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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年3月号

列島縦断ネットワーキング【佐賀】

障がいのある人もない人も共に働く
福祉牧場:三瀬ルベール牧場どんぐり村

片渕賢司

九州の中核都市、福岡市・天神から車で1時間弱、佐賀市三瀬(みつせ)村の約85万平方メートル(東京ドーム約24個分)の敷地に広がる「三瀬ルベール牧場どんぐり村」。園内で働く約100人のスタッフのうち、知的障害者を中心に障害者が半分ほどの53人を占めることに訪れる来場者が気付くことは少ない。

どんぐり村のはじまりと理事長のおもい

「三瀬ルベール牧場どんぐり村」は旧三瀬村(合併し現在は佐賀市)の地域おこしに協力する形で1988年、ブランド鶏「みつせ鶏」などを生産・販売する食品会社(株)ヨコオ(本社:佐賀県鳥栖市)の事業部としてオープンした。南フランスの田舎村をイメージしたテーマパークとして、開園以来、約700万人のお客様にご来場いただいている。開園当時、社長であったのが横尾英彦理事長(現社会福祉法人若楠理事長・(株)ヨコオ会長)であった。

理事長は、自身の長女が重度の障害者だったことをきっかけに1977年に鳥栖市に「社会福祉法人若楠(わかくす)」を設立、重症心身障害児施設「若楠療育園」をはじめ、福祉事業を展開してきた。

理事長がある日、どんぐり村で楽しそうに遊ぶ障害のある人たちを見て、「ここはむしろ障害者が楽しく働ける場所ではないか」と思い立った。2000年に同法人の「青葉園」(知的障害者通所・入所授産施設:鳥栖市)の障害者(以下、利用者という)5人が事業委託という形で働きはじめると、自分の居場所を見つけたように障害のある人に笑顔が出て、たくましくなった。

2005年4月、佐賀県障害福祉課とも論議を重ね、どんぐり村内に同法人が経営する「知的障害者通所授産施設どんぐり村」(定員30人)を開設した。同時期に、(株)ヨコオから独立する形で(株)どんぐり村が設立され、どんぐり村を共同運営する形でスタートした。

どんぐり村とは…

今年で24年目を迎える「三瀬ルベール牧場どんぐり村」は、標高400~450メートルの緑の杉山に囲まれた三瀬高原に位置し、自然に親しみ動物(ジャージー牛、馬、ヤギ、羊、小動物等)とふれあえる人間味豊かな世界を提供している。園内で採れる濃厚なジャージー牛乳やこれを使用したソフトクリーム、ジャンボシュークリーム、ヨーグルトはどんぐり村の人気商品である。みつせ鶏のジャンボ焼き鳥も名物で多くのお客様に喜ばれている。

また、広大な農園では、さつまいも、じゃがいも、玉ねぎなどを栽培し、養鶏(卵鶏・肉鶏)も行っている。園内で生産されたものは、来場者への体験イベントである「生キャラメル作り体験」「芋ほり体験」などに提供している。またレストラン、ホテル、パン屋では食材として、ショップではお土産品としても販売している。園内には、パン屋、ショップ、レストラン、バーベキューハウス、軽食、ホテル、牛舎、ミルクプラント、乗馬等があり、ロードトレインもたくさんのお客様を乗せて園内を周回している。

どんぐり村で働くことの意味…

2005年の福祉施設どんぐり村の開設当初の利用者は16人。徐々に利用者数も増え、園内での仕事も増やしていった。6年目の今年、利用契約者数53人(1日平均利用者数35人)の大所帯となった。パンを焼いたり、ホテルの部屋のシーツ替えをしたり、ショップで商品の陳列をしたり、動物のお世話をしたり、園内の環境整備をしたり、仕事は多種に及ぶ。

