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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年10月号

わがまちの障害福祉計画 滋賀県守山市

守山市長 山田亘宏氏に聞く
住みよさで勝負!市民が主役のまちづくり、守山ルネッサンス―再生―

聞き手:加納恵子
(関西大学社会学部教授)


滋賀県守山市基礎データ

◆面積:54.81平方キロメートル
◆人口:77,352人(2010年6月1日現在)
◆障害者手帳所持者:(平成22年4月1日現在)
身体障害者手帳 2,506人
知的障害者(療育)手帳 497人
精神保健福祉手帳 276人
◆守山市の概況:
滋賀県のほぼ中央、野洲川沖積平野に位置し、琵琶湖に面している。古くは中山道の守山宿として栄えた。水や緑などの自然と共生しながら発展し、ホタルが飛び交うまちとして、かつては農業中心に栄えたが、化学・機械・繊維などの近代工場を誘致し、工業化・都市化が進む。琵琶湖大橋は県内の交通の要衝で東端にはリゾート施設が集積する。近年では、京都・大阪のベッドタウンとして人口が増加している。今年度より、すべての市民が住み慣れた地域で幸せに暮らせるよう健康づくりや生きがいづくりを柱とした「すこやかまちづくり行動プラン」の作成に取り組んでいる。
◆問い合わせ先:
守山市健康福祉部障害者自立支援課
〒524―0013 滋賀県守山市下之郷町592―1
守山市すこやかセンター内
TEL 077―582―1168
FAX 077―581―0203

▼守山市は、古くは、中山道の守山宿として栄え、今も交通の要衝として琵琶湖大橋がありますが、うまく自然と共生しながら発展してきた町との印象を持ちました。守山市の地域性や魅力についてお聞かせください。

守山市は、滋賀県のほぼ中央、野洲川沖積平野に位置し、琵琶湖に面した自然豊かな地域で、「ホタルが飛び交うまち」でありながら、化学・機械・繊維などの工場を誘致し、バランス良く工業化・都市化を進めています。うれしいことに、「都市データパック2010年版」では、「住みよさランキング総合評価」で、全国10位との評価をいただきました。実際、毎年1000人前後の人口増があり、子育てに適した地域として移り住んでいただけるのは誇りでもあります。

また、「市民が主役のまちづくり」を基本理念として、「ご近所づくり・長屋づくり」を合言葉に、「住みやすさ日本一」を目指しています。その住みやすさとは、最近出てきたゲーティド・コミュニティーといわれる高い塀とフェンスで囲われた安全・安心ではなく、マンションでも、「長屋のようなつきあいができる開かれた安心感」を目指すものです。監視カメラやセンサーに頼るのではなく、人と人との絆を作り出し、夜回りなど地域活動を応援してコミュニティーを再生していきたいと考えています。これが、守山ルネッサンス―再生―の意味です。

▼次に、市長は「高度な医療から在宅福祉のネットワーク」を謳(うた)っておられますが、福祉行政に対するビジョンをお願いします。

これは、私が「福祉政治」を目指すきっかけとなったことでもありますが、病院経営に携わっていた頃に、デンマーク研修の機会を得ました。日本は、ちょうど高齢化社会に突入し、悪名高い「老人病院での身体拘束」などが大きな社会問題となっていた頃です。デンマークでの基礎自治体の仕組みと現場ワーカーとしての女性たちの働きは、目を見張るものがありました。そして、それを支持する市民の声も「金持ちになりたければアメリカに渡ればいい。私たちは、高い税金を納めるが、それは公共の財布に預けるのであって、人生の節目に必要な社会サービスを受け取りながら安心して暮らしていける社会を望んでいるの」と、明快でした。まさにカルチャーショック。

市民のニーズに応えるサービス設計が柔軟にできる地方自治に魅せられ、こうしたまちづくりを地元の守山市で目指したいと考えたのが原点です。「住みやすさ日本一」にこだわるのは、こうした背景があります。幸い、守山市は、人口7万7000人、面積55平方キロメートルと、コンパクトでまとまりやすく、さまざまな改革がしやすい規模のまちなのです。

▼さて、滋賀県は、近江学園を創設された糸賀一雄先生の「この子らを世の光に」という福祉の思想でも有名な障害福祉実践の先進県ですが、障害のある市民たちへの地域生活支援についてお聞かせください。

まず、先ほどの「住みやすさ日本一」を目指すなかで、高齢者・障害者はもとより、すべての市民が健康でいきいきと、誇りと尊厳をもって住み慣れた地域で暮らせるようにと、「健康づくり」「生きがいづくり」を柱とした「すこやかまちづくり行動プラン」の策定に取り組み、全体の機運を高めています。また、「もりやま障害福祉プラン2009」では、「生活支援」「雇用・就労」「いきがいづくり」「教育・育成」「保健・医療」など各分野の充実を基本目標に掲げ、障害者の地域での自立と共生を進めています。

