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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

わがまちの障害福祉計画 新潟県柏崎市

柏崎市長 会田洋氏に聞く
みんなが顔なじみ、みんなが笑顔のまちづくり

聞き手:片桐公彦(NPO法人りとるらいふ理事長)


新潟県柏崎市基礎データ

◆人口:91,889人(2010年1月末現在)
◆面積:442.70平方キロメートル
◆障害者手帳所持者(2010年1月末現在)
身体障害者手帳 3,423人
知的障害者(療育)手帳 490人
精神保健福祉手帳 460人
◆柏崎市の概況:
新潟県のほぼ中央に位置し、日本海に面して42kmに及ぶ長い海岸線には15の海水浴場があり佐渡島を遠望できる。風光明媚な「米山福浦八景」、棚田や茅葺き集落の「高柳」、日本書紀に記録が残る「西山」などの豊かな自然、500年の伝統を誇る国指定の重要民俗文化財「綾子舞(あやこまい)」など数多く息づく伝統文化・歴史に育まれたまち。一方、日本初の石油精製と関連した産業が古くから盛んで、世界最大の柏崎刈羽原子力発電所がある。「中越沖地震」(07年7月)からの復興には全市民で立ち上がり復旧・復興は着実に進んでいる。05年2町と合併し新柏崎市となる。
◆問い合わせ先:
〒945―8511 柏崎市中央町5―50
柏崎市福祉保健部福祉課障害相談係
TEL 0257―21―2234(直)
FAX 0257―21―1315
http://www.city.kashiwazaki.niigata.jp/

柏崎市震災復興計画キャッチフレーズ

さらなる未来へ

市長室に掲げられているキャッチフレーズ


▼まず初めに、19年7月に起きた中越沖地震から着実に復旧・復興が進んでいることを隣町にいながら私もうれしく思います。私は地震当時、3週間ほど「トライネット」(障害福祉サービス事業所)に泊まり込んで相談支援にあたりました。そんなこともあり縁(ゆかり)のある柏崎で今回のインタビューを楽しみにしてきました。

それはありがとうございます。震災時には全国からたくさん寄せられた温かい励ましや力強い支援により全市民が一丸となって生活再建に取り組み、ようやくそれが果たされつつあります。

▼その中で活動させてもらいながら、福祉課が中心になって安否確認に取り組まれていました。あの混乱の中で普通はめちゃくちゃになるところなのに相談支援をしっかりやり遂げた。それができた背景には自立支援協議会を立ち上げるための三障害合同のいろんな方が集まっての勉強会を18年1月から行い、以前から「顔見知りの関係」ができていたことが大きかったと思います。

障害のある人の安否確認は、高齢者より時間がかかったようですが、7日で行いました。しかし、私の正直な感想としては、1週間もかかったのかと。あの混乱の中で大変ご苦労されながら安否確認がなされたことは承知していますが。未曾有の大災害の教訓として、「公助」いわゆる行政による支援に限界があることを感じるとともに「地域のつながり」を基盤とした「共助」の仕組み作りに重点をおいたまちづくりを推進することの重要性を再認識しました。

▼柏崎市の自立支援協議会は、全国の先例となる先駆的なモデルとして広く知られています。柏崎市の障害福祉のセールスポイントについてお聞かせください。

当市の障害者支援施策の特色は、相談支援事業所を中心としたきめ細かなネットワーク作りを担う「相談支援事業」と「自立支援協議会」の積極的な推進との2つです。

いずれの施策も、限りある財源や地域資源の現状を踏まえ、支援する関係機関が集い、同じ目線で考え、知恵を出し合い、汗をかいて行く、といった障害者支援をキーワードとした「地域の協働の型」ができ始めている点が最大のセールスポイントであると思っております。

こういった協働の姿勢は、中越沖地震による初期対応においても、支援機関それぞれが「自分のできることを自分で考え行動する」といった積極的な動き、また「各障害福祉サービス事業者が情報交換を行い、協力して対応にあたる」といった動きにつながっていったと思っています。

災害時には、被災した障害者世帯へ、相談支援事業者がきめ細かな聴き取り調査を行いました。そこからとらえたニーズを私ども行政も、たとえば「市のデイサービス施設の入浴設備に自衛隊からの給湯を得ての重度障害者への入浴支援」や「市直営の児童施設での日中一時支援実施」といった緊急的なサービス創出につなげることができました。混乱したなかで地域の強い結びつきを確信した事例です。

▼社会保障において障害福祉分野も地方分権の流れの中でいろいろな問題がでてきています。市長のイメージする地方分権についてお聞かせください。

まず地方分権を進めることが大切だというのが基本です。しかし、地方にすべてを任せた時に、自治体間の格差の問題が出てきはしないかということがあります。たとえば、福祉関係のお金であれば地方に委譲されてもしっかり福祉に使ってもらいたいが、何に使われるか分らないということはないのか。議会でも地方分権が進むことによって、そのような懸念が出され、国がすべて取り仕切ってもらったほうが安全だとの議論も出かねません。

