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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年3月号

地域生活移行支援予算を見る

田中正博

平成23年度予算に関しては、地域生活移行の支援が、新たに二つの話題により打ち出され明るい兆しとなった。一つは、平成22年12月10日に公布された障害者自立支援法等の一部改正法(議員立法)、いわゆるつなぎ法案によるもの。もう一つは、「元気な日本復活特別枠」政策コンテストによるものである。

つなぎ法案では、平成23年10月の施行予定で、グループホーム・ケアホームの家賃補助が、18億円。重度視覚障害者の移動支援(同行援護)についてが、9億円となっている。家賃補助については、自立支援給付が始まった当初からの強い要望であった。個別の給付の位置づけが、本人の事情ではなく、利用する施設機能によって足並みに違いが生じる大問題であった。

具体的には、入所施設では、補足給付として利用者の手元に生活費用が残る仕組みが用意されたが、地域でホームを活用しての暮らしには、グループホームでもケアホームであっても用意されなかった。「地域での暮らしには支援無し。」というマイナスのメッセージが地域移行の促進を阻んだ。家賃補助でようやく一歩が踏み出せたが、入所施設と足並みをそろえる点では、「1万円」では十分とは言えない。家賃としてだけとらえると、地域によってはこの額を超えない家賃設定の実態もあるが、もともとは入所施設で家賃は生じない。その上で補足給付が、生活費として2万4千円を手元に届ける。この視点からも、まだ施設利用と地域支援には大きな開きがある。

しかしながら今回の家賃補助の創設は、地域の基盤整備に向けて大きな一歩となった。今後さらに格差を埋めていく手だてが、順次用意されていくことに強く期待をしている。

また、同行援護の創設も大きな躍進といえる。社会参加のための移動支援については、個別給付の際、障害の重いとされる方で支援が必要な方への対応として、身体障害、知的・精神障害、共に介護給付として個別に用意される事情があった。ただし身体障害の場合、四肢の障害で支援が必要であれば、重度訪問介護が適用できるが、視覚障害の方には、全く見えない状態であっても個別給付が適用されない割り引かれがあった。同行援護の対象の範囲についてはまだ具体的になってはいないが、市町村格差にあえいでいた多くの方の社会参加が促進されると期待している。

また副次的には、個別給付化により地域生活支援事業の移動支援の財政負担が軽くなる見込みがあり、他の障害の方への地域生活支援事業の底上げについても期待される。

この2つの予算については、法案成立の時期が予算案の検討を終えた時期であったため、当初は23年度の予算成立の見込みは危ぶまれた。仮に23年度予算実施が見込めるようになっても24年1月からではないかと心配された。結果として関係各位の努力により、23年10月1日の施行予定が予算案提示のトップに書き込まれる状況になったことは、法案成立を意味あるものとする上でとても重要であり、関係者の大きな喜びにつながった。

特別枠(政策コンテスト)では、「障害者の地域移行・地域支援のための緊急体制整備事業」として100億円が盛り込まれた。

これは、地域生活支援事業が予算の一律削減の波をさけきれず、これによって目減りした分を寄せ集め特化したと考えられる。地域格差が激しい中、地域生活支援事業予算の削減への批判は避け難い点であるが、右肩下がりの予算削減の荒波に工夫を持って対応したとも言える。経緯はどうあれ、事業内容としては、脆弱な障害福祉の地域支援の必要な基盤整備に向けて、政府の提唱する新しい公共の具体策として、安心・安全をキーワードにした地域再生のきっかけになるのではと期待する。

地域生活支援をシステム化するには、相談事業以外に中核となる機能として、暮らしを総合的にバックアップするセンター機能は必要である。今回は全国で100か所のモデル事業的な展開のため、さまざまな展開が予測されるが、地域支援のバックアップとしてのセンター機能の役割内容が、実践を通して明確になることが期待でき、地域全体で障害者の暮らしを支える視点を、自治体ごとに強化する要になると期待している。地域によっては、高齢者の地域包括支援センターとの連携も可能ではないかと考えられ、これも大いに期待している。

さらには、地域で安心して暮らすための地域支援策を盛り込んだプラン作成が求められるため、支給決定時に行政と相談業務との連携が不可欠となる。個別支援計画の策定の必要性はより明確になり、自立支援協議会の役割と機能の活性化につながると期待している。

また、この流れにおいて、地域移行の基盤整備となるグループホーム・ケアホームの住まいの場の確保が100億円の規模で盛り込まれた。ただ、いま現在も高齢化する家族同居家庭においては、新たな住まいの確保は家庭からの地域移行として非常に重要であり、かつ喫緊の課題であるため、早急な整備が求められている。有効に活用されることを期待している。

地域で生じる問題は、一つの機能で解消されることはない。個別給付と相談からサービス事業所への斡旋調整の中では、権利擁護の視点が欠かせない。24年度から始まる相談事業の充実に向けた展開の中でしっかりと確立しなければならない柱である。課題を解消するためには、圏域内の市町村、関係機関、(児童相談所、保健所、公共職業安定所等)と地域の資源(施設等)が協働し、公共性の高い事業であることの認識が不可欠である。

その際、最も重要なのは、個のニーズの把握でありそれに応えようとする姿勢である。

(たなかまさひろ NPO法人全国地域生活支援ネットワーク代表理事)