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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年3月号

時代を読む17

歌は心と心のかけはし
―アジア・太平洋に広がる“わたぼうし”のネットワーク

たんぽぽの家は、障害のある人たちが芸術文化活動をとおして、自己を表現し、社会的自立を果たすために、国内はもとより海外へネットワークを広げ活動を展開している。一人ひとりが誇りをもって生きることのできる社会のあり方、文化のあり方をさまざまな活動をとおして提案している。

その一つに「わたぼうし音楽祭」がある。この音楽祭は、全国の障害のある人たちが書いた詩をメロディーにのせて歌い、いのちにやさしい社会をつくろうと、1976年に古都奈良で生まれた。障害のある人たちが自立をめざす「たんぽぽの家」づくり運動の一環としてはじめたキャンペーンの一つである。

ここで生まれた“いのちの歌”は、障害のある人たちの夢や希望を包み込んで「わたぼうしコンサート」として旅立ち、毎年40か所を超える各地で開催している。また、こうした思いをアジアの人々と共有しようと、1991年から2年に1度、アジア各地で「アジアわたぼうし音楽祭」を開催し、シンガポール、ソウル、上海、バンコク、奈良へと受け継がれていった。

2001年にその思いがアジア・太平洋地域へと広がり、高雄、ブリスベン、上海、ジョホールバル、スウォン、そして2011年11月、タイ・バンコクで「アジア・太平洋わたぼうし音楽祭2011」を開催する計画だ。“わたぼうし”の小さな種は、いたるところできれいな花を咲かせている。

“わたぼうし”が、今日までつづけてくることができたのは、“わたぼうし”が人々の魂から生まれ、それをみんなで支えていったからである。障害のある人もない人もいっしょになってつくりあげた文化は、世界各地で共感を呼び起こしている。さらに、新しい視点で障害者アートをとらえる「エイブルアート(可能性の芸術)」といった、新しい芸術運動を生み出している。

近年、ますます人間が人間らしく生きられなくなってきている。信じられない事件や出来事が多発し、希望をもつこと、夢を語ること、何かを信じることさえもむずかしい時代である。こんな時にこそ人間の魂の叫びを歌い継ぐことに意味があるように思う。

音楽の力で世界を変える。このような夢のある仕事を障害のある人たちといっしょにできることを幸福に思う。

(酒井靖 財団法人たんぽぽの家)