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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

精神障害者の予算基準を見直して

山梨宗治

はじめに

予算というものは、その利用者の現状を調査して算定されることが基本であるかと思われるが、今回の予算と施策は何を基準に作成され、またどんな立場に立って作成されたのか疑問を持つのは私だけだろうか。

予算案が出される前に事件報道され、国の補助金事業で「精神障害者社会復帰施設に関する調査研究」をしていた団体には逮捕者まで出るような不正な金銭出入りが認められ、それらがきっかけで多々な調査への補助金は打ち切られた。施策作成の基準になる統計調査がこの状態では、予算から実施される施策に改めて「不安」「不信」を感じてしまう。

当会はその障害当事者が自らアンケート式調査票を作成し、過去5回にわたり全国の精神障害者のニーズ調査を実施している。毎回当事者に郵送し、約1000人の協力をいただき統計調査研究を実施してきたので、それを参考にして検討してみる。

就労に定義した自立は何を導いた?

障害として認知された私たちには当然ではあるが、自立支援法という大義名分のなか、自立=就労ということを根付かせた。

2006年自立支援法実施直前調査2)の不安に関する調査では、995人中何となく不安が43.2%と多く、死にたい気持ちになったと回答した者が4.1%もいた。2005年調査1)では、就労希望者は796人中全体の54.1%であった。定職についていない719人の理由は、一番多い回答は職がないで225人、次いで病状が不安定193人となっている。こうした2年の経過だけでも私たちにとって就労=自立は慢性的な病状もあり、社会に職がない現状では自殺に思い悩むことも当然とも言える。

2009年「自立の定義の調査」4)で回答が多い上位4位は、344人が仕事、325人が単身生活(一人暮らし)、261人が金銭管理、192人は病院や施設から出て地域で暮らすことであった。自立支援法により地域で普通に一般人と生活している者も仕事に迫られ、施設等に取り込まれている様子がうかがえる(調査対象者には入院者はいない)。

地域移行に必要なお金

お金と生活の自立の関係性が薄い今回の予算と比べるために、実際の収入(稼働収入や年金等すべて含め)を紹介4)したい。住居分離者(施設や親等の保護者と同居していない者)207人の平均月収入は約11.3万円であった。非住居分離者(親元や施設入所者)310人は約12.7万円であった。このように地域での生活で就労に限らないお金の収入額は親元や施設での生活者と住居分離者とではあまり変わらない。

精神病という言葉が語れば

22年度予算(案)でも医療報酬が増えている。私たち精神障害者は社会の概念に縛られている。たとえば「病気は治すものである。また治るべきである。」従って、薬物療法が重視されている。確かに薬物療法によって病状が安定することは多いが、すべての精神病が治癒することは少ない。しかし発病前の姿に戻り病状が消えて無くなる姿に期待が多いせいか、日本は先進国で一番多い多剤大量王国3)である。問題点の解決として施策上、非定型抗精神病薬加算の再編を推し進めていることは、体の負担を軽くすることに関しては一定の評価はできるかもしれない。

命の危機を救う施策はないのか

精神科医療主体の治療の主流は薬物療法に集められ、数々の副作用という新たな病気を併発していく。この副作用でも特に困るのは、引き起こされる身体的な合併症3)である。特に20~40歳代の精神疾患患者の糖尿病、高脂血症、高血圧の合併率は高い。精神疾患の薬物治療開始後に各治療薬を服用している割合は、国民健康・栄養調査比5)で糖尿病が2~3倍、高脂血症が5~6倍、高血圧が3~12倍であった。

統合失調症者の平均寿命は一般より15歳短いことがAmerican Heat Journal6)に発表された。その死亡原因のデータでは、自殺は一般人よりも10倍も高い頻度で、それ以上に心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患による死亡が50~75%とはるかに高い割合となっている。精神病者への自殺予防施策以外の命の問題点を見逃してはいないだろうか。

今必要なのは精神保健福祉法より、医療と福祉を分離しない新法

精神障害者は身体障害者福祉法ではなく、治療に基づく医療による精神保健福祉法の扱いである。慢性的な精神障害も治療対象の医学モデルで考えられ、生活モデルとは言い難い。自立支援法により、障害認知されたかのようにみえた精神障害は地域に専門家の配置が義務付けられ、社会福祉施設にも医学モデルを固めた。治療行為や訓練を外し、その本人が障害とともに生きる生活を支える生活モデルに特化した福祉が必要になった。

終わりに

私には配偶者がいるので統計調査上1)結婚経験者28.9%に入り、幸い二子に恵まれた17.5%に当たる子育て者である。人間として生まれてよかったと思うことはこの障害になってあまりなかったが、普通に家庭のパパでいられることは大変幸せに思う。障害者が子育てを安心してできる町とその支援ができる施策があってこそ、本当の生活モデル(家庭モデル)ではないかとわが子と戯れながら痛感する毎日である。「私は私でいられ、私もごく当たり前に住人とともに町角へ」。

(やまなしむねはる NPO法人全国精神障害者ネットワーク協議会事務局長)


【引用文献】

1) 2) 3) 4)精神医療ユーザーアンケート1000人の現状と声シリーズ らくらく統計読本、05年版、06年版、薬物医療編、09年版、本ネットワーク協議会発行

5)平成18年国民健康栄養調査 厚生労働省

6)2005年発表の死亡原因のデータ