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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

ほんの森

わかりやすい障害者の権利条約
―知的障害のある人の権利のために―

社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会 発行

評者 野沢和弘

全日本手をつなぐ育成会
〒105―0003
港区西新橋2―16―1
全国たばこセンタービル8F
定価 735円(送料、振替料含む)
TEL 03―3431―0668
FAX 03―3578―6935

わかりやすく伝えるって難しいんです。自分がよくわからないことには難しい言葉を使ってしまう。わかりやすく書くためには自分自身がよくわかっていないといけない。つまり、難しいことを難しく伝えるのは簡単で、難しいことをわかりやすく伝えるのが難しいんです。

今さら言いにくいことなのですが、国連障害者の権利条約って意外にわかりにくいとは思いませんか? 法律ってのは読む人によって意味が違ってはいけないので、だいたい硬くて面白みのない文章なのですが、それでは知的障害のある人にはとっつきにくいですよね。障害者のための条約なのに、障害者自身によくわからないのでは意味がない、というわけで『わかりやすい障害者の権利条約』は作られました。

原文をかみくだいて読みやすい表現にしているだけじゃなくて、「役所などに絵カード、わかりやすい言葉での説明があるようにします」「私たちが生命保険に入れるようにします」などと、日本の現状に合った内容にして説明しています。換骨奪胎(むずかしい言葉だなあ)というか、権利条約の魂のようなものを確認しながら、まるで日本で障害者差別禁止法をつくっているような感覚で書かれているような気がしてきます。

全日本手をつなぐ育成会の国際活動委員会の長瀬修委員長は、国連の障害者の権利条約を日本語訳にした人ですが、その長瀬さんを中心に、何人もの知的障害のある本人が作業チームをつくり、さらに何人もの本人たちがボランティアとして途中から加わり、カンカンガクガクの議論をしてつくったそうです。「おわりに」に彼らの名前が出てきますが、いずれ劣らぬ論客というか話好きというか、カンカンガクガクぶりが目に浮かぶようです。というわけで、作業部会は全部で19回、1年半もの時間をかけてじっくりつくったのだそうです。

障害者の権利条約のことをよくわかっているというだけではなく、知的障害のある人のことをよくわかっていないとダメなのですね。本人たちの時間の流れや生活の風景の中からじっくりと言葉を見つけてつないでいくと、こんなふうな文章になるのだなあということがよくわかる本です。

(のざわかずひろ 毎日新聞論説委員)