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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

仲間として支援者として
本人の願いに寄り添う支援―いわき福音協会の取り組み

本田隆光

人が異性を好きになることは自然なことです。互いにその愛を確認した場合、多くの人は結婚という形になってくるでしょう。知的に障害のある人たちにとっても同様です。障害があるということで反対する理由は、支援する側にはないと思います。好きな人がほしい、結婚したいという彼らのメッセージをどう受け止めればよいのでしょう。

当センターが支援してきている人たちの多くは、互いに好きで結婚したいとなると、本人たちがセンターに来て結婚に向けての相談をします。それは、たくさんの先輩たちが結婚、子育てをしているのが分かっているからです。互いの意思の確認をした上で家族との話し合いになります。もし家族が反対した場合でも支援は続けます。どうしてもだめという家族の場合には、籍を入れないで同居する人も中にはいます。どのような形にせよ、周りの人から祝福されるような結婚生活を目指します。しかし、結婚よりも先に妊娠ということも最近はあります。結婚するに当たってのセクシュアリティ講座を開いて、保健所の助産師などにお願いして事前学習をしていただいています。

妊娠が分かれば、だれがどのように2人を支えていくのかの検討に入ります。今のようにヘルパーが自由に使えない5、6年前までは、グループホームに暮らしていただきながら、就業・生活支援センターの生活支援ワーカーとグループホーム支援ワーカー、世話人による支援と有料のボランティアグループを組織して支援するようにしてきました。出産して退院したらすぐに赤ちゃんの授乳からお風呂にと、子育ての終わった婦人たちに活躍していただきました。

現在は、まず相談支援事業所を活用してケアマネジメントによる総合的な支援を目指します。本人たち、家族、担当地区のケースワーカー、就業・生活支援センター、保健所等が入ったケア会議を開催し、家族がどこまで協力できるのかを確認します。家族の支えの程度によって支援のあり方が変わります。家族の支援がなければヘルパーにできるだけお願いをするようなケアプランになってきています。

乳幼児期には、多くの支援が必要になってきます。子育て経験のある職員もそうでない職員も、そして、早くから保健師に情報提供をして協力を仰いだりと育ちを支援します。トータルで支えることをしながらキーパーソンが必要になってきます。本人に寄り添い必要な支援を常に確認する、いわば母親代わりのような存在です。特に妊婦にとっては不安が大きく、一緒になって出産準備をしてくれる存在です。それは出産後も当然そうなってきます。赤ちゃんとどのように関わっていいのか、不安が大きいからです。

障害のない人にとっても育児は初めての経験で大きなストレスです。ミルクの量は、おしっこは、便の色はなど、常に確認しておかなければならないことがたくさんあります。特に、急な発熱等の病気への対応がキーパーソン抜きにしては難しくなります。ただおろおろしてしまったり、動かないで抱きしめているだけであったりと、適切な対応ができない場合があります。夜中でもすぐに対応し、急患で病院へ行かなければならないことにもなります。そんな時にはヘルパーはまず使えません。支援センターの職員による対応になってしまいます。

子育ては、乳幼児期よりもむしろその後にたくさんの課題が見えてきます。保育園に通い始めると、保育園との日々のやり取り、準備物、配布される保育園からの文書確認など新たな支えが始まります。ここでもヘルパーが一緒になって送り迎えをして、親ができないところをサポートしていくようになります。さらに、最終確認は支援センターのワーカーが支援するようになっています。保育参観や運動会、遠足等の行事に関しても、やはり子育て経験のない若い職員も含めて支援ワーカーが全面的に協力します。

小学校に入学してからの教育の問題では、親の能力を超えてくる子どもとの対応でも工夫が必要になり、学童保育などを利用しています。子どもとの関わり方で必要以上に甘やかせないでいくことなど、親として気づいていかなければならないことを、本人と一緒に確認していくようにしています。また、PTAへの参加など親としての関係が広がってきます。それら一つ一つにも支援ワーカーが関わっていくようになります。

子どもができたら、その子が育つ環境をどう整えていけばいいのか、大きな課題です。私たちの支援センターで一番成功した子育ては、支援センターの支援ワーカーでも、保健師でも相談支援事業所でもありません。近くの児童員が親身になってわが子と同じように教育も含めた支援をしていただいた例があります。物心ついてから、親が知的障害をもっているという大きな現実と向き合うなどたくさんの問題があったようですが、その子は、今春無事大学に入学できるほどになりました。しかし、これは特殊な例でしょう。

何の対策もしないで、そこまで地域が支援するということはあり得ないと思います。現在の制度で活用できるものはフル活用していくこと、特にケアマネジメントを活用してたくさんの支援をつくっていくようにすることが必要です。しかし、知的障害のある人たちの結婚・出産・子育てについては、本人の願いに寄り添っていくキーパーソンとしての就業・生活支援センターの生活支援ワーカー的な働きをする人がいることが、絶対条件になってくると思います。

(ほんだたかみつ 社会福祉法人いわき福音協会 障害者総合生活支援センターふくいん)