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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年6月号

開発と普及に向けた提言
―在宅セラピストの立場から―

内田正剛

はじめに

筆者は、在宅を訪問しリハビリテーション(以下、リハという)サービスを実践する作業療法士である。平成16年から、現在の職場で独立型の訪問看護ステーションの立ち上げに携わった。事業開始当初は、ケアマネジャーなど関係者から、訪問看護・訪問リハは「対象や内容が分かりにくい」「効果は?」と理解されていない現状があり苦労した。しかし、現在は、熊本市内とその近郊で実績を上げ、近隣の医療機関等から信頼を得て認知される事業所となった。

この訪問リハサービス事業の開発と普及における成果は、1.分かりやすい表現として市場へ提供すること、2.効果を上げるためには一定のプロセスを踏むこと、3.各専門職間での協業・連携を行うこと、の3点を心掛けた結果であり、これを福祉用具の開発と普及においても同様に照らし合わせ考えてみる。

分かりやすい表現として市場へ提供すること

福祉用具は「だれのために」「このように使ったら」「このような効果を発揮する」と分かりやすくなければならない。現状のカタログ表示やその提示だけでは、使用イメージや効果が予測できずに価格優先の選定になっているため、現場では選定に苦慮することがある。流通業者には、作成するカタログやパンフレットは、身体能力からの使用イメージや効果、使いこなしまで具体的に記載される分かりやすさを期待する。

また、利用する対象者像や使用イメージを想定した品揃えが求められる。新製品の列挙や市場動向など、メーカーからの要求事項と営業目的による福祉用具の提供に偏らないほうが現場としては利用しやすい。さらに用具を説明する際には、仕様や機能を説明するのではなく、その仕様が対象者の生活にとって、具体的にどのように有効かを伝えるように心掛けるべきである。

開発メーカーにおいても、使う人を想定した物作りと選定するための情報提供を具体的に行うべきである。そのためには、シーズ(自分たちの持っている技術・材料)のみで開発を行うのではなく、市場調査や情報収集をもとに対象者や家族を含めた使用者のニーズを理解して企画開発することが必要である。

効果を上げるためには一定のプロセスを踏むこと

福祉用具の有効利用には、使用場面のイメージを対象者と一緒に膨らませていくプロセスを踏むことが必要と感じている。他の生活用品と違って、「排泄関連用具」や「コミュニケーション関連用具」と聞いても使用した経験がなく、対象者は具体的な効果を予測できない。逆に、用具を使用しなければならないという喪失感(負のイメージ)からその目的動作をあきらめる方もいる。アセスメント、フィッティング、トレーニング、モニタリングのプロセスにおいて、対象者の福祉用具に対する受け入れや使いこなしの状況を確認し進めていく必要がある。そのために開発メーカーや流通業者は、利用の動機付けや受け入れを促すような福祉用具との出会いの場として、試用する機会を確保できるように期待する。

また、ある福祉用具が現場で「不適」であったという情報だけでその用具を判断するのではなく、「不適」であった理由は、用具が悪かったのか? フィッティングが悪かったのか? トレーニングができていなかったのか? 見極める必要がある。マーケティングができていないとこれらの情報に振り回され、福祉用具の適応範囲を具体的に説明できなくなるため、注意が必要である。

各専門職間での協業・連携を行うこと

福祉用具は、関わる専門職により効果は大きく左右される。対象者に福祉用具が提供され、使いこなすまでには、ケアマネジャー等、さまざまな各分野の専門職が関わることになる。しかも、現場の各専門職によって福祉用具に対する認識や理解度にバラツキがある。このような理由により、同じ福祉用具でも現場での効果には差が生じている。そのために流通業者は、適切な福祉用具が選定され、使いこなしまで適切にフォローしている現場スタッフと連携を密に行うことが必要である。

また、そのようなスタッフからの情報提供や新たな福祉用具の依頼などは、有効な情報として事業所の差別化につなげるべきである。さらに開発メーカーは、実際に福祉用具が使用されている現場に出掛け、その用具の企画時点で想定した対象者像と、現実の使われ方や使用環境の違いを確認すべきである。もっと現場スタッフ、対象者の声を聞き、福祉用具が活(い)かされる現場を一緒に育てていく協業を期待する。

最後に

今回は、訪問リハサービス事業で心掛けた3点を軸に、福祉用具の開発と普及について普段から感じている点を述べた。筆者も会社として契約関係にある企業の福祉用具開発や、福祉用具の卸やレンタル・販売の流通業に関わった経験を持つ。

我々が、訪問リハサービスを提供する上で常に考えていることは、ユーザーベネフィット(顧客にとっての利益・価値)を優先することである。これは、開発メーカーや流通業も同じである。「良いものを作る」「良いものを届ける」ことで顧客の満足度は高まると確信している。

(うちだせいごう (有)熊本住まいづくり研究所 たっくリハサポートセンター)