特に、平成17年に発達障害者支援法が施行され、本市でも「守山市発達支援センター」を開設し、早期発見、早期支援、発達段階に応じ、乳幼児から就労期までのライフステージにおいて一貫した支援に取り組んでいます。また、一般教育施策として小学校の低学年を30人程度学級とし、少人数教育で手厚くケアするなど、教育と福祉が連携して、地域の子どもたちを育てるように努力しています。おかげで、この数年で不登校の子どもたちの数が半減しました。このように、普遍的な施策と障害児への重点施策の整合性を考えるのも大事な視点であると思います。

さらに、居場所づくりの取り組みとしては、障害のある子どもたちの場合、夏休み期間の「サマーホリデーサービス事業」が盛んです。これは社会福祉法人に委託していますが、「手をつなぐ育成会」や地域ボランティアが中心になって運営し、工作・プール・レクリエーションなどに取り組んでいます。地元の中・高・大学生のボランティアが多く参加し、今年度は、そのボランティア活動を支援するコーディネーターも配置しました。また、この事業には市の新規採用職員も参加し、障害福祉の体験研修の一環としてよい汗をかいています。

精神障害の分野でも、患者家族会の皆さんが民家を借りてサロンを運営されています。この事業については、市民が自主的に取り組むまちづくり活動を応援する「市民提案型まちづくり支援事業」との位置づけで取り組んでいます。また、障害者ボランティア養成講座修了者が保健福祉センターを利用して、週1回の「メンタルスマイル」というサロン事業を実施しています。こうした事業を通して、障害者を地域で支えるインクルーシブな気風といったものが徐々にではありますが育ってきていると感じています。

▼就労支援については、以前に本誌において「滋賀県における働き・暮らし応援センターの取り組み―滋賀発!!雇用と福祉の統合を目指して!!」(2009年6月号)として県オリジナルな事業をご紹介いただきました。守山市での進展をお聞かせください。

「働く」ということは、単に収入を得るというだけでなく、社会参加や生きがいにもつながる重要な意味を持っています。私も失業の苦い経験があるのでよく理解しているつもりです。障害のある人が地域で安心して暮らしていくうえで、就労できる環境を整えるのはとても重要と考えています。残念ながら、法定雇用率未達成企業が多く存在し、障害者雇用が思うように進んでいないのが現実ですが、企業側の努力だけではなく、それを支える仕組みが必要と考えています。先進的な同センターの設置を後押ししたのが、滋賀県中小企業家同友会と聞いていますが、障害者関係6団体とともに滋賀県に働きかけ「障害者の『働きたい』を応援する滋賀共同宣言」を発表し、それがこの「働き・暮らし応援センター」事業のスタートにつながりました。

本市では、湖南地域(草津市・栗東市・守山市・野洲市)の広域事業として、平成20年6月に「湖南地域障害者働き・暮らし応援センター」をJR守山駅に隣接したビル内に開設し、どこからでも相談に訪れやすくなっています。就労支援、生活支援、相談支援、職場開拓、事業所支援、関係機関とのコーディネートなど、就労や職業生活の総合的な機能を担う拠点として取り組んでいます。ここでも、これまで相談の行き場のなかった発達障害のある人々やご家族が多く訪れているようです。

▼最後に、今後取り組んでいきたい障害者施策をお願いします。

ひとつは、障害者の健康づくりやスポーツ活動の充実です。「すこやかまちづくり行動プラン」の一環として、二次障害の予防や口腔衛生などについて、たとえば、市内の施設や団体の会合に出向き、健康教室を実施することも考えています。また、障害者スポーツについては、国・県・湖南地域などの単位で例年大会が開催されていますが、さらにすそ野を広げるためにスポーツ教室を身近なところで開催し、障害者自身の健康づくりや生きがいづくりにつなげていきたいと考えています。

もう一つは、居場所づくりの拡充です。身近な地域の中で気軽に立ち寄れ、半日なり過ごせるようなサロンがもっと増えればと考えています。さらに、就労が困難な在宅の重度心身障害者の日中活動の場として、手狭になってきた「こなん通園」の新施設整備を喫緊の課題として位置づけ、今年度から着手しはじめています。

ともあれ、「障害のある市民にとって住みやすい町は、みんなが住みやすい」というユニバーサルデザインの理念のもと、守山コミュニティーの再生を目指しています。


(インタビューを終えて)

全共闘世代として学生運動も経験された山田市長は、「現状のままでは、ほっとけない」という変革へのエネルギーを熟年になって「福祉政治(弱い者に味方する政治/困っている人が一人でも少なくなる政治)」に向けられたようだ。福祉サービス推進の責任主体が基礎自治体となり、大いに本領を発揮されている。職員には、徹底した現場主義で複雑化する市民のニーズに対応した仕組みづくりのできる政策立案のプロを目指せと檄を飛ばし、老人クラブに出かけては、「長屋づくり」で、コミュニティー再生を焚きつける。守山ルネッサンスのリーダーシップは、郷土愛に深く裏付けられたものと拝察した。