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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

ほんの森

北欧 考える旅
―福祉・教育・障害者・人生―

薗部英夫著

評者 佐藤久夫

全障研出版部
〒169―0051
新宿区西早稲田2―15―10
西早稲田関口ビル4F
定価 1,785円
(本体1,700+税)
TEL 03―5285―2601
FAX 03―5285―2603

この15年間になんと6回も北欧諸国を訪問し、雑誌などで紹介してきた著者が、そのエッセンスをまとめたものである。数十倍、数百倍の事実と考察がここにコンパクトに集約されているのであろう。

まとめようとすると抽象的になりがちだが、本書は逆。まず155点の写真に目がいく。全体の3分の1くらいは写真ではないかと思うほど。文章も短く、多くは1行もない。本のカバーには「エッセイ」とあり、報告書や論文とはだいぶ違う。しかも100ページあまり。この読みやすさと内容の濃さの両立はほとんど信じられないほどである。

デンマークのグループホームに住む知的障害のあるラウストさん。障害年金などの年金、住宅手当などの手当て、それにボーリング場で働いての給料を合わせて総収入は約25万円。平均賃金には10万円足りない。ここからグループホームの住宅費、食費、所得税などを払った後に、自由に使えるお金が月に約4万円。一部貯金をして、海外旅行にも毎年参加する。

これは、社会参加に必要な支援を用意して、できるだけ平等な「結果」をという北欧型の社会の1例である。こうした例が多数紹介されている。

できるだけ平等な「チャンス」を与え、後は本人の努力と能力を活かして自立をというアメリカ型と比べることもできる。「日本型」はどうか?どんな社会をめざすかの議論のなさが特徴か。「共生社会」など結果の平等を重視する言葉がリップサービス的に使われる一方、実際には自助努力重視の「自立支援」政策がむしろ強化?

また本書では、「現場の裁量を認め尊重する」が随所に紹介されている。日本では、それでは公平を損ね無駄遣いになり制度が壊れる、とされる。

日本がこれらから脱却する一つのヒントを見た。デンマークのある町議会訪問でのこと。「投票率は90%以上だという町の議会は、月曜日と水曜日の夜7時から開かれる。議員は無給で、それぞれが日常の仕事を持っている。商店主、農民、教員、ヘルパーなどなど」町の財政収支が赤字に直面、どの支出を減らすかの議論が白熱していたという。

日本でもNPOやボランティア活動が活発になってきた。住民参加をすすめ、情報を共有し、足腰の強い地方自治をつくる必要がある。介護保険や自立支援法の市町村計画づくり、そして障害者自立支援協議会などを活用したい。障害者権利条約の実施や自立支援法訴訟裁判なども、日本の社会がどうあるべきかを問う、大きな追い風であろう。

(さとうひさお 日本社会事業大学)