小泉内閣の三位一体改革以来、地方分権の推進が叫ばれながら、実態はそうなっていません。究極的には、財源と権限をセットで地方分権を進め、地方によって何を重視するかは異なるわけですから、あとはそれぞれの地方で必要なセイフティネットを作ることが大事だと思いますね。

▼財源が厳しい中で、福祉分野においては首長のスタンスはどうかがかなり問われます。市長の障害福祉に対してのスタンス、イメージ、感じ方をうかがいたいのですが。

私にも身内に障害者がいるのですが、その周りにも自立や就労に結びついていない人が多いと感じています。それぞれの持っている能力や特性を生かし、個人に応じた意思に基づいた選択ができて、自立して生活できる社会がノーマライゼーションだと思います。

先日、4年ぶりに作業所を見学させていただきました。経済不況のなかで大変なのではないかというイメージが正直ありましたが、明るい雰囲気でしたね。しかし、自立からはほど遠い現状にあるなとは感じました。資本主義社会の中で、そしてこの閉塞的で不景気な厳しい社会状況で、元気な若い人ですら就労機会のない中、どうセーフティネットを築いていくのかというのが課題ですね。

▼柏崎はなぜ自立支援協議会がうまくいっているんだろうと考えます。地震の時に思ったのは「人のつながりによるネットワークも大切なライフライン」であり、それが災害前からあったのだという印象です。福祉とまちづくりは切り離せないもの。市長が思うまちづくりとは何か、聞かせていただけますか?

地方主権の根底にあるのは、自分たちの住んでいる地域は自分たちで守り、決めていくということだと思います。自分たちの周りを自主的に主体的に良くしようと取り組んでいく。それが基本だと思っています。その中に助け合い、支え合いが含まれる。柏崎は地域の中でコミュニティ活動が活発です。国からの権限、財源が委譲されたときに地方の行政と市民の関係が、従前の国と地方との関係と同じであってはならないと思いますね。行政と市民の協働がなくてならない。もちろん行政としてやるべきこと、市民が主体的にやること、協働してやること、それぞれに自分の身の回りで行われることが大切です。

震災後、町内会を基盤とした「自主防災組織」の立ち上げに積極的に取り組み、昨年11月末現在で組織率が95%に達しました。今後は自主防災組織を核として地域と行政とで役割分担しながら要援護者台帳の作成を進めて行く予定です。障害関係施設とは安否確認、一時避難所として使用協定を結んでいます。

21年度からの自立支援協議会組織図
21年度からの自立支援協議会組織図拡大図・テキスト

▼質問を変えて、元宮城県知事の浅野さんが施設から地域への流れを打ち出し、コロニー解体宣言を出しました。それが今、この国の障害福祉の大きな流れになっています。「地域移行」についての市長の考えはどうでしょうか?

地域移行といっても、家族だけでは支えきれないですよね。社会の中で他の人と同じように暮らすには周りの人の支援や助け合いがないと生きていけないし、実現できない。単に家庭に帰ればいいということではないので、家庭以外の手による支援が必要だと思っています。社会的理解も必要ですね。サービスが十分でなかった昔の方が地域にいろいろな人がいるのが当たり前の社会だったけれど今は違う。「地域へ」という理念としては大事ですが、軌道に乗せるための環境整備が課題であると感じています。

▼最後の質問になりますが、これまでの市長の話をうかがってきて、障害者の自立、就労ということがキーワードになるように思います。障害者が働くことについてチャレンジしてみたいことはありますか?

就労というより生きがいというか、それが経済的プラス自立につながるのか、ということが問題ですね。障害者の適性、気持ちに寄り添った時に何が必要か、以前、作業所を回った時に単純作業をずーっとされていましたが、私には1日はとてもできないと思いました。でも、それがどうなんだと本人にも直接聞けない。身内の障害のある者も作業所に通っていますが、駅名をすらすら言えたり、数字にすごく強かったりと特殊な能力があるんです。これを何かに活かせないかと思うんですね。自分が生きている証、生きがいをどうしたら持てるか、それを見極めて支援するのが支え手の役目だと思います。


(インタビューを終えて)

「あまり福祉はわからない」と謙遜しつつも、「障害のある人たちのもつ能力を活かすことが自立につながるのではないか」という言葉に、本質的な部分をしっかり押さえている首長さんだな、という印象を持ちました。中越沖地震という悲しい出来事から見事に復興を遂げた柏崎市を支えたのは住民同士のネットワークであり、それが全国的にも評価の高い自立支援協議会の取り組みにつながっています。私は柏崎市のお隣の上越市というまちで仕事をさせていただいていますが、とてもいい刺激を受けたインタビューでした。