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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

地域で暮らしていくための施策は進んでいるのか

志賀象二

「障害者支援センターぽけっと」は、小田原市を中心とする、2市8町の県西障害福祉圏域を対象に障害者就業・生活支援事業による就労支援を実施するとともに、神奈川県独自の圏域障害者自立支援協議会の事務局として活動を行ってきました。

就労支援については、身体、知的、精神に加え、最近は発達障害や高次脳機能障害の方も増えています。就業の実績は、4年目に入り、200人を超えています。就労希望者の面接、登録から、ハローワークとの連携による就職活動、また、事業所への面接同行や、就労が実現すれば、ジョブ・コーチ支援により、就業の安定を図っています。また、定期的な職場訪問や、月1回のフリースペースによる余暇支援も行っています。

圏域自立支援協議会では、連絡会議等の開催とともに、研修等の実施を中心に、情報の収集と広報を行い、地域課題の抽出とその解決に努めてまいりました。さらに、地域の家族を対象に、毎月勉強会を開催し、情報の収集と広報も行っています。

これらの活動の中で、地域課題としては、医療的ケアの問題、また、介護事業所との連携、加えて、地域生活支援事業の地域格差への対応などが見えてきています。また、お母さんたちから聞こえてくる声は、移動支援や短期入所の使いにくさ、加えて学齢時の長期休暇時の対応は本当に大きな悲鳴が聞こえてきます。

確かに、私がこの職業に就いた1980年代に比べれば、日中活動の場の確保や、ホームヘルプ、移動支援などの制度は大きく前進しました。しかし、障害のある人とその家族が地域で生きていくためには、まだまだ解決しなければならない課題が山積されています。

地域で豊かな暮らしを続けるために、市町村では地域に根ざした生活へのきめ細かな施策が求められています。福祉、教育、医療、就労支援、介護事業所や、さらには全県的な専門機関との連携が重要となっています。

さらに事業者について考えてみると、報酬単価の日割り支給や減額、複雑な加算制度の存在に加え、度重なる制度の細部変更など、事業執行上の悩みを抱えています。

こうした視点で予算案について考えると、さまざまな制度改善のため、昨年度予算額を10%上回る予算額を確保できたことは評価できると考えます。

その中でも、利用者負担金の軽減が盛り込まれたことは、これまでの経過を踏まえても評価できるでしょう。しかし、障害福祉サービス等による障害者支援の推進として、職員の賃金引き上げが盛り込まれましたが、事業所の現場としては支給対象者が限定されているとともに、手続きが複雑で、実際の支給には混乱が生じています。

地域施策としての地域生活支援事業については、今後の制度の見通しが立たないなかで、神奈川県においては、小規模作業所の地域活動支援センター等への移行も進んでいません。さらに、移動支援などの市町村事業については、国から予算を示されても市町村の財政状況も逼迫しており、支給要件や支給量に地域格差もみられるのが実情です。

予算説明として、「事業の着実な実施及び定着を図る」との表現があったり、「地域格差」への言及もありますが、地域の実情を配慮した具体的な方法等については言及もなく、一面、地域の独自性への配慮のようにも見えますが、これまでの自治体のあり方から対応に苦慮している現実もあります。

また、障害福祉サービス提供体制の整備も示されていますが、度重なる制度変更や、今後の大幅な制度改革のなかで、自治体も事業所も今後の見通しが立たず、具体的な事業展開に躊躇している現状もあります。

障害者権利条約批准への動きと合わせ、虐待防止法への取り組みや、障害者自立支援法改正に向けた障害者総合福祉推進事業が新設されたことは大きな期待を感じさせますが、この間の国の制度の混乱に対し、早急に制度の方向性が示されないと、事業所等の整備も進めることができないでしょう。

また、精神障害者の地域移行も、重点的な施策とされていますが、神奈川県の県西圏域では、精神障害者を対象としたグループホームも設置されておらず、一部の医療関係者からは、報酬単価について、医療制度との格差が大きいとの声も聞こえているようです。

さらには、発達障害者等の支援体制については、地域の特別支援学校や特別支援学級の現状を見ると、従来では見られないほど発達障害の児童、生徒が増加しているとの傾向も見られるようです。地域における、家族、教育、福祉関係者についても、情報も不足しており、専門的な対応に苦慮している現状があるなかで、予算が減額されている現状はどのように理解すればよいのでしょうか。

ハローワークを中心とする就労支援については、職業センターや地元自治体も含めたチーム支援としての連携が明確になっているとともに、一般の職業訓練校での発達障害への取り組みの開始等、地域での連携を主軸とした方向性は評価できると考えます。

しかし、他の施策を見ると、地域での連携をどのように考えているのか、明確になっているようには思えません。

地域では、実際に障害福祉サービスを担っている介護事業所とのきめ細かな連携強化も求められています。予算の確保という意味だけではなく、具体的に高齢福祉との連携も検討する必要もあるでしょう。

障害福祉も大きな改革が始まろうとしていますが、国も従来と異なり、「地域主権」を意識した、豊かな地域福祉を目指す予算を作成してほしいと感じています。

(しがしょうじ 社会福祉法人よるべ会 障害者支援センターぽけっと)