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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年10月号

(株)日本標準における障害者雇用の取り組み

池田博

会社の概要

株式会社日本標準(ここで言う日本標準とは、埼玉県日高市にある日本標準統合物流センターのこと=以下同様)は、主に、杉並の本社で製作した小学校で子どもや先生が使う教材等と家庭学習教材の受注・発送を行っている。

社員数は約220人、そのうち障害者の雇用は5人(2010年8月現在)である。5人の方々の障害と仕事の内容は、次のとおりである。

肢体不自由(女性)1人=パソコン入力、知的障害(女性)2人=ピッキングと機械操作、知的障害(男性)2人=ピッキング。

NPO全国子育て・福祉支援ふれあいネットワーク

子どもたちの健やかな成長発達が脅かされている今、教材普及だけでなく、学校、家庭、地域を結んだ子育て支援活動を行おうと、日本標準の役員、社員、学校の先生、全国の代理店が中心となって、2004年に「NPO全国子育て・福祉支援ふれあいネットワーク」を立ち上げた。まだ全国に広がる活動には至っていないが、このNPOが、後ほど紹介する「日高はつらつ作業所」の運営母体となる。

「はつらつ作業所」の設立過程

日本標準は、設立当初より、近隣の福祉作業所の要望に応えて仕事を出したり、特別支援学校からの見学や就労体験の要望を受けたりしていた。その後、障害者の就労先として強く雇用を求められ、未経験でもあり不安を感じながらも3人を受け入れた。さらに続く就労依頼にはとても応じきれなくなっていた。

就労の受け入れが無理なら「作業所」を作ってほしいという地域からの強い要望があり、社長と相談をした結果、障害者雇用に理解を示し、作業所を設立しようということになった。

日高市役所に相談に行くと「株式会社ではできません」と言われ、NPOならできるというヒントをもらったが、社屋敷地内は建ぺい率違反になり建物は建てられないという。あきらめかけた時「社屋倉庫の3階の一角では駄目かな」と言う社長のつぶやきで、再度、市や県に相談したところOKが出た。その半年後の2003年4月、作業所が開所した。現在、27人の障害のある人たちが働いている。

作業所の概要

(1)施設的な特長

日高はつらつ作業所は、日本標準の建物の3階の一角、約100坪を借用して改造した。年間勤務日数や勤務時間は、日本標準に合わせた(同一建物のため、合わせざるを得ない)。しかし、2010年度に別棟ができたので、日本標準に合わせなくてもよくなった。

(2)主な仕事

日本標準は教材出版社なので、主に製本に関する仕事や見本セット組み、シール貼り等を行っている。

丁合機、折り機などの大型機械やトラックなどの車両は、いろいろな基金に応募していただいたものがほとんどである。しかし製本に必要な高価な断裁機は、基金ではなかなか助成されないため、日本標準が購入し共用している機械もある。

施設外労働は、近隣のリネン会社やリサイクル品分別会社に5人1チームで行っている。

障害者を雇用するメリットと課題

日本標準が障害者雇用をはじめて5年が経った。その間、社内や地域でさまざまな変化が見られた。

以下にメリットと課題をまとめる。

(1)メリット

1.障害者を雇用したことで、社内的にそれが当たり前のこととなり、人間関係が優しくなった。

2.地域からは当社の評判がよくなり、最盛期のアルバイト募集にも人が集まりやすくなった。

3.障害者雇用が進むことや作業所に協力している姿勢から、行政から企業内保育など、子育て分野まで広く声をかけていただけるようになった。

4.文部科学省から、特別支援教育の教材開発を星槎大学と協力して開発依頼される。

(2)課題

1.さらに障害者雇用率を高めていく。

2.雇用した障害者の教育係の充実とスキルアップを図る。

はつらつ作業所側のメリットと課題

(1)メリット

1.健常者がそばで働いていることにより、早く向こう(企業)に行こう、という目標になるし、企業で働くという意味を学ぶことができる。

2.年間を通じて仕事がある。会社内の施設も社員と同じように使用できる。

(2)課題

1.障害の重い人には入所生活が難しい。作業所が民間企業の発送場の中にあるので事故が心配である。この課題解消のため、現在の企業内の場所以外に独立棟を建てる。

2.工賃のアップを図る。当面は、月額5万円を目指す。そのために、製本機械を導入し売上を高める。=就労できなくても作業所の工賃で生活できることを目指す。

3.毎年、就労者を出す。日本標準が作業所運営に協力していることについて、競争相手会社などから「安い労働力を使ってうまくやっている」と言われかねない。したがって、作業所としても、日本標準やその他の企業に毎年、就労者を送り出していくことが重要である。

企業と作業所との連携について(事例と教訓)

障害者が日本標準に就職した場合、その人の社内生活は日本標準が責任を持つ。しかし私生活部分は、はつらつ作業所の職員が補うことにしている。

実際にあった例だが、日本標準に就職が決まり就労を始めたが、途中で挫折しそうになった。これは、主に給料の使い方と遊びによる生活の乱れによるものである。このような場合、事前に保護者の了解を取り付けておき、再度、作業所に戻って、訓練をし直す。そして今度は大丈夫というところまできたら、また就労させる。

ただし、この方法は企業側が安易に行ってはならない。それは、悪用すれば簡単に労働者の首切りができることになる。あくまでも本人の立場に立ち、会社、本人、保護者、作業所で話し合い、合意の上で作業所が主体になって行うことが重要である。この方法は、実際に本人や企業側にとっても大変よい結果が出ている。

私の提言

私が障害者の就労支援に関わってきて感じていることを、次に述べたい。

(1)行政の方へ

1.障害者自立支援法の見直し(主に、利用者負担の問題と作業所の事務量の簡素化)

2.特別支援学校は、就労指導的要素が強すぎるように感じる。本来の学業というか、個性を伸ばす豊かな教育が必要ではないかと思う。就労を目指す訓練は、自立支援法で、作業所側の役割として位置づけられているはずである(監督官庁が違うので、何とも言えないがどちらも中途半端のような気がする。現在うまくいっているとは思えない)。この調整をもっと研究してほしい。

(2)福祉施設関係の方へ

1.作業所の営業活動、経営活動に力を入れる。

2.企業などとの連携を図る。

(3)企業の方へ

1.企業は、社会的責任の自覚と社会に貢献するという意識を持つ。

2.障害者雇用は、社員の気持ちが優しくなり、助け合い、愛社精神が強くなる。また、地域からの信頼も増す。

最後にこのような活動が、日本標準の中でも、また、NPOの中でも、後継者に引き継がれていくようにするのが私の任務だと思っている。

(いけだひろし 株式会社日本標準地域教育センター取締役)