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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年6月号

ワールドナウ

アジアに広がる本人活動
タイ、ミャンマーの活動

波多野耕

2009年にタイ、そして2010年はミャンマーに知的障がい当事者の会(本人活動団体)が相次いで設立されました。この2つの会の設立には、日本の本人活動団体のリーダーたちの活躍とそれを支えるJICA(国際協力機構)、そしてアジア太平洋障がい者センター(APCD)がありました。

1 APCDプロジェクト

APCDは、2002年8月にアジア太平洋地域での障がい者のエンパワメントと社会のバリアフリー化を目指し、タイ政府とJICAおよび日本政府の共同事業として始まったプロジェクトです。

APCDの施設はタイのバンコク市内にあり、バリアフリーの宿泊施設も併設された障がい者のための研修センターです。知的障がい者の分野は、プロジェクト後半5年のフェーズ2がスタートした2008年から本格的に始まりました。

2 タイ、ダオルアンの設立

2009年3月に、日本の本人活動家として函館いかす会の山本修さんが短期専門家として派遣されました。この時のAPCDのワークショップによって、タイ初の知的障がい・自閉症当事者の活動団体(以下、本人の会)「ダオルアン」が結成されました。

このダオルアンの結成は、2008年にJICAの専門家として、初めて知的障がい当事者(以下、本人)として神奈川県の奈良崎真弓さんがAPCDに派遣されたことがきっかけでした。その後、タイの本人2人と家族・支援者4人の来日や、第2回の本人活動の専門家としてトゥモローくしろの杉澤哲哉さんが派遣されるなど、本人自らが「本人活動」の大切さを広めてきた地道な活動が続けられてきました。

ダオルアン結成後の2009年8月にもダオルアンの本人3人、支援者2人が来日し、日本の本人活動を研修する機会がJICAによって企画されました。

日本での研修は、北海道手をつなぐ育成会の本人大会への参加、本人の会「トゥモローくしろ」のメンバーとの交流、情報交換、釧路地方の福祉施設視察を行いました。研修期間中は毎晩、ダオルアンのメンバーでミーティングを行い「本人活動」について話し合っていました。

2010年2月のミャンマーでのAPCDプロジェクトは、日本の本人活動家としてトゥモローくしろの杉澤哲哉さんとダオルアン副会長のソムさんの2人を中心に、本人向けのワークショップを企画しました。筆者はダオルアンの結成と北海道研修、そしてミャンマーでのプロジェクトも共に参加しており、ダオルアンが力をつけていく様子を身近に感じることができました。

3 ミャンマーでのワークショップ

ミャンマーの本人向けワークショップは、日本とタイの本人2人がファシリテーターとして参加し、筆者とタイのアラヤさん(ダオルアン支援者)が支援という形で参加しました。ソムさんとアラヤさんは北海道研修にも参加しており、グループワークの打ち合わせも、通訳を介してではありますがスムーズに進められました。「ミャンマーの本人の参加者は18歳以上の人であること」、「本人活動は初めて参加すること」、「特別支援学校の卒業生であるが就職がないため、そのまま継続して学校に来ていること」などの情報がありました。会場はヤンゴンの特別支援学校です。

打ち合わせでは、まず、ミャンマーの本人たちがリラックスして表現できる環境を作ることを第一の目標にすることを確認しました。そのために自己紹介の工夫が必要であることや、アイスブレイクにタイの手遊びをソムさんが行うことなどが決まりました。ソムさんのアイデアで自己紹介も音楽を使った楽しい企画になりました。

初日は開会式の後、本人、家族、支援者全員が参加するなか、杉澤さんのプレゼンテーションから始まりました。自分の暮らしや日本の福祉制度、本人活動のメリットなど本人の視点からの報告でした。全大会が終わった後、家族・支援者と本人とに分かれてそれぞれのグループワークが始まりました。

本人向けのグループワークは、ソムさんのアイデアで輪になって椅子に座り、音楽をかけながらボールを回して、音楽が止まった時にボールを持っていた人が自己紹介するという方法をとりました。

音楽のスイッチは筆者が担当し、発言しやすいタイプの人や杉澤さん、ソムさんから当たるように配慮しました。ボールを回す緊張とドキドキ感から、グループワークのスタートであったにもかかわらず大いに盛り上がりました。名前と得意なことや好きなこと、そして苦手なことや嫌いなことを発表していきました。

内気な人はミャンマーの支援者がフォローすることにより全員が自己紹介を行うことができました。その後、ソムさんからタイの手遊びの紹介があり、みんなで歌に合わせて手遊びをしました。

2日目はミャンマーの支援者が準備していた「私の夢」と題して絵を描いて、それをもとに発表するワークショップを行いました。

午前の最後には、ソムさんがパワーポイントを使い、写真とともにダオルアンの活動紹介を行いました。ダオルアンの目的やルールの説明の後、具体的な活動としてチャリティーイベントの参加、バスに乗っての王宮見学、新年会でのプレゼント交換やダンスなどが紹介されました。毎月ミーティングも行われています。ソムさんの報告の後、ミャンマーの本人たちから多くの質問がでました。質問以外にも自分たちの仕事や生活のことなどが話され、たくさんの意見交換ができました。

4 ユニティの結成

2日目の午後は「セルフアドボカシー(本人活動)とは何か?」と題して、最後のワークショップが始まりました。この司会は、杉澤さんとソムさんの2人で行いました。このワークショップについては杉澤さんが後述します。

5 ユニティ設立の経緯(トゥモローくしろ 杉澤哲哉(すぎさわてつや))

2010年2月17日にミャンマーに「ユニティ」という本人の会が設立されました。その経緯とは、同日の午後に私とタイの本人とで、本人活動のことを話したところから始まりました。

本人活動をどうやって始めたか、どうして本人活動が必要なのか、どんな活動をしているかを中心に話をし、その後に、私からミャンマーの本人たちへ質問をしました。

質問の内容は、好きなこともしくは趣味はなんですか、楽しいと思うことはなんですか、というふたつの質問でした。

好きなこと、もしくは趣味はなんですかという質問では、絵を描くのが好きという答えが多く、楽しいと思うことはなんですかという質問では、友達と一緒にいる時、みんなと一緒にいる時という意見が多く出ていました。

この意見を聞いたうえで私から「好きなことをみんなで一緒に行えるグループを作って、活動してみてはどうですか」と聞いたところ、ぜひグループを作って活動したいと言ったのでグループを作るための手順を教えました。

その内容は、1.グループの名前を決める、2.リーダーを決める、3.参加するメンバーを決める、4.支援者を決める、5.活動内容を考えるの全5項目です。

その後、ミャンマーの本人たちだけで話し合って決めるように言いました。その結果、グループの名前はユニティ、リーダーが1人、副リーダーが1人、メンバーが15人、支援者が8人、活動内容は、絵を描いてそれを活動資金に変えることです。そして、これからメンバーを増やしたいし、支援者も知り合いに声をかければ引き受けてくれる人もいると思うので増えると思うと言っていました。

今後会う機会があり、私に望むことがあれば、できるかぎり意見を出してあげたいと思います。

(はたのこう NPO法人地域生活支援ネットワークサロン)