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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年6月号

視覚障害のあるユーザーから見た支援機器等の開発・普及への期待と不安

金澤真理

1 日常生活と支援機器

進行性の眼疾患で障害になった私は、現在、東京都盲人福祉協会で中途視覚障害者への訪問による訓練の仕事をしつつ、網膜色素変性症協会という当事者団体の会長を務めている。病気の進行で徐々に見えなくなり、生活の中で当たり前のように使っていた道具等が使えなくなってきても、当時の私は、仕方がないとあきらめていた。見えなくなったのだから不便になるのは「当たり前」と不条理さえも感じていなかった私が、スクリーンリーダーでメールやインターネットを使えるようになり、拡大読書器やピンディスプレーでメモの読み書きができるようになって、日常生活を徐々に取り戻し、障害に対する考え方も変化した。

立場上、多くの視覚障害者の声を聞き、共に課題に取り組むにつれ、「あきらめていた」夢を叶えてくれる支援機器の重要性を実感することが増えた。しかし、同時に、研究者や開発者等の良識を信じ、待ち続けることしかできない立場にあることのもどかしさを感じる。ユーザーの声に耳を傾け、開発の中で取り入れてもらえるかどうかは彼ら任せにしかできない現状になるからである。

2 開発者とユーザー

一般的に、ユーザーとして支援機器等の開発に関わる時は、通常は被験者として体験したりアンケートに答えたりすることがほとんどである。その時、開発者や研究者の思いが先行し、ユーザーの使い勝手やどう使いたいかが置き去りになり、意見が反映されていないと思うこともある。また、一部の好意的なユーザーの数人の意見だけで開発を進めてしまって、結局、多くの利用者には使われないものになってしまうという残念な結果になってしまうものもある。

開発者や研究者の中には、一人でも二人でもユーザーにさえ聞いておけば安心と思っている人たちもいるのではないだろうか? そうは言っても開発者や研究者はユーザーと接点があるわけでもなく、どうやってユーザーに被験者になってもらえばいいのか分からないという場合もあるかもしれない。

多くのユーザーが「望んでいる」あるいは、「使いたい」という支援機器等でなければ普及はしない。多くのユーザーの声を吸い上げる仕組みがないこともその原因の一つではないだろうか。その仕組み作りも、開発・普及には急務であると感じている。

3 開発者とユーザーをつなげる仕組みの必要性

今回の「平成21年度障害者自立支援機器等研究開発プロジェクト(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/other/jiritsu04.html)の研究成果発表会における研究成果物の一般公開」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/other/jiritsu06.html)が行われた。これは研究成果に対して直接、一般のユーザーが手に触れ、研究者たちと意見交換できる場を提供してくれた。通常、ユーザーは被験者という立場でしか開発者と接することができず、質問されたことにしか答えることができないし、回答したことがどう反映されるか確認することもできない。従って、今回の発表会のように、開発者とユーザーが対等な立場でコミュニケーションをする場面づくりは極めて重要だと思うので、このような機会を増やしてほしいと願っている。

また、この成果発表会では、会場に参加したユーザーに、それぞれの支援機器等に対して厚生労働省がアンケートを行ったのも画期的である。

さらに、多くは開発途中で被験者として意見を聞かれるが「最初に意見が言えれば…」と思いながら、これでは使えない、あるいはユーザーの特性が分かっていないと残念に思うことがよくある。途中で意見を聞かれてもそこからの改善は困難である。ユーザーとしても本当はこうしてほしいけど無理だろうと判断してしまい、妥協した意見を言ってしまうこともある。

また、開発者や研究者も「そこまではできない」とあきらめてしまうことはないだろうか? そうならないよう、開発の最初からユーザーと共に進めていかれるような仕組みも必要ではないだろうか。

4 新しい支援機器等の開発への期待

今回唯一、点字について開発された「フィルム点字」を見て、技術は夢を実現させてくれると実感した。日常生活をする上で視覚障害者が困難を感じている一つに、家電の液晶ディスプレーがある。でも、それを音声で出力することを要望したり、それが実現できたとしても点字のディスプレーが開発されるなど考えも及ばなかった。音は流れてしまうもので、数字や言語を誤認してしまうことがどうしても生じてしまう。「家電」、「携帯電話」、「地デジテレビ」、「iPad」などに点字のディスプレーが付加され、音声と併用できたらどんなに使い勝手が良くなるか、点字利用者には夢のような話である。

最後に、科学や技術の進歩により、障害のない人たちの生活はますます便利になっている。しかし、私たち障害者は、新しい技術、たとえば、液晶ディスプレーによって、新たなバリアに遭遇することが少なくない。障害支援機器はバリアを解消してくれるが、障害者用の特別な機器ではなく、だれもが使っている機器を障害者も使えるように配慮するというユニバーサルデザインの発想も大切にしてほしいと切望している。

(かなざわまり 東京都盲人福祉協会)