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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
地域移行―必要なバックアップはユニバーサルな支援で

田中正博

はじめに

地域移行を考え新法づくりに向けた提言の機会に、少し俯瞰(ふかん)した視点で地域移行をまとめてみる。まず、地域での暮らし全般で必要とされる支援全体を整理してみる。

1 地域での暮らしに 支援を求める状況

地域での暮らしに支援を求める状況を、ライフサイクルによって、家族との同居、グループホーム・ケアホームを用いての暮らし、一人暮らしに大別し、それぞれの枠組みにおいて必要と思われるサービスとその関連づけをイメージ化したのが図1、2である。

図1 地域生活に必要なサービスのイメージ
図1 地域生活に必要なサービスのイメージ拡大図・テキスト

図2 地域に求める支援
図2 地域に求める支援拡大図・テキスト

2 ライフサイクル別にみた支援のあり方

(1)―1.家族同居における支援の必要性

家族との同居で支援を必要とする状況は、次のようなタイミングにある。

1.緊急事態への対応については、文字通り突発的に生じる不測の事態に備えるものである。不安解消のためには、可能な限りの24時間の迅速な対応の見通しが必要である。

2.日常生活に必要となる時間保証については、個人差のある多様な暮らしの中で、必要さを測る物差しは作りにくい。基本は、家族が社会生活を営む上で必要な時間の保証である。

3.日常的に慢性化する介護の困難については、一般的には家族全体の加齢によって生じる慢性的な状況である。しかし若い世代でも、行動障害者や重症心身障害等支援度の高い障害状況であれば、過度な負担が蓄積しやすく慢性的な事態は早めに生じる。本人の変化によって支援が必要な状況も生じる。特に発達障害による思春期の本人の状態変化は、家族であるが故に対応しきれない事態になりやすい。望ましい支援は、本人の自立する時期を親亡き後の事情ではなく、本人にとって適切な自立の時期となるような環境を作り出していくことである。施設からの地域移行と同様の段取りで、この仕組みを整える必要がある。

以上の3つの課題を具体的に解決するには、ヘルパーやショートステイ、移動支援の組み合わせが重要である。また行動障害者や重症心身障害等には、専門性の高い支援が必要とされるが、それは日常に活(い)かす視点で整備していくことが最も重要である。

(1)―2.家族同居への支援

いざという時に支えとなる拠点、たとえば地域生活安心センター(仮称)で、個別対応を前提とし、施設などのショートステイで断られてしまう行動障害者や重症心身障害の方への対応を実施する。体調不良や精神的に不安定な時に一時的に家族から離れ、生活を立て直す機会も必要。特に行動障害などの二次障害により自宅で課題が生じた時、本人の障害特性に見合う支援を調整する。専門性を持って継続的に支援し自立した生活に向けてトレーニングを行う場所も必要で、言葉掛けだけで意味を理解しにくいコミュニケーション障害の知的や精神に障害のある方は、経験をすることで先々に見通しを持てる。そのための段階的な体験の場を環境として用意する配慮が必要である。特に、行動障害者や重症心身障害等の急激な環境変化が苦手な方は、小さな段階のきめ細やかな体験の場が必要であり、自立生活体験室を用意していく必要がある。

(2)グループ・ケアホームにおける支援

グループ・ケアホームにおける暮らしへのバックアップでは、障害者の地域生活を24時間365日にわたって支援することを、日常の支援体制でしか想定しておらず、専門性をもって継続的に行う支援や緊急時のバックアップについては十分な体制が用意されていない。また将来的に、自立した生活に向けてトレーニングを求める人がいるが、トレーニングする場所が非常に限られている。特に急激な生活環境の変化を苦手とする人(行動援護対象者、重症心身障害者)が利用するためには、段階的に体験を積んでいくことが必要である。

(3)一人暮らしにおける支援

一人暮らしに対する支援は、個々人の障害状況と生活環境によって必要な関わりはさまざまである。相談で応じて済むこともあれば、日常的な支援が必要な場合もある。身上監護面での金銭管理支援、健康管理支援、衛生面での配慮等とともに、企業、通所系施設等の社会的な関わりや、家族、地域住民等、本人にまつわるさまざまな関わりを調整する機能が求められる。金銭面でのトラブルや権利侵害の際に、権利擁護として活動してくれる総合相談支援、権利擁護センターと就労に伴う種々の相談に対応してくれる就業・生活支援センターやたまり場として仲間と出会う拠点が必要である。

また、就業時間後(アフター5)の余暇活動を支援してくれる地域活動支援センター1型は、精神障害者に向けて相談とたまり場をトワイライト対応しているイメージの事業等である。また体調不良や精神的に不安定な時など一時的に一人暮らしを中断し、生活を立て直す機会も必要である。

地域移行のキーワードで生み出すべき状況は、施設や病院からの受け皿としてだけでなく、ユニバーサルな支援ですべての人の暮らしをバックアップし、その安心感により生み出していく地域再生の営みである。それはいざという時に駆け込める24時間灯りのともる地域の拠点としての安心である。

(たなかまさひろ 全国地域生活支援ネットワーク)