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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年7月号

復興・新生への提言
陸前高田市の再生・復興計画
―市民参加を基本に―

戸羽太

陸前高田市は、岩手県の東南端にあり、三陸海岸の南玄関口として、大船渡市、住田町、一関市、宮城県気仙沼市に接する県際に位置しています。気候は海洋性の温暖な気候であり、海、山、川の自然に恵まれた過ごしやすいところといわれています。

また、リアス式海岸とその中にあってはまれな2.2キロメートルに渡る砂浜が広がり、およそ7万本の松林とともに白砂青松をうたわれ日本百景ともなっている名勝「高田松原」を有する、観光と農林水産業を中心とする人口2万4千人余の海沿いの「まち」であります。

今回の東日本大震災は、この「まち」を直撃しました。M9の地震と10メートルを超えたといわれる大津波が襲来し壊滅的な被害を受けました。「高田松原」の7万本の松は、1本を残し消え去り、2.2キロメートルの砂浜は、地盤の沈下とともに海の中に消えてしまいました。

津波は、7キロメートルも河川をさかのぼり市街地や商業、観光施設、産業施設などをのみ込み、後にはガレキの山ばかりが残るという惨状となりました。先人たちから代々受け継ぎ、築き上げてきた歴史的文化的財産の多くが失われました。

同時に、1,500人を超えるかけがえのない尊い生命が奪われ、3か月を経過した今なお多くの身元不明、行方不明の方々がいるという傷ましい状況となっています。

地震・津波の直接的な被害も甚大でありましたが、それ以降の避難生活も過酷なものであり、3か月を経過した今も一部で継続しています。多くの肉親や友人を失った悲しみを抱えながら、学校、保育所、医療機関、介護施設などの多くも利用不能、電気や水道などのライフラインも失われるなど、日常生活の必需品は、支援物資に頼るほかないという日々が続きました。

こうした生活は、特に心身に障がいをお持ちの方とその家族には、非常に大きな負担となっていると思われます。

市内に7か所あった知的・精神障がい者向けのグループホーム(うち1か所は整備中)のすべてが流失し、就労施設も閉鎖となるなど生活を送る場が失われました。被災した自宅へも帰ることができず、避難所での共同生活も困難と思われた利用者は、親施設へと一時避難しましたが、食糧、物資とも十分ではありませんでした。施設側もスタッフの多くが被災者であるという中で、十分なお世話ができる状況ではなく、利用者はもとより施設職員の皆さんのご苦労も大変なものであったと伺っております。

一方では、大災害を体験したことによるフラッシュバックや苦痛、ストレスなどを発症要因とする「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」や将来への不安、孤独などから「うつ」症状の発生が懸念されるところであります。

市においては、庁舎とともに職員の3分の1を失い、行政機能が危機的な状況となったことから、岩手県をはじめとする他自治体の支援を受けながら行政事務を執り進めております。

また、焦眉の課題である避難者の皆さんの住居の確保について取り組みを進め7月には、当初の入居希望者すべてが入居できる見通しとなりました。

さらに、医療・保健・福祉の各分野においても保育所、学校の再開をはじめ、全国から支援として派遣された医師や看護師、保健師と地元の医療関係者などで構成する保健・医療・福祉チームによる医療拠点施設の整備や全被災者訪問の実施による実態調査、個別支援の実施などの取り組みを実施してまいりました。

今後の取り組みといたしましては、県立高田病院の仮設診療所の設置、各地の精神科医療の専門家を中心とするメンタルケアの支援チームである「こころのケアチーム」と連携しての被災者に対するメンタルケアの実施、自殺予防対策事業の実施などを予定しています。

災害からの立ち上がり段階といたしましては、必要性の高いものや体制が整ったものから順次取り組みを進めているところでありますが、これだけではあまりに多くのものを失い、先の希望が見えなくなっている市民にとっては、復興への意欲を喚起するものとはならないと思っています。

ガレキの山の光景が広がるという現実の中にあっても未来の自分が見えてくるような計画が必要であると考えています。

こうしたことから、再生・復興計画の策定にあたっては、少子・高齢化などの陸前高田市が抱える根本的な課題や地場産業の振興、東京電力福島第一原発事故発生以来問われているエネルギー・環境問題などの地球的な課題への取り組みなど、本市を取り巻く状況の変化への対応とともに、未曾有の大震災からの打撃を克服し、市が継続的に発展してゆくために、次の6つの基本的視点に立って進めたいと考えています。

1 津波防災、減災を目指す計画づくり

津波に強い防潮堤の整備、防災計画の再整備、救援、救護体制の整備など、災害に強い安全なまちづくり

2 市街地を復興する計画づくり

防災性や利便性を考慮した土地利用の創出、災害時のみならず市民生活や経済活動にとっても快適で魅力ある都市空間、都市機能を創出するまちづくり

3 市民の暮らしを再興する計画づくり

住宅、学校、病院等の医療施設の再建をはじめ、教育、保健、医療、介護・福祉サービスの回復など、安定した市民の暮らしづくり

4 地域産業を復興する計画づくり

農業や水産業の基幹産業、水産加工などの地場産業、宿泊施設や観光産業、商業など、雇用の場の確保や産業基盤の早期復興と新規の企業立地

5 再生可能エネルギーの活用

太陽光や太陽熱、バイオ燃料など、大規模災害における活用や地球環境にやさしいエネルギーの活用

6 協働のまちづくりの推進

地域のコミュニティーを再生し、市民・事業者・市の役割分担のもと、地域の特性やコミュニティー活動を生かした協働のまちづくりの推進

これらを基本的な視点として取り組み、計画の策定にあたっては震災復興計画検討委員会を設置し、市民に対して意向調査や説明会を行い、意見を公募するなど市民参加を基本とした計画づくりを進めたいと考えています。

また、国県の復興計画も見据えながらも、陸前高田市固有の課題については主体的に取り組み、国県についても理解と支援を得ながら進めたいと考えています。

障がい福祉施策の取り組みにつきましてもこうした計画の策定の中で、障がいのある方、ない方を隔てることなく、共に手を携え共同での計画策定となるようにと考えております。

これまで、社会の中で、障がいへの理解の不十分さや施設整備をはじめとする環境整備の不十分さから、障がいのある方をハンディキャップをもった人間として特別視する傾向がありました。今後は、障がい者にやさしいまちづくりという「誰もが安心して暮らせるまちづくり」というテーマの中で、公平や平等の意識を醸成していかなければならないと考えています。これは、障がいのある方への配慮を止めるということでは決してなく、共に障がいがあることを意識しないで暮らすことのできる社会をつくっていこうということです。

日々の生活の中でバリアフリーの推進、共に助け合う精神の醸成により、障がいのある方もない方も障がいを意識せずに共に暮らせるまちをつくろうということであります。

市といたしましては、昭和30年の市制施行以来、55年の時間をかけて「陸前高田市」を築いてまいりました。今回の災害は、自然の力の大きさを実感させられましたが、同時に、自治体を持続継続していくためには自治体機能を保全することの重要性についても実感しております。

安全で安心な「まちをつくる」ことが、将来を考えるともっとも重要な課題であると実感しているところであります。

陸前高田市の復興への取り組みは、全国から注目を寄せられていることから、陸前高田市らしい姿で、必ず復興を成し遂げたいと考えております。このことが、支援をいただいた全国の方々への何よりの恩返しであり、感謝の意を表すことになると考えています。

陸前高田市の復興を目指してがんばります。

(とばふとし 陸前高田市長)