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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

子どもの「権利」「最善の利益」を根本に据えた障害児施策の整備と展望を

河合隆平

1 障害児施策の現段階

障害者自立支援法の廃案が確実となり、総合的な福祉法制定に向けた議論が進行中であるが、そこで障害児施策の位置付けは必ずしも明確ではない。自立支援法「見直し」法案の一環であった「障害児支援の強化」施策の今後の展開については不透明な部分が多いが、新政権下においてもその基本路線に変更はないように思われる。こうした状況において、自立支援法がもたらした矛盾と、障害児福祉が抱えてきた根本問題の双方を整理しつつ、新たな障害児福祉体系づくりが求められている。小稿では次年度予算を視野に入れつつ、今後本格化するであろう障害児施策の方向性と課題を整理してみたい。

2 障害児世帯の利用料負担軽減

次年度予算では利用者負担軽減(107億円)が新規計上され、低所得1・2(市町村民税非課税)に該当する障害者および障害児の保護者の障害福祉サービス(療養介護医療を除く)、障害児施設支援(障害児施設医療を除く)、補装具の利用者負担は2010年4月より無料となる(厚労省障害福祉課事務連絡「障害福祉サービス等に係る利用者負担の軽減について」09.12.25)。これは既存の負担上限制度における低所得者の上限額をゼロとしたにすぎず、「応益負担」の原則に変更はない。また、養育・育児の固有性を考慮して、少なくとも対象を特別児童扶養手当の支給制限(扶養親族1人、所得額653万円以上)にまで拡げなければ、障害児を育てる世帯の実質的な負担軽減にはならない。今回見送られた育成医療も子育て世帯にとって大きな負担であり、軽減の対象となるべきであろう。

3 利用契約制度と障害児施設の再編

昨年の通常国会で衆議院解散のため審議未了、廃案となった障害者自立支援法改正案に一括された2012年児童福祉法改正案では、障害児施設の障害種別一元化、年齢超過規定の廃止、通所支援実施主体の市町村委譲が提案された。現行の措置と契約の並存から契約制度への一本化(現行施設は附則による「みなし」移行)、施設最低基準等の政省令で定める部分の多さなど、障害児施策を「子育て一般施策や他の児童福祉施設の体系から独立」1)させて成人施策との一元化を図るという方向である。

これは明らかに、「障害児支援は児童福祉法を根拠に」という改革議論からの逆行である。そもそも利用契約が児童福祉になじまないことは施設関係者の多くが指摘するところであるが、利用契約の導入が保護者の自己責任論や子どもの処遇に格差を生み出しており、また都道府県ごとに措置と契約の判断にばらつきが見られるなど、厚労省も契約を並存させつつ、措置決定の柔軟化を認めざるをえない状況にある(厚労省障害福祉課長通知「障害児施設の入所に係る契約及び措置の運用について」09.11.17)。

また、障害種別を一元化した「障害児入所施設」(福祉型、医療型)への整理については、とくに知的障害児施設では入所児童の低年齢化、被虐待等の社会的養護性の高さが顕著であり、児童養護施設でも発達障害等をもつ子どものケースが増加している。こうした「児童福祉施設のボーダーレス化」2)が著しい現状に鑑みても、児童養護施設等と一体となった施設最低基準の抜本的改善が求められる。30数年来変更のない4.3:1という職員配置基準では子どもの生命を守ることさえ危機的状況にあり、2:1に改善されるべきであろう。

年齢超過者は成人施策として在所延長が認められたが、学校卒業後の進路や地域移行の責任が施設に集中することのないよう、地域資源のネットワーク化、障害種別一元化を含む施設機能の多様化が進められる必要がある。

4 居宅生活支援

乳幼児期については、「気になる」段階からの支援を強調し、児童デイサービスと通園施設を市町村が実施主体の「児童発達支援センター」(福祉型、医療型)に一元化し、専門機関による「保育所等訪問支援」の新設が盛り込まれていた。乳幼児の施策は保育所の保育が基本であり、通園施設は過渡的・補完的との位置付けがみてとれるが、療育機関の絶対的不足と地域偏在の解消、施設最低基準(児童デイサービスの指定基準)の改善等の計画的整備が急務である。

関係者の要望に応えた「放課後等デイサービス」は放課後や長期休業中などその必要性が高く、注目される新設事業であった。09年度には学齢児対象の「児童デイサービス2」の報酬単価が引き上げられたが、少なくとも同等の水準が維持されるべきである。

5 新しい児童福祉法制に向けて

繰り返すが、「障害児支援は児童福祉法を根拠に」が基本であり、子どもの「権利」「最善の利益」が根本に据えられた「自立と共生」の実現でなければならない。保育所における利用契約制度の導入や施設最低基準の引下げが検討中であることも踏まえるならば、障害児施策を児童福祉法に戻すことだけでは不十分であり、むしろ総合的な児童福祉法制・施策をつくり出すことが課題ではないだろうか。

(かわいりゅうへい 金沢大学人間社会研究域)


【文献】

1)田中齋:これからの障害児支援に向けた課題. さぽーと 628、pp.8―10. 2009.

2)湯浅民子:急がれる障害児入所施設の新しい機能整備. さぽーと 632、pp.11―14. 2009.