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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

列島縦断ネットワーキング【広島】

生活のしづらさを支援します。「I(あい)らんど」の取り組み

三永恭子

ブルーベリーの双子が誕生

瀬戸内海の中央に浮かぶ島、広島県の大崎上島(おおさきかみじま)に2009年4月ブルーベリーの双子が誕生しました。名前はブルーくんとベリーちゃん。彼らは、大崎上島町障害者相談支援事業「大崎上島町生活サポートセンター I(あい)らんど」のマスコットキャラクターです。

大崎上島では、7~8月はブルーベリーの収穫時期で、日本各地へ摘みたてのブルーベリーを発送しています。瀬戸内海の温暖な気候で太陽と水をたくさん吸収して育った大崎上島のブルーベリーは、目に良い成分と言われているアントシアニンの含有量が日本一です。そして、大崎上島で唯一の障害者施設である「ふれあい工房」の就労継続支援B型事業の作業の中心として、ブルーベリーの栽培・ジャム等の加工を行っています。大崎上島で暮らす地域の人々にとって、この島で生活し働く障がいのある人々にとって、ブルーベリーは身近で、とても大切な存在です。

この島で生活する人々にとって、ブルーベリーのように身近な存在でありたいという願いもあり、ブルーベリーのキャラクターが誕生しました。

「Iらんど」ができた願い・想い

大崎上島には、障がいのある人のための相談窓口がなく、隣の市である竹原市に相談支援事業を委託していました。隣といっても海を隔てています。橋は架かっていません。フェリーを使っての支援となっていました。いつも島内に相談窓口があるわけでもなく、フェリーの時間もあるので、緊急時や夜間の対応に課題を抱えていました。

2006年4月に、公設民営で、社会福祉法人大崎福祉会知的障害者通所授産施設「ふれあい工房」が設立されました。1984年6月より、この島の障がい者福祉に力を注いできた心身障害者共同作業所「大崎ふれあい農園」の作業や支援、想いを引き継いだものとなりました。2006年に障害者自立支援法が施行され、「ふれあい工房」はこの年の12月に新制度へ移行をし、就労継続支援B型事業と就労移行支援事業を行う指定障害福祉サービス事業所となりました。

就労支援を行う上で、利用者が安心して通所し作業を行い、一般就労を目指していくために、まず、生活面の安定・安心への支援に重点をおきました。「ふれあい工房」では従来の就労支援の範囲を超えて、利用者や家族が安心して暮らせる地域生活のために、まず生活面での支援を行ってきました。

たとえば、365日24時間の電話相談や訪問、居心地の良い住環境整備、帰宅後の健康管理、買物練習、公共交通機関の利用練習、余暇活動、各種公的サービスの手続き、当事者の属する地域への啓発活動等の支援を行っています。まずは、その人の生活の安定、そして安心を第一に考えたため、「ふれあい工房」を利用されている方だけでなく、利用者以外の相談にも応じてきました。そんな中、当事者・家族・地域の方・関係機関から、この島にも障がいのある人の相談窓口がほしいとの多くの声があがるようになり、今年の4月に町から委託を受け、「大崎上島町生活サポートセンター Iらんど」が誕生しました。

パンフレット
パンフレット拡大図・テキスト

大崎上島唯一の相談支援事業所として

「Iらんど」は、知的障がい・身体障がい・精神障がい・発達障がい等の障がい種別を問わず、この島で暮らす障がいのある人々の相談に応じています。また、生活のしづらさを抱えている人や、家族、地域の人、関係機関の相談にも応じています。以前から、地域の人の声として、「どこに相談をしたらよいのかわからない……」「こんなこと相談してもよいのかなあ……」といった声をたくさん聞いていました。「Iらんど」では、この島で生活する人の身近な相談窓口として、お気軽に、まずは何でも相談してくださいという想いで窓口を開設しています。

具体的な支援内容

「Iらんど」が大崎上島の最初の受付窓口となる一方で、「Iらんど」だけで対応するのではなく、関係機関や専門機関を中心としたフォーマルでない、活動に関心をもつ地域の方々の協力によるインフォーマルな支援へと繋げていくことを大切にしています。また、「Iらんど」ができる以前から大崎上島の相談支援を行っていた竹原市の経験豊富な事業所との連携もさらに充実し、成果を上げています。

具体的な支援内容として、福祉サービス利用のための支援、各種申請等の手続きの支援、相談や希望に合わせた情報提供・関係機関の紹介、医療機関の紹介や同行、自立生活を高めるための支援(料理教室や買物練習、メイクアップ教室など)があります。地域の人々へは、障がいのある人々との関わり方や、正しい理解を得るための取り組みも行っています。

また、不安な気持ち・苦しい思いを聞いてほしいという相談もあります。ただ傍らで苦しみや悩みを聞かせてもらい、気持ちが少しでも落ち着くことを一緒に待つことしかできないこともありますが、その人その人の抱える悩みや困りごと、想いに共感し寄り添っていくことは、とても大事なことです。

「Iらんど」の目指すもの

「Iらんど」では、このまちで暮らす方が、支えあい、自分らしく、いきいきと自立して生活するための支援を目指しています。42.57%(2009年7月現在)という高齢化の進むこの島は、日本の未来の姿です。その日本の未来の姿であるこの島では、障がいのある人も、その家族も年をとっていっています。障がいのある人が親亡き後も安心して暮らせる島になること。障がいのある人が、この島の社会資源を活用して、地域の中で自分らしく、きらきらと輝いた笑顔で生活を送ること。それは、障がいのある人に限らず、高齢者や子どもも含めて、この島で暮らすすべての人たちが、安心して生活できる地域となることです。そのためには、社会サービスの開拓や再資源化、障がいのある人と共存するための地域社会の理解を深めること、障がいのある人も、一人の生活者としてさまざまな場面に参加・協力することが必要です。それが本来あるべき地域社会の姿であり、すべての人々が暮らしやすいまちということになります。

また、障がい者や福祉へのより良い理解を得るためのアプローチも大切にしています。次の世代の福祉を担う子どもたちに、福祉を明るいもの、素敵な仕事、就きたい職業と思ってもらうことです。高齢化の進むこの島では、特に人材確保は大きな課題となっています。福祉の仕事が、子どもたちにとって、身近で憧れの職業となることを目指しています。

Iらんど号(訪問などで島内を走っている車)は、従来の福祉車両とは違っています。黒色のワゴンRで、車体を低くしてあり、後部座席はスモークが貼ってあります。若い人の多くが乗りたいと思う、オシャレな車です。ただオシャレだけを目的としているのではなく、初めての訪問先では、相談者がすぐに気付く車であり、島内を走っていることで、地域の人が覚えてくれます。また、車体が低いことで、脚に障がいのある人が移乗しやすいこと、スモークが貼ってあることで、後部座席に乗る相談者のプライバシーが守れるという目的もあります。

この島のこれからの福祉のためにも、支援者がいきいきと仕事をするためにも、「Iらんど」ではオシャレに福祉をしていきたいと思っています。もちろん、オシャレの前に、当事者、地域の人の想いに共感し、寄り添うことを第一としています。まだ始まって5か月の「Iらんど」ですが、支援者も含めて、大崎上島で暮らす方々が、いきいきと輝いて笑顔で生活していける、「島(アイランド)」になるよう、皆がお互いを認め合い喜んで他者のために協力していける繋がりづくりをしていきたいと思っています。

(みながやすこ 大崎上島町生活サポートセンター Iらんど)