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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年2月号

ほんの森

見えないけれど観えるもの

藤井克徳著

評者 三田優子

やどかり出版
〒337―0026
さいたま市見沼区染谷1177―4
定価(本体2,000円+税)
TEL 048―680―1891
FAX 048―680―1894

見えないけれど、観えるもの……この哲学的なタイトルに一瞬考える。藤井さんご自身が視力を失われていることにかけて、読者に本質を見よ、というメッセージを投げかけようとしているのかな、と思いながらも、あまり深く考えず本書を手にとった。

短い文章(2、3ページ)が中心で、どこからでも読める編集になっていることもあり、ペラペラとページをめくりながら、気づくと一気に読み終えていた。257ページもあったと後で分かったが、読後感は「読んだ」というより、文章を通して、走馬灯のようにいくつもの映像を見せていただいた、というのが率直なものだ。不思議な感覚である。

文章は明快で分かりやすい。辛口批評も少なくないが、博学才英の藤井さんならではの文章展開で、漱石や華岡青洲、トルストイといった著名人、映画や詩句などが折々に登場するので読みやすいのである。

しかし、何より私に映像を見せてくださったのは、激動の障害者福祉の節目節目に関する文章の中に、障害のある人たちを見つめながら、常に立ち位置が変わらず、挑戦し続けてきた藤井さんの姿が強烈にあったからだと思う。

何度も「裏切られた」「期待したい」「がっかり」「今こそ」という経験を通して、それでも「あきらめないこと」「ぶれないこと」「媚びないこと」を貫いてきたその証しが、その時々に綴られた文章の中にあふれているのである。若輩者の私自身は、その一場面に過ぎないが、「自分はあのとき、どんな立ち位置だっただろう、何を思っていたのだろう」と、しばし自分の立ち位置を振り返らされた。

そして、20年も前の文章の中に「今もまさに同じ状況」と言わざるを得ない障害者福祉の現状を発見しながら、私を含め、読者自身が何をすべきか、どこへ向かうべきかを個々問われる。というのもここに書かれていることは、過去の記録というよりは現在進行形の、障害者からの問いなのだと感じるからだ。

さらに、最後の一文のタイトルどおり、「出会いが時代を創る」ことの意味は大きい。まさに障害者福祉を取り巻く情勢が大きく変わろうとしている今、この本に出会った読者がつながって、障害者とともに人垣を作りながら、大切なものをともに「観よう」と勧め、その「観えるもの」への期待も綴られている、そんな一冊であった。

(みたゆうこ 大阪府立大学准教授)