一般の障害者就労支援事業所と大きく違うところは、年間約20万人のお客様が来られるどんぐり村という環境で、日々就労訓練を行っているということである。このような環境では、製造・接客等においてお客様を通して教えていただくことも多い。「園内のことを尋ねたのに応答がうまく返ってこなかった」など、開園当初はお客様から苦情や要望をいただいたことが時折あった。そこで、挨拶を徹底することと分からない場合の対応等を利用者の朝礼の場で何度も確認した。

「生きることは働くこと学ぶこと」、「そして世の中とつながること」、どんぐり村には、メリット・デメリットを含めて、障害のある人の「生きていくヒント」がたくさんある。パン工房で働く男性利用者は、「自分が焼いたパンを工房の前のラウンジでおいしそうに食べてくれている。食べていただいている現場を直接見られるのは幸せなことだ。忙しくて大変な時もあるけど、すごく充実しています」と笑顔で語ってくれている。

「知的障害者通所授産施設どんぐり村」6年のあゆみ

2005年に三瀬ルベール牧場どんぐり村に開設した「知的障害者通所授産施設どんぐり村」は、園内での就労訓練を基本としつつ、園外にも活動の広がりをつくるため「佐賀県授産施設協議会」や「佐賀中部障がい者ふくしネット」、「観光協会」等に加盟している。初年度には佐賀県庁地下売店での販売に参加、3年目には「さがチャレンジドショップ」(佐賀市役所での障害者就労支援事業所の販売会)での販売にも参加し、県内の他の障害者就労支援事業所とともに販売を通した地域活動・ネットワークを構築・展開してきた。

現在、年間約250日は地域イベントや定期の道の駅等での販売を行い、5年目の2009年には、県外(福岡市早良区内)での週1回(水曜日)の外販も始まった。2010年12月には、JKAの助成金をいただき待望の移動販売車も導入した。

この間、福祉施設どんぐり村を知ってもらうため、園内で佐賀県・福岡県内の障害者就労支援事業所(約30事業所)の商品の展示・販売やイベントの開催を手がけた。どんぐり村での授産商品の年間売上も現在は約400万円にものぼる。

また、施設の視察も積極的に受け入れを行い、2010年度は約3千人(6年間で約1万人)がどんぐり村を訪れた。視察者の半数は子ども・民生委員で、後の半数が特別支援学校の生徒や先生、障害者就労支援事業所である。

園内の作業種目も年々増やし、2006年には夏季限定の「かぶとむしの森」をオープンさせ、2007年には鶏卵事業の開始、2008年には養鶏(肉鶏)事業も展開してきた。また、外販の伸びもあり、どんぐり村全体で約1億円の授産収入があがるようになった。利用者工賃は現在、1人月平均2万6千円程度であるが、毎年、1千円の工賃アップを目標に利用者・職員一同がんばっている。

利用者の外部への就職も6年間で7人となり、現在も6人が定着している。

今後のどんぐり村の展望

2011年4月より、これまで6年間、(株)どんぐり村と共同運営してきた「三瀬ルベール牧場どんぐり村」を知的障害者通所授産施設どんぐり村で全体経営・運営することとなり、現在その準備に追われている。(株)どんぐり村はこれまでの経験とノウハウを活かし、引き続き運営会社として業務を受託する。

今後の福祉面の取り組みとして、本年3月より、障害児(者)向けに「乗馬セラピー」を開始予定である。また、移動販売車導入により福岡市内への販路の拡大も行い、将来的には地元も含めて高齢者世帯・団地への買い物サービス、また、弁当の配食サービスも検討しており、地域・高齢者福祉に寄与していきたいと考えている。

三瀬ルベール牧場どんぐり村が「おもてなしの心で世の中とつながる村」、「学びたい人が集まる村」、「地域とつながっていく村」、そして「障害のある人もない人も共に働く村」として認めていただけるよう、今後も多くのことに前向きにチャレンジしていきたいと思う。

(かたふちけんじ 社会福祉法人若楠、どんぐり村園長)