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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年2月号

フォーラム2011

日本障害フォーラムセミナー
権利条約の批准に向けて~今何を!~

小椋武夫

13の障害者団体・関連団体で構成される日本障害フォーラム(JDF)はその設立以来、障害者権利条約の推進に民間の立場から取り組んでいます。

障害者権利条約は2008年5月に発効し、わが国では批准に向けて当事者参加による障害者制度改革が進められています。条約が高いレベルで実施され、すべての人の人権が保障される社会が実現できるよう、私たちはこの制度改革の動きを注視しています。そこでJDF企画委員会は、条約の批准に向けて今何をなすべきか、共に話し合う場として、昨年12月8日(水)に東京の中野サンプラザでJDF主催の全国セミナーの開催を企画しました。

ジュディ氏のビデオメッセージ

午前は米国国務省の国際障害者人権特別顧問のジュディ・ヒューマン氏によるビデオメッセージと、障がい者制度改革推進会議合同作業チームの各座長による最新レポートの報告が行われ、障害者基本法の改正に向けて盛り込むべき事項について説明がありました。

ジュディ・ヒューマン氏は障害分野におけるリーダーとして、また社会的に不利益を被る人たちのための市民活動家として国際的に知られています。メッセージでは、日本の障害者は世界の中で長い間誇るべきリーダーシップを発揮し、自立生活とは何か、障害者のエンパワメントのための支援活動を行ってきた。皆さんが連携して障害者の権利に関する運動を進展させてきたことで、自立生活センターの創設等に実を結んでいる。私たちの大統領も、障害者権利条約に関する責務を受け止めているとのことでした。

推進会議合同作業チームの報告

次に推進会議は、就労チームと医療チーム、障害児支援チームの3つの合同作業チームが構成されています。

就労チームからは、あらゆる種類の障害者への雇用義務の拡大等を障害者基本法に盛り込む、雇用率制度を中心とした障害者雇用制度の見直し、合理的配慮や必要な支援の提供を確保するための仕組み、就労支援に携わる人材の確保等を今後どのように調整するか、課題を残している。

医療チームからは、入院ニーズを十分に精査した上での適正な医療サービス提供体制を図ること、精神障害者の強制入院等の在り方、社会から隔離されることなく地域社会において自立した生活を営むため社会的入院等を解消するための体制整備、医療費用負担の在り方を審議している。

障害児支援チームからは、障害の早期発見・早期療育は医療・療育に偏向しており、障害のない子どもとの分離・選別につながると指摘される問題の解決、家族、保護者への支援や保護者相互のピアサポート等の出生直後から乳幼児期における相談、通園施設の専門機関としての機能の拡充、保育所等への巡回指導などを果たす機能等、療育支援体制の改善に向けた方策等の最新レポートの報告がありました。

パネルディスカッションと地域フォーラム活動報告

午後の部は「権利条約の批准に向けて~今何を!~」というテーマに基づき、参議院議員の谷博之氏、弁護士の大胡田誠氏、推進会議総合福祉部会長の佐藤久夫氏、JDF障害者権利条約小委員長の尾上浩二氏によるパネルディスカッション、4人の方からの地域フォーラム活動報告がありました。推進会議は制度改革のエンジン部隊であり、エンジンを動かすパワーが必要、具体的な法律の条文や関連法令の見直しで各省庁との調整をどう図っていくか、また各省庁にある既存の審議会との調整をどう図っていくか等多くの意見が出されました。

国会の動きについては、これまで取り組みの遅れてきた障害保健福祉制度、施策の短期・集中的な改革・拡充にはそれをけん引する政府の強い意志があり、民主党は、昨年6月29日の閣議決定に基づき障害者基本法の改正や新たな障害保健福祉制度の確立、皆さんから寄せられた各種の要望についても、関係省庁に順次の対応を進めている。今後とも政府との連携を強め、ご要望の実現に努める。23年度予算編成にも障害者の地域移行、地域生活支援のための緊急体制整備事業(要望額125億63百万円)を計画しており、必要不可欠な障害保健福祉関連予算の満額確保に向け全力を挙げると谷議員のお話がありました。

次に、権利条約の推進で自治体における条例作り、現地で起こった課題にどう取り組むか、積極的に活動している地域フォーラムは11地域あり、今回は沖縄、栃木、青森、富山の4人の方に指定発言者として活動の現状を報告していただきました。

特に、富山は、全国的に展開している全日本ろうあ連盟の『WE LOVEコミュニケーション』パンフの30万部普及運動についても言及され、情報・コミュニケーション保障の法制化と手話関連事業の公的制度の実現の必要性を話されました。

基本法改正にあたって

障害者施策全体を見直すための障害者基本法の改正に向けて、第二次意見では撤廃すべき障害者への差別の規定を現行法より大幅に拡充するなどを盛り込んでいます。改正される内容は、今後の障害者施策の抜本的な改革の基礎となる法律と位置づけられると思います。また、改正される障害者基本法が真に障害者施策をリードするものとなるように、国や地方公共団体の責務を定めるとし、日常生活の妨げとなる社会設備の不備や、障害者への配慮の欠如についても広く差別と規定し、国に対しては、差別禁止の法整備や社会的な啓発を求める等障害者差別禁止法を裁判規範性のある実定法としていくためには、その理念法である障害者基本法の改正の内容が極めて重要です。

しかし、政治主導の改革を目指していた国内政治である国会が混乱していて、世論がすでにこの新しい政権について心配を募らせています。3年後の平成25年に自立支援法廃止、新制度でどのような新しい制度ができるのかと期待していましたが、民主党内のドタバタで政治主導が薄れ、障害者のために行われる諸々の施策が官僚によって企画立案され、その採択・決定の過程でも官僚の力が非常に強く影響します。その結果、障害者の声が施策に反映されない問題や抜本的な基本法改正にならないこと、差別禁止法整備ができなくなる恐れがあります。今後の政局の動向によっては、障害者制度改革が頓挫する可能性が出てきます。

そこで後手に回らないように私たちの強い運動の力で、制度改革を推進し、障害者基本法改正、障害者差別禁止法の制定を促進し、障害者総合福祉法の制定を確実なものにする必要があります。障害者の人権と社会参加による自立の確立を目指して、官僚主導の統治構造に組み込まれないよう、権利性を担保した障害者の制度改革を強力に推進していくために国民の理解を得て、国民の支援を受ける必要があります。

障害者の活動にとってはまだ多くの壁がありますが、障害者たちだけで問題を抱えていては解決できません。仲間同士で助け合ってこそ解決できますので、国民一人ひとりに呼び掛けて仲間の輪を増やしてパワーアップを図り、国会、各省庁に私たちの声を届けて、社会を変えていきたいと思います。

おわりに

このセミナーには全国から約260人が集まり、今後の権利条約の批准に向けて、国民への普及啓発運動と障害者基本法の改正に取り組むべき連携と協力が地域に求められることを再確認しました。

無事に終わったセミナーを振り返り課題も見えてきました。地方の活性化を早急に改善するとともに、地域間の格差もなくす必要がある。厚労省、文科省の課長クラス担当者に出席をお願いしたが、いらしていただけなかった。地方から参加していただいたJDFの関係者から十分に意見を聞く時間が取れなかった。米国からのビデオレターと同じく今後とも国連、国際保健機関、先に権利条約を批准した国の状況も聞きたい。また参加できない人のためにITネットワークを活用すれば多くの方が見られること等、次回はもっと工夫してみんなが納得できるセミナーを作ってみたいと思います。多くのご参加をいただき本当にありがとうございました。

(おぐらたけお JDF企画委員長)