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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

わがまちの障害福祉計画 埼玉県所沢市

埼玉県所沢市長 当麻よし子氏に聞く
総合的な福祉のまちづくりを目指して

聞き手:小山聡子(日本女子大学准教授)


埼玉県所沢市基礎データ

◆人口:340,967人(平成21年3月31日現在)
◆面積:71.99平方キロメートル
◆障害者の状況:(平成21年3月31日現在)
身体障害者手帳所持者 7,816人
療育手帳所持者 1,439人
精神保健福祉手帳所持者 1,332人
◆所沢市の概況:
東京都に隣接しており、都心への交通の利便性から高度成長期には大規模な宅地開発が行われ、平成21年には人口が34万人を超えた。北部の富岡地区は江戸時代の開拓によって整備された農地が広がり、南部は宮崎駿監督作品「となりのトトロ」の舞台にもなった狭山丘陵が広がっており豊かな自然にも恵まれている。市域の中心部には米軍所沢通信基地があり、現在は約7割にあたる203ヘクタールが返還され、跡地には、市役所をはじめとした公共機関や市民文化センター、所沢航空公園など多くの施設が計画的に整備されている。
◆問い合わせ先:
所沢市保健福祉部障害福祉課
〒359―8501 埼玉県所沢市並木1―1―1
TEL 04―2998―9116 FAX 04―2998―1147

▼はじめに所沢市の特色、魅力についてお話しいただけますか?

所沢市は首都圏30キロ、武蔵野台地のほぼ中央、東京都に接する埼玉県南西部に位置しており、6割が市街化調整区域にあたります。一言で言うと都内へ通う勤労者のベッドタウンとしての交通の利便性とともに、豊かな自然を兼ね備えた市ということになります。人口34万強の市でありますが、市内に野球(埼玉西武ライオンズ)とバスケットボール(埼玉ブロンコス)2つのプロスポーツチームの本拠地があり、これらも市活性化の売りとしています。市内の合計特殊出生率は1.15で、県や全国の平均を下回る傾向にある一方で、高齢化率は年に1%ずつアップしており、来年は20%の大台に乗るでしょう。

▼そんな所沢市で、障害のある人たちへの支援のあり方の特徴といえるものは何でしょうか。

基本はノーマライゼーション理念にのっとって、障害のあるなしを問わず地域でその人らしい暮らしができるよう支援をするということで、ハード面の改善と、多様な人々に対する「理解」といった市民の意識変化を図ることの両方を進めるつもりです。これは障害者支援単独で考えるのではなく、ユニバーサルデザイン推進基本方針に基づいた総合的な福祉のまちづくり推進の一環と位置づけるということです。総合性という意味で、所沢市の障害者支援計画の位置づけを言いますと、これは第一次所沢市障害者計画(10年度~19年度)と、第一期所沢市障害福祉計画(18年度~20年度)の基本的理念を継承しつつ、さらに第四次所沢市総合計画(13年度~22年度)や所沢市地域福祉計画(17年度~26年度)等とも整合性を保ちながら障害者施策の基本方針と施策展開の方向を明らかにするものです。

また、市内には国立障害者リハビリテーションセンター、障害者職業リハビリテーションセンター(運営は独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構)、防衛医科大学校病院、国立秩父学園など国立の施設がいくつもあり、地域の社会資源として大いに力を発揮しています。

▼所沢市では特に障害者相談支援事業に力を入れているそうですね。

障害者相談支援事業は平成21年度予算額が4613万円で、市内5つの事業所(さぽっと、ぽぷり、所沢しあわせの里、所沢どんぐり、ところざわ障害者相談支援センター)に委託をしています。これらの事業者は地域自立支援協議会の核となって地域の障害者福祉に関するシステム作りを行うほか、それぞれの事業所ですべての障害に対応することを目指します。また、今後は中心的役割を担う総合相談窓口の設置に向けて検討も進める予定です。

▼三障害を一元化したサービス支援体制ということは障害者自立支援法で打ち出された基本方針の1つですが、実際の運用はいかがでしょうか。

それぞれの事業所で知的、身体等もともと対応していた障害領域があって、急にすべての障害をカバーしなさいといっても難しい面はありますが、そのあたりは社会福祉協議会等に中央機能を持つ総合相談窓口を置いて、十分な連携が行えるようにネットワークの構築を目指したいと考えています。地域における支援体制の確立という点では、精神障害分野ではまだまだ社会資源そのものが不足しているという面もありますが、総合性とネットワークと資源の創設それぞれから進めていきます。

▼就労支援事業も目玉でしたね。

市の単独事業としての就労支援は、所沢市社会福祉協議会へ委託し、「ところざわ就労支援センター」を設置し、7人の職員により身体・知的・精神の各障害者及び発達障害者の一般就労を促進するための支援を行っています。業務内容はジョブコーチ、職場実習、事業所の巡回訪問などです。平成20年度の登録者数は300人、うち171人が一般就労へ結びつくことができました。

