深刻な実態の改善と切実な要求の実現のため、最も援助を必要とする最後の一人を尊重する事業として貢献していきたい。

(かのはらいくと 社会福祉法人いずみ野福祉会 障害者支援施設梅の里ホーム施設長)