さらに、センターが事務局となって市内の事業所や障害者施設、相談支援事業所、行政機関、特別支援学校等で構成する「所沢市障害者就労関係機関連絡会議」を組織しており、障害者の就労に関する情報を共有するとともに課題について議論を行っています。

また、障害者自立支援法による就労移行支援事業としては、社会福祉法人皆成会とNPO法人ゆうき福祉会の2法人と国立障害者リハビリテーションセンターが手を上げて職業訓練から就労支援、フォローアップに至るプロセスをサポートしています。

▼私自身が10数年前まで国立障害者リハビリテーションセンターにソーシャルワーカーとして勤務していたのですが、当時の国立施設の雰囲気からは隔世の感があります。

国立の施設では、同リハセンターが災害時の要援護者対応協定を申し出てくださり、それに引き続いて国立秩父学園及び県立特別支援学校と同協定を結んできた経緯もあります。地域において国の施設機関も他の組織と共により深く根付いていくというのが昨今の動向ですね。

▼先ほど障害者支援計画だけでなく、総合的な市民向け計画との整合性や横のつながりのお話がありました。昨年、厚労省の研究班「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」が出した報告書「地域における『新たな支えあい』を求めて」にいうような「あらかじめ方法や課題を限定することなく生活課題に柔軟に対応していくこと」というような姿勢と、「発達障害」や「高次脳機能障害」等次々と「名づけ」をすることによって、むしろ必要のある人に対して的確にサービスを届けることとはある種矛盾もするのですが、地域に生活する「すべての人」の中の「障害のある人」ととらえた時に、現状をどのようにご覧になりますか。

自分たちも含めていずれ高齢化し、場合によって認知症のような状態にもなりうるという現実を踏まえて、近隣の支えあいの中で「(サービス)する人」「される人」が固定しないあり方はもちろん望ましいでしょうね。しかし一方で、たとえば私が相談を受けたことのある精神障害者の方や発達障害者の方で、「とにかく手帳がほしい。手帳があることによって、一定の配慮も受けられる」と言われた例もあります。また、本市では発達障害のあるお子さんのための通級指導教室が並木小、泉小という2か所の小学校に設置されており、適切な配慮による教育がなされています。また市では平成21年度にこども未来部を設置し、就学前の発育発達相談から就労に至るまでの過程をサポートしています。このようにさまざまな人がいることを当然とし、互いに理解しあう素地作りを前提としつつも、同時に適切なアセスメントを通じて必要とするサービスが正当にいきわたるという仕組みも大事ですね。

▼バリアフリー新法がらみの基本構想策定と地域の産業振興、さらに安全安心のまちづくり、そして障害者支援等がすべて統合された仕組みづくりについてはどうお考えですか。

これに関して障害者支援計画の側から言うと、たとえば交通バリアフリー法の時代に基本構想の策定にかかわり、地域の課題を把握した交通安全課からも障害者計画の策定検討委員会に参画するということがなされてきました。こうした姿勢が本支援計画の各論の「総合的な福祉のまちづくりの推進」といった項目につながっており、道路交通環境の整備目標として盛り込まれています。産業振興も、となると担当部署の関係で難しくはありますが、趣旨は分かります。地域に暮らす住民の側から見れば、ハード面のバリアフリー、多様な人に対応する諸施設、廉価で質の良い商品を求められる商店街、清潔なまち、気遣いのある道案内、防犯に気配りのある照明設備等々はすべて一体となって暮らしやすいまちを形成するものだとも思います。

▼最後に今後の障害者施策について抱負をお聞かせください。

相談支援で申し上げたとおり、全障害に対応した総合相談窓口の設置を進めることと、もうひとつは地域における障害当事者の生活の場としてグループホーム・ケアホームの整備を進めることです。市内を4地区に分け、整備を計画しており、23年度末で57人分の確保を目指します。

グループホーム・ケアホームの市内整備計画
平成23年度末

図 グループホーム・ケアホームの市内整備計画 平成23年度末拡大図・テキスト


(インタビューを終えて)

所沢市は、私自身が高校生の時から居住している市です。途中海外に出たり、他都県に住んだりした時期はありますが、今も一生活者としてよりよい仕組みの構築を大いに望むふるさとの市といえます。お隣東京都の多摩地区などと比べて、もともと民間の法人が少なく市立の施設が多かったというような特徴はあるようで、また、財政基盤の差から保育行政等への手厚さに差があること等は身を持って感じてきました。しかし、これからの時代、ぜひ一地元住民としても総合的なまちづくりへの参画を心がけたいと思いました。市内にもともとある資源が有機的に連携する「ネットワーキング」をぜひ応援したいと思います。